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103 解約陣


 具体的に雰囲気のどこが違うかと訊かれると、よくは判らないがでも確かに、違うと感じる雰囲気の変わりようではある。

 そんなどこが違うか分からないムーちゃんが、どこからか出てきたので話を進める。


「ムーちゃんって前に魔力も使えるようになりたいとか言ってたよな?」

「ん? うん、言ってたね! それがどうかしたの?」

「いや何、そのことをアセヴィルに言ったら付いて来ていいってさ」

「え、そうなの?」


 大分端折った気がしないでもないけど、詳細はまぁ、訊かれたらでいいよな。


「え、それって何か大きい用事があって、そのついでとかに魔族の秘術を受けさせてもらえるってこと?」

「あー、まぁ大体そんな感じだな」

「そうなんだね! ……それって何日か後の事? それとも今日にでもすぐに向かうの?」

「アセヴィルは今日中に出発できたら御の字って言ってたから、まぁ、ムーちゃんが行けるのなら今日になるだろうな」


 本当に唐突ではあるからな。ムーちゃんに何かしらの用事があって、今日すぐには無理っていうんなら仕方ない。

 その場合、ムーちゃんにはまたどこかの機会にでも、魔力、魔族の秘術をやってもらうしかないな。


「今日、だと……、大丈夫、かな? …………うん、大丈夫だ!!」

「お、じゃあ……、何時だ。うーん、いつになるか分からないから今からでも集まっておくか?」

「いいよ! 判らないなら一緒にいた方がいいだろうし」


 うん、スヴァさんもログインしたようだし、そろそろか。ちょうどよかったな。


「ちょうど最後の1人も起きてきたみたいだし、王城に行くか」

「分かった! じゃあお店の戸締り確認してからだね」


 ムーちゃんが店の戸締りを確認している後ろをついていき、しっかりと全ての、いや一部を除いた扉をしっかりと閉じたのを確認して王城へと先導した。



     △▼△▼△


「ウスヴァートとアスムーテが来たところでもう一度説明しておこう。――」


 王城へ向かう途中にスヴァさんと合流して一緒に向かい、アセヴィルの居る中庭に到着してすぐ2人へ向けた説明が始まった。

 ウァラはこの場には居ない。どうやら俺がムーちゃんを誘いに行っている間に自分の部屋かどこかに行ったようだ。



 一度聞いた説明を聞き流しゲーム内掲示板も流し見ながら、時間を潰す。


 魔王国に行くといっても、どれだけ時間がかかる事か。

 フレイトゥルから聖王国までは大体、どれくらいだ? 7日弱か?

 で、そう考えると聖王国と魔王国の中間地点であるダフルゥアイルィハニまで、これから行くと約10日がかかる計算だな。それがもう一度あるから約20日。


 吸血鬼たちの進行は約1カ月先だったはずだから、10日近くは猶予がある、いや、数日くらいか。

 あんまりもたもたしてられないぐらいにはギリギリな日程だな。


「――と、そんな感じの日程で行動する予定だ。……出発する準備ができているなら今すぐにでも出るが、大丈夫か?」

「俺は大丈夫やで」

「ボクもここへ来る前に準備はしてきたから大丈夫だよ」


 何やら視線を感じて思考を戻すと、アセヴィルが俺の方を見て話を終えていた。

 えーと、あぁ、もう出発できるならしようって感じか。


「俺も、大丈夫だな。あとはウァラが戻ってくるのを待つだけか」

「そうだな、まぁ後数分もすれば帰ってくるはずだ」



 実際にその言葉から5分後、大きな荷物を背負ったウァラが中庭にやってきた。


「お待たせしました! あれ、ムーも一緒に行くんですね」

「お久しぶりです、ウァラエル様! ボクは魔族の秘術を受けるために同行します」

「なるほど、ではこれからひと月近くよろしくお願いします」


 今更だが、この2人とも一人称が『ボク』なんだよな。しかもどことなく声の質も似ているから詳しく聞かないと聞き分けるのが難しい。

 慣れればネモとルテリアの時同様、簡単に聞き分けることができるようになるだろうが、なんとなく、それよりも難しい気がしている。

 特に根拠は無いけど、不思議と確信はある。


「ん、全員準備はできたか」

「たぶん?」

「まぁもしできていなくとも、国を出るまでの間にできる事ならまだ猶予はあるから大丈夫だろう」


 俺も、大丈夫、かな。特に減ってるアイテムとかもないし。

 それぞれ不足している物がないか最終確認をし、最後に、アセヴィルから何やら俺とスヴァさんへ渡すものがあるという事で、中位聖魔獣霊契約術の中位契約陣(コントラクト)を展開するように言われた。


「ではこれより、契約の解約と獣霊の再契約を行う。

 全ての空間を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。契約により繋がれし獣霊を、この地に呼び寄せる力を。」


 ――獣霊召喚陣サモンビーストスプリット――

 ――一角獣馬(ウニコルヌス):オロバムート――

 ――一角獣馬:ハミジト――


 アセヴィルの展開した術陣から銀の毛をした2頭が召喚された。


「全ての契約を司る神よ。この矮小なる身と矮小なる契約獣に力を与えたまえ。これまでの旅路の思いはそのままに、契約より獣霊を開放する力を。」


 ――(キャンセレー)(ション・オブ・)(コントラクト)――

 ――オロバムート――

 ――ハミジト――


 立て続けに2つの術陣を展開しそれぞれのウニコルヌスへと対応させ、詠唱から知るに、契約の解約を行ったようだ。

 術陣が消えた後でもオロとハミジトに変わった様子は無く、本当に契約は消えているのだろうか。


「これでこの2頭は完全に野生になったから好きな方と契約していいぞ」

「あー、じゃあ、俺はオロと契約していいですか? スヴァさん」

「ん、まぁええで。逸竜の時もイズホはオロに乗っとったはずやしな」


 という事で、展開していた中位の契約術陣に魔力を籠め始める。

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