18 腐人の行進-開戦-2
本日2話目。
10分前にもう1話投稿してます。
水矢陣から放たれた水の矢で5体のゾンビが倒れると、それに気づいたタンク達が自分の役割を思い出したのか、思い思いに盾を構え始めた。隣と列を合わせようとしていたり、パーティーなのかひと纏まりで構えていたり、周りと合わせる気がないのか少し離れたところで構えていたりと様々だ。
そして俺の周囲のプレイヤーは腐臭の事など忘れたかのように活気づき、雄叫びなどを上げながらゾンビに飛び掛かっていった。
それを皮切りに少し後ろの術師たちから火や水などでできた球体だったり、矢だったりがゾンビに向かって飛んでいく。
プレイヤーに対しても、それぞれの属性のエンチャントらしきものが武器防具に飛んできたりしている。
ゾンビの集団は術を撃ち込まれながらもタンクの壁に突っ込んだが、流石にただのゾンビで崩れる様なタンクではなかったようで、容易にはじき返していた。
タンクの盾にはじかれたゾンビが足をよろけさせた瞬間を狙い、杖から持ち替えた剣でガラ空きの胸元を横に両断する。途中、硬いモノに引っ掛かった感覚があったが、たぶん魔石なので気にせず剣を滑らせる。
俺と同じように他のプレイヤーがゾンビを倒しているのを横目に考える。
ワールドクエスト中は常時戦闘中という判定なのか、スキルなどのレベルアップが起こらないらしい。現にすでにレベルアップしていてもおかしくないぐらいのゾンビを倒しているが、一切その気配がない。
もし戦闘中でレベルアップしたとしても、今のレベルが8の時点でそもそもただのゾンビではレベルが上がらない可能性もあるが。いやまぁそこは相手のレベルにもよるけど。
そういったことを考えつつ、もはや作業の様に両手に持った剣をそれぞれ振り上げ、タンクの弾いたゾンビを最低限の力で斬、――ろうとしたが肉だけ斬ることができて骨は断ち切れなかった。
そのことに驚き立ち止まってしまっていたら、そのゾンビの近くにいた別のゾンビに殴られ、ゾンビに刺さったままの剣を手放してしまった。
今の打撃だけでHPの3割が削られてしまった。あのまま剣を持ったままでいたら今頃、俺の身体は噴水広場にある事だろう。
予想以上にHPを削られたことに驚きつつ、剣が刺さったままのゾンビに鑑定を発動する。
――――――――――
名称:無し
種族:ハイゾンビ
職業:――
状態:Active、憎悪
Lv.14
ヒト――悪を持ち――ら死ん――在、が―化した存――全ての――で生まれ――能性があ―。
どの―――ノにも、生――あれ――い掛―る。
――――――――――
《スキル鑑定のレベルが低いため一部のみ表示します》
ハイゾンビ。ゾンビが進化した存在か。容姿はゾンビと然程変わらないな。腐っている部分がすこし少ないぐらいか?
それだけ確認すると回復のためさらに後退する。剣は残してきてしまったが仕方ないな。
俺がその場から飛び退くと、近くにいたプレイヤーが剣の刺さったゾンビの胸元に直接短剣を刺し、その活動を停止させた。
「はいよ。それにしても急に硬くなったか?」
「ありがとうございます。今鑑定してみましたが、ハイゾンビってなってました」
下級HP回復薬を飲みながら拾ってくれた2本の剣を受け取る。
「ハイゾンビねぇ。単純強化か」
「だと思います。一応掲示板にも投げておきます」
そう言ってゲーム内掲示板にハイゾンビの情報を書き込む。
全然関係ない話だが、一切知らない人だったり目上の人相手だとタメ口で話せないんだよな。まぁ目上の人相手にタメ口はどうかと思うから、知らない人相手に、だな。
アセヴィル相手にはタメ口に近い感じで話せてるから何か違いがあるんだろうけど。あ、アセヴィルはタメ口でいいって言ってたな。そこで意識の差が生まれてるのかな? 何か違う感じがしなくもないけど。
閑話休題。
掲示板に情報を投げて、握る剣を1本にする。さっきの様に剣が無くなるような事になっても大丈夫なようにな。
その1本の剣に力を込めて、次に来るゾンビを見据える。
「それにしても双剣扱えるなんてな。あ、俺はウスヴァートって言うんやけど、そちらさんは?」
「俺はイズホと言います。双剣に関しては、とある人に双剣が扱えそうだ、とか言われたのでやってみてるだけですね。形になってるかは別として」
さっき剣を拾ってくれたプレイヤーが話しかけてきたので答える。
「そんな丁寧に喋らんでええで。タメ口で。俺の事はウスヴァとかスヴァって呼んでくれたら。
双剣は……、そうか。まぁ普通に扱えてたと思うで。素人目線やけど」
「じゃあスヴァさんで。まぁ双剣にしてたけど、今はさっきみたいな事になっても大丈夫なように1本は仕舞ったままだけどな」
ゾンビを倒しながら雑談をする。
見たところスヴァさんのメインは弓のようだがさっき短剣を使ってたように、基本的にどの武器でも使えるようだ。
「俺よりスヴァさんの方が凄いと思いますけど」
「いやいや、俺なんて最低限だけの人間やから、そんな何かに特化したような人とは比べもんにならんで」
「いろんなの使えるだけでもすごいと思いますけどね」
会話をしながらゾンビとハイゾンビを倒しているが、魔石のある位置をつけば簡単に倒すことが出来る様なので、まだ面倒ではないな。
△▼△▼△
そのようにゾンビやハイゾンビを倒していき、レベル20代のハイゾンビも頑張って倒した頃。
急にゾンビたちが森から出てこなくなりプレイヤーの間でクエストクリアの空気が流れ始めた。かくいう俺もクリアまではいかなくとも、1フェーズ終了の類かとスヴァさんと話していた。
「急に途切れた?」
「いや、多分違うんとちゃうか? 最後の方に倒したゾンビのレベルって見てたか?」
「最後の方は23とか24とかだったな」
スヴァさんの質問に鑑定ログを見ながら答える。
「このゲームの魔物とかの進化のあれがまだ分かっとらんから正確な所は知らんけど、その24とかのラインがハイゾンビの進化だとして、次くらいが今回のボスなんちゃうか?」
「まぁ、確かに。今のプレイヤーの平均レベルが分からないからどうとも言いにくいけど、今の俺が8だから10以上の人が居た場合は十分ボスたり得る、のかな」
「そうやなぁ、言うて俺も10ぴったやし、このゲームのレベル差はそんなに当てにならんぽいからなぁ。
さすがに20とか離れるとレベル差を実感するんかもやけど」
という結論になった。確かに今のレベル状況を詳しく知らないから、本当のところは分からない。
そしてレベル差がそんなに意味ないという事も、なんとなくの感覚だがそんなに外れてないと思う。
そうして、次に出てくるであろう敵に警戒していると、不意に森の方から嫌悪感を引き出してくるような、不気味な気配と強烈な、今までの比にならないぐらいの腐臭が広がった。




