111 膨大な量の術陣
『え? ――――ちゃん、今はネモシーユちゃん?の霊核の復元? どういう事?』
「言葉の通りではあるが、まぁ詳しくは当人から話してもらおうか」
『そうですね、ではあの時、私がストハス様と逸れた後の事を覚えている限り、お話しましょう。――』
風の神、ストハス様か。確か闘技大会の最後、表彰のときにもいたな。
ネモの話では確か、神風霊の手伝いドトゥラーユ王国の近くまで行ったときに、推定ヴィハネル様率いる冒険者パーティーに遭遇して、そこで1人逸れたかなんかで殺されちゃった、んだっけ。
ここで言う神風霊っていうのは、この目の前にいる風の神と同一と考えていいだろうな。闘技大会の時の招待状も神炎霊や神水霊だったけど、確か俺の1つ目の試合だったかな、最後、試合が終わってからメフィトゥル様が『水の神が命ず』とか言ってたと思うから、神霊イコール何とかの神なんだろうな。
アセヴィルが今回の目的を話した途端、慌てたように姿を現した風の神ストハス様の容姿は、どこかネモに似ているように見える。ちゃんと見たらそこまで似ているというわけでもないけど、なんだろう、雰囲気が似てるからかな。
身長とか諸々はネモと比べるまでもなく大きい。ネモはそもそも再誕に近いだろうから仕方ない部分はあると思うけど。
どっちが風の精霊として、いや、そも種族が違うから判んないか。
『――と、気付いたらこのイズホさんとアスムーテさんの力によって、一命を取り留めていました』
『なるほどねぇ~、大体解ったよ。つまりネモシーユちゃんが力を最大限出せるようにしたらいいってことだね?』
「そうだな、まぁ復元してもらった所でイズホとの契約により、十全にその力を発揮することはできないだろうがな。少なくとも弱体化している現状から変われば大丈夫だ」
アセヴィルはネモのステータスから弱体化、微衰弱か。それを取り除こうとしているのか。
それさえ取り除かれれば、術の威力に下方修正が入らなくなるだろうし、ネモを取り巻くデバフは俺との能力差によって出てる制限だけになるな。
能力制限だけは俺が強くならない事には消えないはずだろうし。
『ん~、たぶん大丈夫だけど……、1つ懸念点があるとしたら、そうだなぁ。ネモシーユちゃんの身体に変化が出る事かなぁ~? たぶんだけど、今の体の大きさは衰弱してるからであって、それが無くなれば一気に私と同じくらい、は無いか。私より少し小さいくらいになると思うよ~』
『私は大丈夫ですが、イズホさんや他の方はどうでしょうか』
「いや、俺は全然ネモの好きな方でいいと思うぞ」
ネモの身体が大きくなったところで、そんなに変化はないと思うけど……、なんだろう、ネモが俺の頭の上に座れなくなるぐらいか? それもネモ自身がいいなら俺はいいんだけど。
他3人も、俺と同じ答えのようで、頷いていた。
『では、遠慮なくストハス様に力を貸していただき、限りなく元の状態に戻していただこうかと思います』
『じゃあこっちも遠慮なく。……そうだなぁ~、じゃあ、ちょっと待っててね準備するから』
そう言ってストハス様は部屋の奥まで飛んでいき、何やら霊力を広範囲に広げ始めた。広範囲といっても、俺の把握できる限りではこの部屋までだから、実際にどこまでストハス様の霊力が展開されているのかは分からない。
術陣も展開せずに霊力を使うって何だろうな。何をしようとしてるんだろうか。
何らかの詠唱でもしているのか、偶に声が薄く聞こえてくるが、それがどういった意味を持つのかは解らない。
『よしできた。じゃあネモシーユちゃん、この術陣の中心に立ってもらっていい? 立つというか浮くか』
『分かりました』
しばらくして、準備が整ったのかストハス様が振り返ってネモを呼んだ。
さっきまでストハス様が居て、何やら作業をしていた場所には膨大な量の術陣が展開されており、霊力で満たされていない今でも圧倒的な力を感じる。
『では早速、ネモシーユちゃんの霊核の復元を始めるよ』
『よろしくお願いします』
『うん、じゃあそうだなぁ、これから術を発動するから、その瞬間にネモシーユちゃんは意識を霊核から切り離してね』
早速始まるかと思いきや、初めから意味の分からないことを言い出したな。
訊いてる限りだと難しいことのように思えるけど、なんとなく、ネモはできるように思える。
そもそも意識を切り離すって何なんだろうな。
『風の神が命ず。全ての生命を司る世界よ。我が眷属“――――”の生命の根源、風の精霊核を復元するための、全ての情報を、我が身に。』
その詠唱と共に、展開されていた術陣の一部に、俺では理解できないほどの霊力が流れ込み、代わりにストハス様の身体へどこからか眩い光が流れ込んだ。
それと同時に、ネモも自分のやるべきことをしたようで、ネモの身体から力が抜け、しかし身体は浮いたままだ。
『風の神が、この空間に存在する全ての神力に命ず。我が眷属“――――”の精霊核の欠けたる一部となりて、その復元の助力と為せ。
さぁ、後はネモシーユちゃん自身の頑張りだよ』
それが最後の詠唱だったのか、ストハス様は、やることはやったとばかりに傍観の構えとなった。




