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166 永遠を求むシンボル S:A

【S:アセヴィル・イブラス・ユトゥル】


 場所を自室に移し、ベルに紅茶の用意を頼む。

 どうせ途中で()()()()()が来るだろうから4人分。


 ムーちゃんの用事は確か、研究所に関することだったはず。

 ムーちゃんが知ってるかどうかは知らないが、ムーちゃんの目的に一番近い人物がナールだからな。まぁどちらにしろ、ここに来るまでは、ムーちゃんの目的のメインは俺か。


「さて、情報共有と言ったが、基本的には俺から2人へのものが大半になるだろう」

「ん? とすると、俺たちの持ってる情報は既に得ていると?」

「お前たちの情報となると魔石か何かのものじゃなかったか?」


 実際にはそうではないことを知ってるが、ここはこう言うしかない。

 既に見聞きした今の状況で冒険してみたいところだが、そうして何がどうなるかわからないのが怖いところ。

 聞かなければよかった、と今では思えるが、結局は言うしかないんだよな。


「……それだけではありませんね。ここに来てようやく、私の感じていた違和感の正体が判ったもので、それについても話そうかと」

「なるほど? わかった。じゃあ、そうだな、俺から話すか」


 白々しく、それでいてそうと気づかれないほどの声色でそう言う。



     △▼△▼△


 俺からの情報共有は、主に異邦人がこの世界に来てから俺が行ったこと。多少、魔王国崩壊の前後も話したが、他に比べれば少ない。

 実際、魔王国崩壊を切っ掛けとしたように、世界は大きく動き始めたからな。事実そうであるかは別として、傍から見ればそう捉えることができるという話。

 実際そういう風に、何も知らない者が見ればそう捉えるように、話は組まれているのだろう。あいつによって。

 そういうところが気に食わないが、それに抗う方法は1つを除いて見つからない。そして、その唯一の方法さえも、直接的にあいつへ届く方法ではない。


 あの時、あいつの呼び出しに応えなければ、こうはなっていなかったのだろうか。



 ベルの淹れてくれた、既に冷め切った紅茶を一口。

 ナールも話の途中で飲んでいたが、ファントスは息すらも忘れたように一切動かなくなっていた。

 俺にしてみれば、いつまでそうしてくれていても構わないのだが、当の本人にしてみれば時間は有限だろう。

 仕方ないので、ベルに伝えて意識を戻してもらう。


「――っは。……あれ、アセヴィルさんの話はもう終わったのか?」

「あぁ、ついさっき終わったぞ。もう一度聞きたければナールにでも訊くことだ」

「あ、あぁ、分かった」


 それほど長い時間話していたわけではないが、それでも同じ内容を続けてもう一度、というのは疲れる。

 それなら情報の整理を兼ねて、ナールにでも話してもらえばいいだろう。


「では、アセヴィル様からの情報共有は終わったという事で、今度はこちらからですね」

「あぁ、よろしく頼む」

「まずは、ファントスの調べていたものからにしましょうか。私も実物は見ていないので、ファントスの言葉のみになりますが――」


 そうして、代表してナールが話し始めたのは、既に俺が一度は聞いたことのある内容の物。この場の誰からでもないが。それこそ大まかな内容はさっきファントスから聞いたが、もっと詳細にだと()()()()()初めて聞く。

 一度目に詳細な内容を聞いたのは、もう150年近く前のこと。

 この身体になってから記憶力は良くなったと思うが、それでも限度はある。細かいところまでは覚えていないかもしれない為、じっくり聞き逃しの無いように聞く。


「――その仮称魔石の詳細な情報を求めファントスはこの地に辿り着き、しばらく本屋に置いてある本を読み、ある時助手を求めドトゥラーユ王国ドラバドンの街へ戻りました。

 その道中のことです。気配を遮断しながら進むファントスの少し前を、怪しげな集団が歩いていました。この広大な砂漠の中で、滅多にない人と出会うという奇跡。更にはその集団が怪しげな箱を運んでいたことから、ファントスは尾行を開始。

 しばらく付いて行き、だいたい魔王国とテラストレムウィングとの中間地点ほどの頃、ポツンと洞窟のようなものが現れ、それを背に門番2人組が監視をしていました。怪しげな集団はその2人組へカードのようなものを提示し通行。それを見送りファントスは私のいるドラバドンへと直行しました。

 私とファントスが共に行動をする仲間となり、今のように情報交換会をしている最中、今のような話がファントスから出ました。それに興味を惹かれた私はファントスに連れて行ってもらうよう説得し、その洞窟が見える一番離れたところまで移動。洞窟の傍にはためく旗も何事もなく確認できる距離であり、私はそれを記憶。

 そのあとはそのまま魔王国へ直行し、その時には既にアセヴィル様方が居たというわけです」

「ふむ、なるほど」


 特に言葉を挟むことなく、言葉が挟まれることなく、ナールがそう長文を口にした。

 それをしっかり頭に叩き込み、ナール達の座る椅子の背後にある扉を意識しながら、確認を口にする。机に常備されている紙とペンを、ナールのもとへ差し出しながら。


「その、洞窟に掲げられた旗、それには何やら模様のようなものがあったような話しぶりだったが、その旗がどのようなものだったかというのは?」

「私が見たものは、このようなモノでした。

 中心には胴の無い黄金色の鳥の翼があり、それを縛るように、漆黒の蛇の身が横に倒した『8』の字を描いていました。

 その周囲には、遠くてよく見えませんでしたが、錬金で使う術陣に使われる文字のようなものが赤く円を描いていました」


 胴無き黄金の鳥の翼へ、果て無き命の象徴として絡みつく漆黒の蛇。

 その周囲を巡る、神なる知識の象徴たる赤く染まった神象文字。


 ここまで一致するとなれば、間違いはないだろう。

 これが、これこそが――


「――正に、混合人獣研究所を象徴するシンボルです」


 約15年近く前、アスムーテとウサギを融合し、今も尚その研究を続けている研究所のロゴだ。



 ナールの描いたそのロゴを忌々しげに見つめるムーちゃんは、その一言で自分の仕事は終わったかのようにベルの出した温かい紅茶に口を付け、思っていたよりも熱かったのか驚いたように口から離していた。

 厳かな雰囲気での発言が、その行動1つで溶けるように消えてしまった。

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