12 ティスリール
師匠の店を出た後、急いでもと来た道を戻り貴族街との境界線にたどり着いた。
そこの門には衛兵がいるが、その衛兵は21時ごろに通った時の人とは違うようだ。
「貴族街には通行証を持たぬものを通すことは出来ません」
「すみません、今取り出します」
そう言って懐から取り出すかのように、服のポケットの中でアイテムボックスを開きそこからアセヴィルに渡された貴族街通行証を出し、衛兵に渡す。
「ん……あぁ魔王国の関係者ですか。どうぞお通りください」
「ありがとうございます」
その言葉と共に何故か投げやりに返された許可証をポケットに入れる風にしてアイテムボックスに仕舞う。
そして通れるようになった門を通る。
そのあとは貴族街で走るのはなんとなく駄目な気がするから早足で魔王国大使館に戻った。
大使館に入ると魔王国大使館の役人の人に寝泊まり用の部屋に案内されてそこでログアウトした。
△▼△▼△
6時間後(13:08)。
本日2度目のログイン。
ゲーム内では1日と約18時間が経過しているはずである。
今回のログインでは、まず生産者ギルドに行ってそのあと師匠の店に行く予定とする。
という事で、取り敢えず前回ログアウトする直前に仕舞った初心者装備をアイテムボックスから取り出して着用する。
いつかアセヴィルからもらった装備が使用できるといいが、それがいつになることやら。
と、今朝の出来事を思い出しつつ部屋から出ると、目の前にこの部屋に案内してくれた人が立っていた。
「イズホ様。アセヴィル様がお呼びです。付いて来てください」
「ん？ わかりました」
とのことなので付いて行く事に。
普通に歩くより少しゆったりとした歩みに付いて行くと、今朝アセヴィルに連れてこられ話をした部屋に着いた。
「ティスリール、ご苦労様。もう通常の仕事に戻っていいぞ」
「承知しました。それでは失礼しました」
そう言って俺をここまで案内してくれた役人――ティスリールは戻っていった。
「で、どうだレベル上げは。順調か？」
「まぁ、昨日？一昨日？の2時間ぐらいは下級狼を討伐して、そのあとはスキルの錬金のための道具を探しに行ったぐらい、かな？」
アセヴィルの質問にどこか違和感を覚えたが、取り敢えず昨日の流れは大まかに説明できたはず。
あとはー、あ、あれがあったな。大事なのを説明してなかったや。
「あと、錬金の師匠が出来ました」
「ほう、どこの誰がお前の師匠になったんだ？」
「えーと、街外れの雑貨屋のターラフェルというお婆さんでしたね」
「少し遅かったか……。因みにどんな感じで相手は師匠になり、お前は弟子になったんだ？」
アセヴィルがどんなことを知りたいのか分からないが、まぁこれから一緒に旅をすると考えればこういうことは正確に伝えた方がいいだろうな。
「まず、まず、雑貨屋に錬金を使用するための道具セットを買う、前に狼討伐の休憩で街を歩いてたんだよ。そしたら街の外れの方に来てたんでその付近で雑貨屋を探そうかと思ったわけなんだ。
ただ、その付近のことを何も知らないからたまたま近くを歩いてる人に聞いたんだよ、『この近くに雑貨屋ってありますか？』って。
で、その人が教えてくれた雑貨屋に入ってみるも錬金用の道具だけたまたま無かったらしくて、店番をしてた店主のお婆さん、師匠の使ってる施設を使わせてくれるようになったんだ」
「で、どんな条件で使わせてくれることになったんだ？」
「条件は、えーと、2つあって。1つ目が異邦人、つまり俺の観察をさせてくれたら。
2つ目が師匠の弟子になったらっていう条件だったな」
と、アセヴィルに師匠との条件を話したが、その途中から下を向いて考えごとに興じてしまっていた。
その様子を見て最近どこかで見たなぁ、なんて思っているとアセヴィルが何かを呟いて顔を上げ口を開いた。
「まぁ、今更か。……そうか。まぁ、今更何かを言っても無駄だと思うから何も言わないが、取り敢えず気を付けてくれよ」
「何に？」
「色々だよ」
どこか釈然としないものの、これ以上アセヴィルは何も言うつもりはないのか、机の上に置いてあった本を読み始めている。
「ん？ というかそれだけの用事だったのか？」
「それだけ、まぁそれだけといえばそれだけだが、最後に1つだけ。
聖王国への移動は49日後だ。まぁイズホの予定なんかによっては前後しても大丈夫だろう。
これでも余裕のある日程だからな」
「49日後ね。了解」
ちょうど現実世界で1週間後か。日を跨ぐとかのあれこれは考えず。
1週間後も変わらず夏休みだからまぁ何とかなるだろう。今のところ用事なんかは入ってなかったはずだし。
「じゃあ、俺はそろそろ出るけど、良いか？」
「ん……。あぁ、いいぞ行ってこい」
俺がアセヴィルに話しかける前、何か聞こえた気がしたが気のせいか？
まぁちゃんと聞こえなかったものは聞こえなかったってことでいいか。
「じゃあ遠慮なく失礼するよ」
そう言って俺はアセヴィルの部屋から出た。
