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158 魂を喰らう剣人

【S:イズホ】


 アセヴィルとノスリ様の攻防。

 それを俺は見ることができなかった。

 辛うじて剣同士がぶつかる瞬間に火花のようなものが散って、それによってそこで打ち合ったと判るが、それ以外ではその2人の動きを見ることはできない。


 ただ、その内容の大半は理解できていた。メル様の解説によって。

 推測も多分に含まれていただろうけど、それでもある程度は、数秒遅れにはなるだろうけど自分の頭の中に浮かばせることができた。


 そして、ノスリ様が口を開き、アセヴィルの次の一撃を最後にすると告げた。

 それを聞いて、アセヴィルは頷くと同時、その手に持った剣へ膨大な量の霊力、聖魔力を流し始めた。


『剣を無理やりにでも成長させようとしているらしい』

「成長?」

『あぁ、先ほども話した通り、あの、“神の卵”の持つ剣は成長する。ヒト同様、戦闘することで成長するが、今行っているように、強制的に成長させることも可能なようだ』

「なるほど?」


 俺のすぐ横で腕を組んで観戦しているメル様がそう話す。

 成長する剣。

 メル様の解説では、その剣はアセヴィルの固有の能力によって作られたモノで、戦闘前にアセヴィルの心臓辺りから光が溢れだしたと思ったら、次の瞬間にはそれが剣を形作っていた。


 錬金の中級指南書の最後のほうに、霊具に刻む術陣の中には武器に成長を促すものが存在すると書かれていて、アセヴィルのあれもそれと同じか、と思ったけどメル様によるとそうではないらしい。

 完全にアセヴィルが一から作り出したもので、錬金とは一切の関係がないのだとか。

 では、剣を形作った光は何なのか、とメル様に訊いたが、それは教えてくれなかった。メル様は、わからないのではなく、今の俺に教えることができないと言っていた。

 魂を操るアセヴィルのことだから魂で作った剣と言われても、俺は驚かないだろうな。


 約30秒、下級の術で言えば、4つ5つの術が発動できる時間で、霊力を未だ剣に籠めているアセヴィル。

 その総霊力がどれだけの物か見当もつかないが、俺の今の総魔力量よりは多いだろうな。


 アセヴィルが籠めている、というより剣が吸い込んでいるようにも見えてきた。

 聖魔力が満ちていく剣に限界はないようで、それは剣の発する光が、だんだんと強くなっていっていることからもわかる。


 限界がないように見え光を発していた剣だったが、それは不意に止まる。

 アセヴィルから剣への霊力の移動がなくなり、発していた光も消えた。

 光に限って言えば、むしろ初めのころ、霊力で強制的に成長をさせる前よりも光っていないかもしれない。


『あれは……』


 隣のメル様が驚きを籠めて呟いた。滅多に感情を出さないメル様が。

 俺も、声は出なかったが、驚いている。

 視線の先では、アセヴィルの剣がその手を離れ、独りでに宙に浮き上がっていた。


「……あぁ、なるほど。

 魂を司りし我が分身よ、その御霊その身は、これより我が眷属である。その力で以って、数多の死者なる魂から力を喰い尽くせ。新たなる名は『ベルアルラビューナ』。

 お前は今日これより、魂を貪り喰らう剣だ」


 何かに気づいたような、納得したような声と共に、浮き上がった剣にそう告げるアセヴィル。

 その詞を届けられた剣へ、アセヴィルから更に力が流れ込んだように見えた。それはさながら、契約術で契約をした時のよう。


 しばらくして、アセヴィルから剣への力の流入が収まり、剣が再び光り輝きだした。

 手で光を遮りながら見ていると、その光の中で剣のシルエットが人のモノへと変わっていっていた。


「あぁ……、一度死した身なれど、こうして再び生きる機会を与えられたこと、()()ベルアルラビューナが3人格、我が主に感謝いたします。

 早速、御下命を。我らは主の命に、この命尽くす所存」

「既に知っての通り、お前の一撃でこの模擬戦は終わる。自由に、出せる力全てで血の神ノスリを攻撃していいぞ」

「畏まりました。では。

 魂を喰らいし剣人たるベルが、今ここに、破神の力呼び覚まさん。」


 ――破神顕現――


 その2人、1人と一振り?のやり取りを楽しそうに見ていたノスリ様の目の前で、ベルアルラビューナ――ベルの手にベル自身と同じ剣が握られた。

 その剣が放つ雰囲気は進化?する前よりも強大。下手したらアセヴィルよりも上かもしれない。詳細には判らないが。


 両の手に剣を構え悠然とノスリ様に向かって歩くベル。ゆっくりと、この後に続くものが攻撃ではないかのように。


 段々と近づいていき、5メートルの距離になったと同時、俺の目はベルの姿を失った。が、そのすぐ後にベルの姿を認識できた。ノスリ様の後ろで右肩から心臓に向かって剣を進めている状態で。

 ノスリ様はと言えば、その手に持った剣は砕け散り、その手でベルの剣を先を止めていた。

 それによって、ベルの剣はノスリ様の心臓を斬るには至らず。


『いやぁ~、危なかったねぇ。防御結界すらも破壊されて、手で止めなかったら心臓壊されてたかも。紛い物と思って油断してたや。紛い物ゆえに、私にはよく効いたのかな?』

「主様、申し訳ございません」

「いや、大丈夫だ。所詮は模擬戦。今後似た機会があればその時にまた力を発揮すればいい」


 ベルの手から剣が消え、ノスリ様につけられた傷は瞬きの間もなく修復された。その身に纏った服と共に。


『強制的に元の世界へ戻す。先ほどの“神の卵”の力によってこの空間が歪み始めた』


 たいして大きくもないメル様の声だが、他の3人にも普通に届いたようで頷いていた。

 メル様が行きと同じようにある一点へ目線を向けると、そこに渦が出来上がり向こう側、アセヴィルの部屋を映した。

 それを認識すると同時に、その渦へ身体が吸い込まれ始めた。歪み始めたと言ってたし、時間がないんだろうな。

 アセヴィル、ベル、ノスリ様、俺の順に渦を通り、最後に崩壊するような音と共にメル様が戻ってきた。


 アセヴィルの部屋には誰もいない、わけではなく、何やら他の3人、ウァラとムーちゃん、スヴァさんがちょうど部屋を出ていこうとしている所だった。


 その顔は、いなかったこの時間、どこに行ってたのか興味あり、といった風な状態だった。

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