13 生産者ギルド
魔王国大使館から出て空を見てみると、そこはアセヴィルの右目のように吸い込まれるような星空となっていた。
それを見ながら生産者ギルドに向けて歩いていく。
途中貴族街と城下町の境界線にある門を通ったが、6時間前の何故か投げやりだった門番ではなく、その前に対応してくれた門番だった。
その門番には投げやりな感じは一切なく、逆に異様なほど親切な感じを醸し出していた。この国の兵士はこんな風に極端なんだろうか。
△▼△▼△
アセヴィルの右目の様な星空を見ながら、歩みを進めているといつの間にか始まりの噴水広場にたどり着いていた。
6時間ぐらいたった今でも、そこはプレイヤーひしめく混沌とした場所になっていた。
ちょうどキャラクリを終えて飛ばされた人だったり、今から何かの討伐に行くのかそれともただの散歩か宿屋から出てくる人だったり。
その光景を尻目に噴水広場の北西の位置にある生産者ギルドの扉を潜る。
生産者ギルドの内装は冒険者ギルドとそう違いはなく、強いて言えば入口近くに案内図があったり冒険者ギルドで言う二階部分は会議室になっているというところだろうか。
取り敢えず受付に行って生産者登録をするか。
「生産者ギルドへようこそ。受付のリリと申します。本日はどのようなご用件でしょうか」
「生産者登録をお願いします」
「登録ですね。では登録者様の職業カードを、こちらの道具に乗せていただけますでしょうか」
ポケットから職業カードを取り出し、リリさんがカウンターの下から出した何らかの道具の上に乗せる。
「はい、ありがとうございます。……イズホ様ですね。どの生産系の能力で登録致しますか?」
「錬金でお願いします」
「錬金ですね。畏まりました」
そう言って何らかの道具を操作するリリさん。
冒険者ギルドでは武器種などの登録はなく、職業カードにランクの情報を登録しただけだった。
だが、生産者ギルドでは生産スキルの登録と、――
「イズホさん、今現在師匠となる人物、ないしは今後師匠となる人物はいますでしょうか?」
「えーと、今はターラフェルという人が俺の師匠になるかと思います」
「! ターラフェルさんってあの! ターラフェルさんですか!?」
「他にターラフェルと名の付く人を知らないので“あの”って言われても、」
「あのターラフェルさんですよね!? 街外れにある雑貨屋の智慧nムグゥ!?」
――消風陣――
「……リリ、あまりあたしのことを言い触らすんじゃないよ」
――師匠の有無の登録、らしいのだがいつの間にか俺の後ろに師匠が立っているではないか。
そしてその師匠は何らかの術を使っているのか、リリさんの口に杖を向けている。杖を向けられているリリさんは術の影響か呼吸が出来ないらしく、両手で口元を叩いていた。
「……こいつの登録は結構な事だが、あたしの作成物の受取が来てなかったんだけどねぇ。
これはどういうことだい?」
「ぷはぁ! もう! 急に口をふさぐのはやめてください!
それと、ターラフェルさんの作成物受取は今日ではなく明日です。10日に1回ですよ。ちゃんと覚えておいてくださいね」
「……急に塞がなかったらあんた、最後まで言ってただろ。仕方ないじゃないか。
……それと、今日じゃなくて明日? 前回の受取はもう10日前だったと思ったんだけどねぇ。まぁいいさ。
……今日はもう持ってきてしまっているからこれで明日の分としといてくれ。次はちゃんと11日後で覚えとくから」
そう言って杖を持っているのと反対の手で持っていた布袋をリリさんに渡す師匠。
「……あぁ、それとこいつの師匠はちゃんとあたしだからそれで進めて大丈夫だよ」
俺の方を杖で示しながらそう言い、そのままギルドから出ていってしまった。
このやり取りの間、俺殆ど空気だったな。
「えーと……」
「大丈夫です! きちんと手続きはしますので!」
「いや、そういう事じゃないんですけど……」
そう言いながら周りを見渡すとギルド内の人たちが様子を伺うように俺の方を見ていた。
こっちを見てる人の大半はNPCでそれは騒ぎがあったから、だと思うがその中のプレイヤーの一部は俺があの称号の持ち主だと勘づいているのではなかろうか。それを思うとここから早く出たい。
もう俺の他にもNPCの弟子になった人が他にも出てきているかもだが……。
なんて俺が心の奥底で思っている間にも着々とギルド登録が完了しようとしていた。
「はい。以上で生産者ギルド登録は完了になります。生産者ギルドにもランク制度はありますが、お聞きになりますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
手で直接渡された職業カードを受け取り、足早にギルドから出た。
△▼△▼△
生産者ギルドから出た後はなんとなく人目に付きそうもない道を選び、なんとなくの方角で移動し師匠の店に向かった。
店に着いたら店番をしていた俺より少し年上そうな男の人に挨拶をし、店の裏手の作業部屋の出入り口の前に居た師匠に挨拶をする。
「師匠、こんばんは」
「……はいはい。それじゃあ早速始めるかい?」
「店の方は良いんですか?」
「今日はあいつに任せる。よほどのことがない限り、忙しくならんだろう」
それならいいかと納得したが、万一倒れたらと心配する気持ちも出てくる。
けどまぁ、俺が心配したところで変わらないだろうし、早速始めてもらうか。
「それなら早速お願いします」
「取り敢えず基礎からだね。付いてきな」
そう言って歩き出した師匠に付いて行く。




