24 聖纏 S:I、U
狼1匹と下級狼5匹の群れと相対し、俺たちはそれぞれの武器を構える。
俺はいつも通りに駆け出し、両手で持った剣で下級狼Aの頭をかち割る様に振り下ろす。それに対し下級狼Aは右横に跳ぶことで回避した。
それを見て剣が地面につく前で止め、振り下ろしし直そうとしたが下級狼Aが即座に噛み付こうとしてきたから、バックステップで後退する。
弓で他の狼たちを牽制しているスヴァさんを横目に、再度下級狼Aに突撃する。
さっきと同じように振り下ろすように見せ、下級狼Aの横跳びを誘発し跳んだ先に剣を持って行って、横薙ぎで頭の上半分を両断する。これで1匹。
魔物は魔石が弱点と言っても、流石に脳などの部位を失うとその生命活動を停止せざるを得ないようだ。
スヴァさんが牽制している狼たちの中から1匹ずつ誘い出し、同じように倒していく。それを繰り返し、残りは下級狼の上位種であろう狼のみとなった。
群れの仲間がいなくなった狼はなりふり構わなくなったのか、全速力でスヴァさんの方に駆けていった。
どうやら俺の相手をするより、遠距離だと思っているスヴァさんの方を相手する方が楽だと感じたようだ。
「はっ! 弓使いやからといって近接ができんなんて、思ってもらっちゃ困るわ!」
そう言いながら弓をアイテムボックスに仕舞い、腰から2本の短剣を抜き放ち構えた。
俺はいつでもカバーに入れるように剣を構えたまま、それを見守る。
スヴァさんの方に駆ける狼とスヴァさんの距離が数メートルになると、狼が跳びかかりスヴァさんの肩口を狙うように口を開いた。
肩口を狙われている当の本人は一歩踏み出し、ガラ空きの首元にその短剣をクロスさせて斬り付けた。
「――キャウンッ!!」
「一直線に狙いのところに行くなんて、猪突猛進やなぁ、って痛いなぁ!!」
首元を斬り付けられた狼が、その前足で振りぬかれたままのスヴァさんの両腕を引っ掛け、傷をつける。両腕に傷をつけられたスヴァさんは咄嗟の判断で後ろに跳び、何かを飲んで呼吸を整えている。
「スヴァさん! カバー入りましょうか?」
「いや、大丈夫や! ちょいと驚いただけや。イズホは周りの警戒しといてくれ」
そう言われてしまったので周りを警戒しつつ、スヴァさんの戦闘を見守る。
それにしても2人で倒せるかどうか、とか思ってたのにスヴァさん1人で倒せるんじゃなかろうか。
△▼△▼△
【S:ウスヴァート】
犬っころに腕を斬り付けられて、後退して下級傷薬を飲んで傷を塞いで息を整える。
猪突猛進かと思ったら意外に考える頭は在ったようやな。当の犬っころは俺に首元を斬り付けられてか、落ち着かん様子やが。
下級傷薬を飲むために仕舞った短剣をもう一度取り出し、今度はこっちから近づいてく。
どうやら走ってくる俺を危険と見たんか、唸りながら胴を低くしとるわ。
逆手に持った右の短剣で犬っころの鼻先を掠めるように振るう。それにやや過剰に反応し犬っころが後ろに跳んだところで、左の短剣に聖力を流してそれを振り斬撃として飛ばす。
犬っころは急に目の前に出てきた灰白色の飛ぶ斬撃に、どう対処したらええか分からんのか、右の前脚で斬撃を消そうとした。
だが、魔力も聖力も、何も籠ってないただの脚では打ち消すことができんかったようで、その脚は先の方だけが千切れとんだ。
「御自慢の脚が千切れとんで、真面に歩くことすらできんなぁ」
「――グゥルルゥ」
少し煽ってみたけど、失った右前の脚以外の3本で立つことに精一杯で唸るぐらいしか、抗う気力がなくなったらしいな。
長引かせる意味もないから、すぐ楽にしてあげよか。
「ほな、また。どっかで会う事があったらな」
△▼△▼△
【S:イズホ】
スヴァさんが「ほな、また。どっかで会う事があったらな」と言い手に持った短剣で狼の頭をスパッと両断した後。ついでに俺が心の中でスヴァさんその言葉はどうかと思う、と思った後。
意外にもスヴァさん1人でレベル26の敵を倒せたので、もう少し先のところで敵の具合を確認しながら戦っていく事とする。
それにしても、魔纏ないし聖纏で纏わせた聖力で斬撃が飛ばせるなんて。
「スヴァさん、飛ぶ斬撃なんてどこで見つけたんですか?」
「ん? あぁいや、咄嗟に出来るかなぁ、ってやってみたら意外にできたんよ。やから、確実にできると知ってやったわけではないな」
「へぇ。あ、あとさっきの狼に対する最後の言葉、少し怖かったですよ」
「適当な言葉やから大丈夫や。まさか蘇って出てくるなんてことがあるはずがないやろ?」
いやいや、こういうゲームの世界だからこそ出てくるかもしれないと心配しているのに。しかも途中煽ってたし。
まぁいいや。どうせ蘇ってもその矛先はスヴァさんだろうし。いや、パーティーだから俺にも来るか?
そんな感じで話しながら、狼の群れを殲滅し、そういえばと思いスヴァさんに聞かなければいけなかったことを聞く。
「そういえば、今回の狼討伐、8時間ぶっ通しの予定でしたけど大丈夫でした? まぁもう半分くらい消費してるんですけど」
「まぁ大丈夫や。万が一なんかあったら安全なとこにテント張って、その中でログアウトするから」
「それなら、良かった、のかな。時間言うの忘れてましたから」
「さすがに昼とかやったらなんか予定あったかもしれへんけど、夜はたいてい大丈夫や」
それを聞けて安心した。まぁここまで付き合ってくれてる時点で大丈夫なんだろうな、とは思っていたが、それでも本人に聞くまでは完全に安心できないものだな。




