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114 転移陣


 少しのいがみ合いの末、俺の両肩にそれぞれ陣取ったネモとルテリアを乗せて、俺たちはドトゥラーユ王国の王都と街を分断する渓谷の端に立っていた。

 目の前には術陣が刻まれた台座のような物が埋め込まれており、その隣にはそれを管理しているのであろう人が立っている。


「ようこそ、ドトゥラーユ王国王都と唯一の街ドラバドンを繋ぐ転移陣へ。ご利用の際は横にあります転移陣へ、何の属性の付与もない霊力をお流しください。そうしましたらしばらくしたのち、景色が一変し、ドラバドンへの転移が完了します」

「使用料は大丈夫なのか?」

「えぇ、こちらの転移陣を使用する際、料金は一切発生しません」

「そうか、では少しではあるが管理人であるお前には渡しておこう」


 そう言ってアセヴィルは外套の中に手を伸ばし、硬貨を1枚、管理人に手渡した。

 傍目にはただ硬貨を1枚渡しただけにしか見えないな。この世界のお金だと。


「おや、宜しいのですか。……! 畏まりました。この度の転移陣への霊力の供給は私が行わせていただきます」

「よろしく頼む」


 アセヴィルからお金を受け取った管理人は、何やら言葉を発した後、一直線に転移陣へと手を伸ばし霊力を流し始めた。

 なんだったんだろう、さっきの説明は。

 元からお金を渡すことによって霊力を流してくれるっていう感じでもなかったし、金額かな? アセヴィルの渡した金額があまりにもだったから、自ら流してくれることになったのかな。

 それにしてもな驚きようではあったけど。


「さて、ここの転移陣は確か最大3人までしか跳べなかったと思うから、分けるか。と言っても今並んでる順番の通りではあるが。先に俺とウスヴァート、アスムーテが跳ぶ。次にイズホとウァラエル、……と精霊たちは確かこの型の転移陣の影響を受けられなかったはずだから、イズホ。手間ではあるが一度、送還してから向こうで召喚してくれ」

「了解、じゃあ2人とも向こうでな。送還――ネモシーユ、ルテリア」


 特に重さなどないはずだが、雰囲気か、肩が軽くなった気がする。


「準備が整いました! 先にお三方、お乗りください」

「じゃあ俺とウスヴァートとアスムーテだな。先に行くぞ」


 3人が台座に、転移陣に乗ったことを確認してから、最後、残りの霊力を流して管理人が祝詞を発した。


「全ての空間を司る神よ。この矮小なる身と転移の欠片に、力を与えたまえ。全ての存在に、違う景色を見せる力を。」


 ――転移陣(テレポーテーション)――


 その言葉と共に、台座の術陣の上に立っていた3人は光と散り、どこかへと跳んでいった。


「さて、今の3人は無事にドラバドン側の転移陣のすぐ傍まで跳んだ事でしょう。私が術陣に霊力を流し込むまで、もう少々お待ちください」

「ん、分かった」


 そうして、管理人がMP回復薬を飲みながら術陣に霊力を流しているのを見て、3分ぐらいで終わったようだ。


「お待たせしました。お二方、準備が整いましたのでこちらの術陣へお乗りください」


 その言葉に従い、台座に刻まれた術陣の上まで移動し管理人が詠唱するのを待つ。


「全ての空間を司る神よ。この矮小なる身と転移の欠片に、力を与えたまえ。全ての存在に、違う景色を見せる力を。」


 ――転移陣(テレポーテーション)――


 詠唱が終わり、術の名を管理人が言った瞬間、自分の身体が分解されるような、どこかへ行ってしまいそうな浮遊感を覚えた。

 視界を振るうと、さっきまで見えていた砂の景色は無く、空の青い景色が一面に映った。

 もう一度視界を振るうと、青い景色は無く、今度は赤黒い、どこか危機感を覚える景色となった。遠くには何やら人型をした何かが飛んでおり、何かを運んでいた。


 もう一度視界を振るうと、既に転移は完了していたようで、再び砂の景色となっていた。


「2人も終わったか。では、早速移動を開始するぞ」

「了解、ここからはもう真っ直ぐ魔王国まで行くだけか?」

「そう、だな、……そうだな。基本的に何もなかったはずだ、ここドラバドンでは」


 なるほど、まぁ変わりないか。



     △▼△▼△


 ドラバドン側の転移陣で軽く身分証の確認をされてから、真っ直ぐ一直線に街を突っ切り、何事も無く街を出て、再び砂漠を進み始めた。

 ネモとルテリアに関しては、召喚しても結局時間で送還されちゃうからどうしようかなぁと思っていたが、ムーちゃんとウァラから要望があり召喚して、ムーちゃんとウァラそれぞれの肩に乗って談笑している。


 道中魔物が襲ってくる中に蠍と蛇以外で、ワーム系の魔物も出てくるようになってきた。

 ワームが出てくる頻度はそう多くないが、代わりに一度に出てくる量が多く、対処が困難だ。

 幸い火が弱点らしいので、本当に対処しきれない場合とかは火で一掃することはできる。



 変わり映えの無い景色を眺めながらオロに乗って砂漠を進み、右手に何やら街のような物が見えた。

 がしかし、アセヴィルはそこには寄るつもりは無い様で、無視して進むようフィスに指示していた。


 そうして結局魔王国の王都どころか街に到着することはなく、俺とスヴァさんのログイン時間に限界が来た。

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