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31 ヒトのよう


 師匠の店を出た後、そのまま一直線に東門へ行き、アセヴィルを探す。

 幸いにして、少し見渡しただけでアセヴィルは見つけることができ、あとはスヴァさんを待つのみとなった。


「イズホ、因みに何か貰ったりしたか?」

「ん? うん。回復薬計13本と短杖と紹介状を貰ったな」

「そうか、お。スヴ、ウスヴァートが来たようだ」


 そう言ったアセヴィルの視線の先を追ってみると、確かにこっちに近づいてくるスヴァさんがいた。

 アセヴィルがスヴァさんの名前を言う時、何かに詰まったかのような感じだったが何だろうか。


「すまんすまん。遅れてしまったわ」

「いや、大丈夫だ。そも、いつ出発するかなど詳細に決めたわけではないのだから」

「そうか。ありがとな。ほな、出発するか?」

「そうだな。イズホも大丈夫か?」

「うん、俺も大丈夫だ」


 全員が大丈夫とのことなので、早速東門から馬とそれの曳く荷台で出発した。



     △▼△▼△


 東門から出発し、南東方面に馬を走らせる。

 途中、未だゾンビの森と化しているあの森の近くを通ることになるらしいけど、ゾンビには一切関わらず森を迂回するような感じで進むらしい。

 折角だし倒していってはとも思ったが、体力などのリソースを考えると関わらない方が後のためか。


「異邦人は8時間までしか連続でこの世界に居られないのだったか?」

「そうだな」

「ではそう考えると、このゾンビの森と南東のヴィデュールの森の中間地点くらいで7時間くらいが経過しそうだな」

「じゃあ、アセヴィルは俺たちが戻ってくるまで1人で馬を走らせることになるのか」


 8時間で俺たちプレイヤーはログアウトしてその場に身体だけが残る。

 つまり馬の曳く荷台の上にからの身体が2つできあがるという事だ。

 最短で42時間後には戻ってこれるけどその間に何か、例えばアセヴィルが死ぬような事があれば俺たちの身体はフレイトゥルに戻っている事だろう。


「まぁそうだな。だが、早々危ないことはないだろう。盗賊のような奴らが来たとしても、すぐに目の前から失せることになるだろうからな」

「なんや、おっかないこと言っとるな」


 確かに。目の前から失せるってそれはつまり、認識する間もなくアセヴィルが倒すってことだと思うんだ。

 まぁいいや。


「俺たちがいる間にきた敵は俺達で対応するから、アセヴィルは休憩してていいぞ」

「そうか? ではお言葉に甘えて。

 まぁそれでもお前たちがいない時間の方が多いのだが」

「まぁまぁ、ええやんか」

「いや、別に時間に関することを責めているわけではないけどな」


 時間に関してはアセヴィルも承知で、俺たちを手伝いとして組み込んだんだろうからまぁいいか。俺たちは気にせず行こう。



 馬が曳く荷台の上で軽く雑談しながらゾンビの森を通り過ぎた頃。

 進行方向に武器を持った集団が見えた。


「ふむ、早速盗賊のお出ましだな。ヒト相手だが、行けるか?」

「たぶん大丈夫だと思う」

「まぁそうやな。襲ってくるってんなら対処せなあかんわな」


 所詮ゲームでNPC、なんて思っているわけではないが、襲ってくるのなら撃退するしかないわけで。

 人の生き死にを軽く考えているわけでもないが、こうも敵意を丸出しに武器を構えられるとどうにも。


 ――人だと思えない。



 今までよりも少し速度を落としてその集団――推定盗賊に近づいていく。

 その距離が0に近づくにつれて、推定盗賊もその構えをより深くしているのが見える。


 そしてその距離が10メートル強になった時、推定盗賊の集団の一番前にいた男が口を開いた。


「ここを通りたくば、その荷物と有り金全部置いてけ!!」

「まさに盗賊のセリフだな」

「あぁ!?」


 その男が開口一番に放った言葉に対し、思ったことが口から洩れてしまった。

 睨みつけられてしまった。どうしようか。


「俺たちゃ盗賊じゃねぇ!!」

「じゃあ何言うんや」

「俺達はここを通る怪しい馬車を監視してるだけだ!」

「監視するだけやろ? それが何で有り金置いてけになるんや」


 なぜかスヴァさんが正面切って相手と口論しているが、相手もなぜそれに応じているのだろうか。

 そう思っていると、後ろの集団から1人の男が出てきてスヴァさんと口論してた男に何かを告げる。


「カシラ、そんな建前ほっぽってさっさと剣交えましょうや」

「お、おめぇ! 建前なんて言うな! 言い合いしてから剣交えた方がなんかいいだろ!!

 それが解んねぇで俺について来てたのか!?」


 今度は身内で言い合いを始めてしまった。忘れらてしまったスヴァさんは俺とアセヴィルを交互に見ている。

 俺を見ても何も変わらないというのに。


「で、結局お前たちは何だ? 有り金奪う盗賊か、有り金徴収の監視か」

「くそっ! あぁもう、分かったよ! 俺たちゃ盗賊だよ盗賊!!

 それが解ったんならさっさと有り金全て置いていきな!!」

「嫌だ、と言ったら?」

「殺してでも奪うしかねぇなぁ!! お前ら! 殺っちまえ!!」


 最終的にアセヴィルが話を纏めた?が結局戦闘になってしまったか。

 仕方ない。人相手に剣はそんなに向けたくなかったけど、相手はどうやら人ではないらしいから、戦うとするか。

 スヴァさんはもう荷台の上から弓で1人の頭を射抜いたようだし。


「というか、今こそ師匠に貰った杖の出番、か?」

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