20 腐人の行進-歩く血腐人-2
本日2話目。
10分前にもう1話投稿してます。
ブラッドウォーカーが俺の方を見ていると認識した瞬間、悪寒か何かによって一瞬、周囲を確認することが出来なくなった。
少しして、その悪寒に慣れ周囲を確認することが出来るようになった瞬間、目の前に白骨剣が見え、たと思った瞬間それは右にずれていった。俺の身体が何かに押され左にずれたのだ。
俺を押したであろう人物の方を見てみると、その首は切断され身体が地面に落ちている最中だった。右手をサムズアップした状態で。
唐突な出来事に頭が追い付かないが、1つだけ分かることはある。
それはスヴァさんが俺の事を押し、標的からずれさせその対象を自分にして殺されてしまったという事だけ。
なぜスヴァさんが俺を庇ったのか、解らない。出会って1時間ぐらいの人間をなぜ。
今はその疑問を解消してくれる人はいない。
だが、この目の前のブラッドウォーカーを倒せば、それも叶うだろう。
そうと決まれば早速。
スヴァさんの首を刈り取り、そこから流れているモノを飲んでいるボスに走って近づき、両手で持った1本の剣でその腕を切り落とそうと振り下ろす。が、ボスの左手にある“手”が独りでに動き、俺の剣を掴みとめた。
それに驚きつつ剣を手放し、後退しながらもう1本の剣を取り出す。ついでに左手で腰から杖を取り、構える。
視線を一瞬ボスの足元に向けて、術を選択する。
選択する術はこのクエストの初めでも使った水矢陣だ。
「全ての水を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを貫く、貫通の水の力を。」
小声で祝詞を紡ぎそれと同時に“魔力の送入”を完了させ、20秒までなら待機状態にできるので保留とし、その間に周囲のプレイヤーに向けて言葉を発する。
「取り敢えずこいつの周りを固めて攻撃してくれ! 俺がこいつに術を放つからその隙に!」
そう言ってボスとの距離を歩いて詰める。当のボスは足元を気にしながらちょこまかと動き回っている。俺の放つ術は下からの攻撃である水柱陣ではないというのに。
周りのプレイヤーが動き出したのを確認し、術のトリガーを紡ぐ。
――水矢陣!――
その言葉と共に杖を振り、矢を押し出す。
押し出された矢は一直線にボスの頭に飛んでいくが、刺していたスヴァさんの頭を振り落としてから、更に赤く染まった白骨剣で余裕を持って弾かれた。
その少しの隙にプレイヤーがボスの周りを包囲しつつ攻撃し、ボスの動きをできるだけ少なくする。
それと同時に俺も動かしていた足を更に動かし、走ってボスとの距離を詰め、残り数メートルとなったところで右手に持った剣を振り上げ、剣が届くと判断し振り下ろす。“魔力を纏った剣”を。
先ほどと同じように左手の“手”で対応したボスだが、その“手”で俺の剣を掴むことはできなかった。
その“手”は魔力を纏った剣に触れたそばから崩壊を始め、それを素通りした剣はボスの肩口を少し斬るにとどまった。
追撃が来ない内に後退し、ボスの様子を見てみる。
“手”が破壊されたボスはそれを持っていた左手を見つめ、その事実を心の奥深くで認識したのか、――
――ヴォァァァァァァ!!!!!――
狂ったように咆哮を放った。
それはこの戦場全域、ともすれば王都の王城まで響いているのではないかと思うほどに、体の芯まで響いてきた。
ボスの周りを囲んでいたプレイヤーたちは、その咆哮によって生じた衝撃波で吹き飛ばされてしまった。
俺もボスからは離れていたにも関わらず、少しだけ後ろに飛ばされてしまった。
ボスの咆哮に耐えながら剣を確認してみると、そこに籠められた魔力はすべてなくなっており、どうやら“手”を破壊するのに使いきってしまったようだ。
再度剣に魔力を籠めながら、牽制のため術を発動しようと杖を構えると、ボスはそれを視界の端で確認したのか咆哮を止め、死に物狂いの様に俺の方に走ってきた。
こっちに来る最中にも周囲のプレイヤーから攻撃されているが、その殆どは対応するに値しないのか無視していた。時たま無視できないような攻撃が飛んでくることもあるらしく、それらは右手に持った剣で対応していた。
ボスが向かってきてしまったので術の発動は取りやめ、剣への魔力供給も途中で切り上げた。
杖を仕舞い、1本の剣を両手で構え、こちらからも走り出す。
15メートルほどの距離だったが、すぐに数メートルとなり、それぞれの剣を振るう。
俺はボスを縦に斬るために。対してボスは俺の首を斬るために横に振るったようだ。
――ザシュッ!!――
俺の方がほんの一瞬速かったのかボスの剣は首に触れる直前で勢いを失い、俺の剣はボスの身体の鳩尾らへんで止まった。
しかしすぐにボスの右腕が動き出してしまったので、残る魔力全てを使う勢いで剣に流し、剣の向きを少しだけ変え、心臓部の魔石を直接狙う。
ボスは首を斬る事より確実に俺を殺すことにしたのか、剣を持ち替え首に突き刺すように動かし始めた。
俺から見て少し右に向くように剣の向きを変え、上に戻すように剣を動かす。
剣がボスの身体の中を動き魔石に当たる直前、首に刃先が当たる感覚を覚えた。その瞬間に全ての持ちうる力を籠め、一息に剣で魔石を割る。
魔石を割った感覚を確認したすぐ後に、首の中を剣が進むのを感じ、視界に死亡ログが現れた。
即座にリスポーンを選択し、俺の視界は始まりの噴水広場となった。
《『腐人の行進』ボス、ブラッドウォーカーの攻撃により死亡しました》
《死亡したため、1時間ステータスが半減します》
《『腐人の行進』中に経験値を獲得した為、『腐人の行進』終了時に全て反映いたします》
《上記同様、称号を獲得していた場合も終了後反映いたします》
「あ、イズホも死んでしまったんか」
「最後、ボスの魔石を破壊した感覚はあったけど、ギリギリにな」
「じゃあ、あのボス殺せたんか!」
ボスに殺されリスポーンしていたスヴァさんが話しかけてきて、その様に答えたら大きな声でそのことを叫んだ。
すると、周りにいた同様に殺されたらしきプレイヤーたちが反応した。
「まじか!」
「おぉ!」
「あんな奴に勝ったのか!」
等々、その声でその情報はさらに広まっていき、ワールドクエスト終了まで軽いお祭り騒ぎとなった。




