29 ハサテホプ
師匠をただ待っているのもあれなので、取り敢えず付いて行く事にした。
それにしても次のやつとは何だろうか。
てくてくと歩いていく師匠についていき倉庫にたどり着き、いつもより少しだけ奥の方の棚の前に立った。
そこは確かイシュグラスと呼ばれる草が置かれている場所だったはず。イシュグラスが次のやつの材料なのかな。
「……イシュグラスを使った下級MP回復薬を作ってもらうよ。まぁその工程の殆どは下級HP回復薬と同じだけどね」
その言葉にうなずき、イシュグラスの運搬を手伝う。アイテムボックスの中にはイムリル草が入ったままだから、それ取り出してからだけど。
下級HP回復薬と同じ分量ぐらいなら1回の最大量で鍋10回分ぐらいだが、どうなんだろうか。
師匠は俺がイシュグラスをアイテムボックスに詰めている間に、違うところに行って何かを取ってきていたようだ。
「……じゃあ、下級HP回復薬の時と同じでなにも無しでやってみな」
「了解です」
とのことなので、まず下級HP回復薬を作ってそのままだった鍋を洗って、軽く乾かす。
鍋を逆さにして乾かしている間に、アイテムボックスからイシュグラスを取り出し台の上に置く。
少しは乾いた鍋を取り底面と周りを拭いて、魔水を入れてそこに穴の開いた鍋とイシュグラスを入れる。
そして火をかけて沸騰するまで放置する。
下級HP回復薬の材料であるイムリル草の時は、沸騰したらその残りを取り出さないと品質が悪くなったが、イシュグラスはどうなんだろうか。
まぁその辺も観察しながらだな。火にかけられて全体的に溶け出してそうだったら、取り出さずそのまま『合成』するか。
やがて、魔水が沸騰してきたから火を止め中身をかき混ぜてみる。うん。全体的に溶けてるな。
これなら『合成』しても品質は落ちない、はず。
穴の開いた鍋をそのままに、『合成』を発動して錬金術陣を展開する。そこに慎重に満遍なく魔力を注ぐ。
水術などの発動には詠唱が要るが、錬金などの術陣には詠唱が必要ない。その分錬金の術陣に魔力を注ぐには力を入れないといけないのだが。
少しして、術陣全体がほぼ同色に染まったのを確認したら、勝手に術陣が鍋に吸い込まれていきその中身が混ざる。
鍋の中身が混ざり終わったのを確認して鑑定を発動する。
――――――――――
【回復・MP】下級MP回復薬の入った鍋 品質:普 レア度2
重量10 属性:回復(魔)
Lv.1～Lv.50までの存在が使用した場合、最大MPの20％を回復する。
Lv.51～Lv.150までの存在が使用した場合、最大MPの8％を回復する。
Lv.151以上の存在が使用した場合、最大MPの1％を回復する。
・効能が魔力に偏っており、聖力を宿した者には効果が低い。
――――――――――
「……ん、殆どあってたね。ただお前さんの場合水は聖水の方がいいと思うね。
……じゃあ、次は中級HP回復薬を作ってもらおうか。これはあたしが初めに作り方を教える」
「分かりました」
そう返し、師匠のその場を譲る。
師匠は先ほどイシュグラスを取ってくるときに持ってきていた他の材料が入った籠の方に手を伸ばした。
その中から下級HP回復薬15本分より少し多いぐらいのイムリル草と、それの10分の1ぐらいの量の緑の花を取り出し、鍋の近くに置いた。
師匠は鍋に“水”を入れ、その側面に手を当てて何かをしてからコンロの上に置き、その状態で緑の花を入れた。
その上から穴の開いた鍋を入れて、そこにイムリル草を入れて火を点けた。
緑の花が下級を中級にする何らかのキーアイテム的なやつなんだろうけど、初めて見たやつだ。
「……それにしてもお前さん、その腕輪はどうしたんだい」
「これですか？ これはガミズ何とかっていう悪魔の配下にこの店に来る前会ったんですけど、その時につけられたんですよ。今のところ害は無いから特に気にしてませんけど、何かあるんですか？ この腕輪」
「……何かあると言われたらあるし、何もないと言われたらないだろうね。
……まぁいいよ。気にしなくとも。その腕輪について、あたしは何も聞かなかったし、何も“見てない”。いいね？」
「？ はい。わかりました」
師匠はあの場所にいたのか？ いや、いたのならこの腕輪について聞いてこないか。
俺の中で何が引っ掛かってるんだ？
うーん、でも師匠が何も聞かなかったって言うからには、この話については終わりってことか。
それっきり師匠は腕輪について聞い来ることはなく、無言の時が流れ鍋の中が沸騰してきた。
「……中級HP回復薬の場合、イムリル草は下級の時と同じだけどこの花、ハサテホプの花はそのまま『合成』を掛ける。もともと水に溶けやすい花だし、この花自体に“変化”を齎す効果があるから絶対に取り除くんじゃないよ。
取り除いたら下級より効果はあるけど、中級よりは効果の無い中途半端なモンができてしまうからね」
「了解です」
そう言いながら師匠はイムリル草ごと穴の開いた鍋を取り出し、その状態で『合成』を発動して錬金術陣を展開した。
前と同じように術陣は黄金色に輝きだし、効果が発動する。
鍋に術陣が吸い込まれ、中身が同じく黄金色に輝き少しして元の色に戻った。
「……ほれ、できたよ。鑑定してみな」
――――――――――
【回復・HP】中級HP回復薬の入った鍋 品質:優 レア度5
Lv.1～Lv.50までの存在が使用した場合、最大HPの42％を回復する。
Lv.51～Lv.150までの存在が使用した場合、最大HPの29％を回復する。
Lv.151～Lv.175までの存在が使用した場合、最大HPの12％を回復する。
・正しい手順で作られ、上等な聖魔力が籠められている。
――――――――――
確か普通にこの店で売られてる下級のやつかLv.1からで30％だったと思うから、それと比べると確かに効果が上がってるな。
今の俺に作れるかと言われたら難しいんじゃなかろうか。
