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157 禁忌と言う勿れ S:N

【S:ノスリ・トラトゥ】


 目的は変わるもの。

 アセヴィルを訪ねた時は本当に暇潰しだけのつもりだったけど、こうやってぶつかり合う内に、段々と新生された私の力試しが主目的となっていく。


 楽しい。


 いつ振りだろうね、こんなに心躍るのは。

 アセヴィルの攻撃が容易く私を傷つけることはなく、決して接戦になることはない。けど、それ以外の部分で楽しい。

 将来どうなるかわからないからかな?


 それこそ、他の子たちはアセヴィルと同じ以上の接戦を私と演じられるだろうけど、「できる」と「実際にやってくれる」は別。それに、マテラスたちに対してはそんなに期待してない、って言ったらあれだけど既に十分強いからね。

 それよりはまだ、飛躍的に強くなれる可能性を見る方が楽しい。


 マテラスを筆頭に、力を無闇矢鱈に使うべきじゃないって、ずっと昔から言い続けてた。だからこういう風には戦ってくれない。

 メルも同じようなものだけど、そもそもが戦闘向きじゃないからね。今のようにこうして異空間を作るぐらいはしてくれる。


 アセヴィルの持つ剣が振り下ろされる。

 それを認識した瞬間、私の意思が下される前に血が蠢き難なく受け止める。

 がしかし、その剣は私の血を吸収して防壁を突破し、この身へ牙を剝く――寸前、両の手に意識して血を固め剣を作ってそれを弾く。


 既に何十、何百、何千回と行ったやり取り。

 ただそれだけの繰り返し。

 だけど段々と、その時間は短くなっている。


 アセヴィルの手に握られた一振りの剣。

 戦いを始める前に1回だけ許した、世界で唯一であろう権能の行使。それによって顕現した剣。

 たったそれだけで以って私に傷を付けようとしてくる。

 これまでにこの空間で発動した術や権能はその1回のみ。魔術や聖術、聖魔術といった術でさえも、たったの1回すら行使されていない。


 初めは私の無意識領域の血の防壁さえも破れなかった剣が、今では血を吸うことによって破れるようになっている。

 どんな()()()()()作ったのやら。

 底が知れない。いや、底がないのかも。


 作られてすぐは血の防壁に歯の立たなかった剣が、今では歯を立てるどころか無かったものにしていることからわかる通り、その剣は今もなお成長している。

 その成長の先に何があるのか、答えは1つ。

 私の死。

 その状態を目指して進化を続ける剣は、すぐにでも私の生成する剣さえも砕いて、この身へ牙を食い込ませるだろうね。


 霊具でもないのに成長する剣なんて、これまでで一度であっても見たことがあっただろうか。

 いや、ない。

 霊力を籠めることによって一時的に強化をするのはどの武器でも可能だけど、その地力さえも成長するのは本当に聞いたことも見たこともない。

 やっぱりその、魂なのかなぁ?


 ヒトというのは、その魂から成長する。いや、ヒトに限らず、この世界に存在するすべての生命は、だね。

 外見的成長や精神の一部の成長、筋力などの物理的な力は肉体に基づくけど、それ以外の、霊力に関係することはその大部分が魂の成長によって増大する。

 霊力に関する能力の成長で、魂が成長するとも言い換えられる。

 肉体が成長することによって、精神が成長することによって魂が成長、強くなることもあるけど、霊力関係の成長よりは劣る。


 何が言いたいのかというと、アセヴィルの作った剣には未だ生きた魂が籠められているということ。それも1人分というわけではなく、何人、何十人もの魂が籠められている。

 とはいえ、この世界で生きていた状態から無理やり取った魂じゃなくて、一度は生命を終えた魂のようだけど。流石に肉体が生きた状態で無理やり取ってたら、“世界”が禁忌として許さないと思うけど。


 肉体的に死亡したとて、魂が死ぬという事は滅多にない。

 それこそ神以上の力を持った存在にその核まで斬られたりしたら死ぬかもだけど、この世界においてはそんな役割を持った存在なんていないから、そんなことにはならないだろうね。


 で、魂が籠められていてしかも生きているという事は、その魂は成長するという事。

 私の血の防壁を破る成長をして見せたように。

 一人一人の成長が微々たるものであったとしても、それが何十人にも及んで統合されるとしたら、それはとんでもない力を生み出すだろうね。


 見たところその剣――仮称魂剣(ソウルソード)は今この戦闘において、必要な能力だけを成長させているようで、吸血鬼のような“血の吸収”、更には“物質破壊”を構築しようとしている気配さえある。

 “血の吸収”は完全に能力として定着、安定したようで、今はゆっくり吸収速度を上げているみたい。

 問題は“物質破壊”だね。一先ずは私の固めた血の剣を破壊するためだけの能力のようだけど、将来的にはこの身さえも破壊されるかもしれない。

 血の剣と私の身体とでは身体のほうが強度は上だから、そう簡単に破壊されることはないと思うけど、その成長速度から考えると30分もしないうちに能力としては定着して、血の剣が壊れるようになる。そこから1時間もしたら、私の身体さえも破壊するぐらいには成長してるかもしれない。


 その成長速度は異常としか言いようがない。

 通常時、この異空間の外で、更には相手が私じゃなかったらここまで急速に成長することはないだろうけど、それでもやっぱり何十人分の魂という事で、普通の人間よりは随分と早く強くなるだろうね。


 どうしようか。

 魂剣を壊すのは容易い。

 けど、その能力の発展を考えると、今は壊さないでいたほうが今後は絶対に楽しい。

 壊せなくなるまで成長しちゃって、それが私たちに向けられることがあったらもうどうしようもない。けど、もし壊せなくなることがあったとしても、こっちに向けられる可能性は限りなく低いだろうから残すかな。

 万一向けられたとしたら、その時は“世界”に消されるとしても、私が扱える以上の権限で以って壊すとしよう。



 何度目かわからない攻撃を弾き、声を挙げる。


『アセヴィル! そろそろ終わりにしよう! 最後は、私は血の防壁は出さないから、今出せる全力を私の身体に直接叩き込んで!!』

「ふむ……。あぁ、分かった」


 死ぬことはない。

 メルの異空間だからってのもあるけど、残念ながらアセヴィルの力は、私には()()届かない。

 もしその殻を破ることができて、神の位を得る機会があれば、その時は私と誰かの名で以って、君の名を神の末席に加えてあげるよ。


 その時はまた、こうして遊ぼう。

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