? 神と王
赤い霧の漂う薄暗い洞窟にて、2つの人影が向かい合っていた。
『――それでユニ様、あの会議での内容を教えてもらっても宜しいですか? 他の神々がどう動くのかを』
『そうだねぇ、吸血鬼の侵攻に関して言えば不干渉、吸血鬼の国に対しては神霊たちとあと1人、だれかが襲う予定になったよ』
『そう、自身の保護する民を無視してでも私たちを殺す選択を取ったか。ありがとうございます、ユニ様』
相対する2つの人影、その内片方は少し前の神前闘技、その最後にて異邦人アペテプナルによって召喚された吸血鬼、その悪夢の王/第5位カーリ・フェルスであった。
『カーリ、私があの時ノスリを封印するために力を貸した理由はきちんと覚えてる?』
『覚えています、全ては邪神を滅するためという事を』
『覚えているのならいいよ。邪神が消えると同時に、君たち吸血鬼の、その力の大半は消え失せる事になるだろう。けど、安心すると良いよ。私がその力の分を補填してあげるから』
『私は十分解っています。……しかし、1つ疑問なのですが、何故ユニ様はノスリ様の封印に力を貸してくれたのでしょうか? 邪神を封印するだけならば、他の神々も力を貸してくれると思いますけど』
実際、他の神々も邪神を滅するためと声を掛けられていたら、協力はしていたはずである。
『そうだね、そうだろうさ。私が声を掛けても協力はしてくれただろうね。だけど、私はそうはしなかった。
何故か? 邪神を確実に滅するためだ』
『確実に? 何かノスリ様を封印することで得られる邪神への対抗策でもあるのですか?』
『ノスリと、あと私以外の殆どの神は気付いていなかったけど、あの子には邪神の持つ力の欠片が埋まっている。私が豊穣に由来する力を持っているからかな? ノスリだけ歪んで見えたよ』
『成程? つまり邪神を滅した時に、ノスリ様がこの世界で活動していたら、最悪乗っ取られる可能性があるという事ですね』
『まぁそれもあるけど……、一番は君たちが居たことだね』
そう言うと、その人影は立ち上がり、部屋の壁に手を向けた。
しばらくその壁へ人影から霊力が流れると、突如として壁を構成していた土が崩れ、そこからダフルゥアイルィハニが覗けるようになった。
『私が考えていたこととして、先も言った通り、ノスリを封印しない事には邪神を滅することはできない。他の神達に邪神を滅する手伝いを要請したとして、あそこの神達はまず、ノスリを封印することに反対しただろうからね。
そうなれば邪神を滅することなんて夢のまた夢。今いる邪神を滅した瞬間、ノスリの中にある邪神の欠片から復活してしまう。ノスリを乗っ取ってね』
『そこでノスリ様を封印しようとしていた私たちが目に入ったと』
『そうだね、少なくともノスリを封印さえしてしまえば、その中の欠片も一緒に封印されるだろうからね』
人影の談では実際、随分と前に封印を施してから今まで、一度たりとも邪神の欠片がその力を覗かせてきたことは無いという。
『今日のところはこれで終いかな。また何かあったら連絡を頂戴ね』
『時間を空けていただいてありがとうございました。次はもう、当日になるはずです』
△▼△▼△
――私がノスリを傷つけるだけでいい。
――私が犠牲になればいい。
――私が悪になるだけでいい。
――私が全てを終わらせるから。
私が、私が、私が、私が、私が、私が、私が――――。
――私は、みんなの役に立ちたいだけだから。
だから、だからみんな、私の事も敵でいいよ。




