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113 匂い、雰囲気


『――さすがに何十年も前の事ですので、記憶が戻ったからと言って、今になって復讐をしようなどといった考えにはならないですね』

「そうか、まぁその方がいいな。……というか、話は変わるけど、前までの体の大きさが色々使えただろうから、今になってちょっと勿体なく感じるな」

『身体の大きさですか、どうでしょう……、変えようと思えば変えられると思いますけど』

「お、できそうなら1回試しでやってみてくれ」

『分かりました、……たぶんできると思うんですよね。……ほら』


 ネモの記憶が一部を除き蘇り、その蘇った記憶の内容を軽く伝えてもらっている最中。

 そう言えばと前の小さい体は体で利点はあったなぁ、なんてネモに伝えてみたところ、なんとなくできそうという事で、やってみてもらうと確かに、身体を前と同じ大きさまで小さくすることができていた。

 更には前よりも、もっと小さい体にもできていた。


「おー、できちゃうんだな」

『流石に術の威力などは落ちる、というか、身体を構成する霊力、霊力素を犠牲に、体を小さくしている感覚ですね』

『そうだねぇ、精霊系だからこその身体変化だろうねぇ。私もできちゃうし』


 そう言ってストハス様も体の大きさを変化させていた。

 ……精霊系? 精霊系か。

 じゃあ、ルテリアも同じことできるかな? 聖霊も精霊、というか霊系だろうし。神霊、らしいストハス様ができるんだから。


「ストハス様、今からここに聖霊を召喚しても大丈夫ですか?」

『ん……? まぁいいよ~』

「ありがとうございます。

 全ての空間を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。ただ一時ではあれど、契約により繋がれし獣霊をこの地に呼び寄せる力を。」


 ――獣霊召喚陣――

 ――下級聖霊:ルテリア――


 術陣から出てきたのは再誕したネモと同じか、少し大きいぐらいの身長のルテリア。

 当の本人、本霊?はなぜ今呼ばれたのか解らないらしく、困惑した表情をしている。


『なぜ今この場に私は呼ばれたのでしょう? マスター』

「いや、ネモがやってるように、体の大きさをルテリアも変えられないかなと思ってな」

『なるほど? ……どうでしょうか、やってみたことも、考えたこともないのでできるか分かりませんね』


 どうなんだろうな、やり方とかコツとかさえ分かれば、ルテリアなら簡単にできそうだけど。


『ネモ、簡単にやり方を教えてください』

『流石のルテリアでもこれは分かりませんか? 約200年もの間、下級の位に留まっていた聖霊さんでも』

『その言葉は聞き捨てなりませんね。私が父より賜ったこの役目を軽蔑するつもりですか?』


 やっぱり今ルテリアを召喚するべきではなかったかな。

 これが始まると短く終わることが滅多にないからなぁ。初めの頃はそんなにいがみ合う事も無かったのに。

 契約主、召喚主としてあんまりな選択だろうけど、俺としては見守るしかできないな。変に収めようとしても悪化する未来しか見えないし。


『あれぇ……? この匂いは、アズ君のかな? 熾天使の』

『ん? 父の事を知っているのですか?』

『もちろん知ってるに決まってるよ。なんてったってアズ君にこの世界の事を教えてあげたのは私だからね』

『なるほど……。それで何か御用でしたか?』

『いや? アズ君ももうずいぶんと前にこの世界からいなくなったみたいだし、特にアズ君にも用事は無かったし。

 ……強いて言えば今この場にアズ君の因子を持つ存在が、ルテリアちゃん含めて3人いる事が不思議ではあるねぇ』


 そういえばルテリアを初めて召喚した時も似たようなことを言ってたな。

 あの時ルテリアは匂いって言ってたけど、ストハス様は因子って言ってるな。言ってる対象としては俺とあと誰かもう1人なんだろうけど、何のことを言ってるんだろうか。

 本当に心当たりがないから、困惑も何もないんだけど。


『やはりそうだったのですね。私がマスターの召喚に応えたのも同様の理由からだったので、同じ感覚の方が居て少し安心しました』

『そうだねぇ、今思えばあのアズ君の独特な雰囲気は、この世界とは違うところから来たからなんだろうねぇ』


 違うところ……? 違うところ…………、うん?

 なんなんだろう。

 ……そういえばこのゲーム、この世界の900年前として一番最初の作品があったはずだけど、その時のプレイヤーの1人がそのアズ何とかって人なのかな。

 あと1人同じような雰囲気の人ってのがだれか分かんないけど。


『というか、なんかごめんね? ネモシーユちゃんが』

『いえ大丈夫です。いつもの事なので』

『そう? まぁそれに関してはいっか。

 それはそれとして、身体を小さくするのは、自分の体を構成する霊力を一時的に霧散させて、その状態で体を維持したら小さい状態のままになるよ』

『ありがとうございます。…………なるほど、思えば試してみたことはなかったですね』


 そう言ったルテリアの体は、俺の頭の上に陣取っているネモと同等か、それより小さくなっていた。

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