98 神前の闘技-準決勝第1試合-後
《“天術・蘇生の加護”を受けました》
《対象に限定的な天術を付与しました》
《再使用可能まで残り--日--時間--分です。――計測が開始されませんでした》
《計測を開始するにはこのフィールドから退出してください》
えー、と……? 何が起こった?
取り敢えず、死ぬことは無かったってことで良いんだよな? どの何が作用したのか解らないけど。
いや、確か下級聖霊とか何とか聞こえた様な? つまり、ルテリアの能力か何かが勝手に発動したと、そういう事か?
天神の眷属がどうこうは知らないけど、俺の近くで下級聖霊って言ったらルテリアだけだしな。
今はステータスとかの確認はできないからまた後で、試合が終わってからにでも確認してみるとして。
この、俺の心臓が再生された能力に関して言えば、次は発動しない可能性の方が高いだろうから期待せずにいるとしよう。発動条件にしても、たぶん死亡時とかそんな感じだろうし。
そもそも再使用可能までの時間が分かんないから、期待するしない云々以前だろうな。
「何やら可笑しな能力を持っているようだが、どうせすぐには発動できないだろう。それに対して俺のこれは、まぁ、そうだな、殆ど無限に使える」
「それが? どうかしたのか?」
「いや? 特にどうという事は無い。ただただ教えてやっただけさ」
ん? つまり何か。「俺のこれはいつ何時でも使えるが、お前は違うんだろう?」と、そう言いたいってことか?
……うーん、よく解んないな。言ってる暇があるなら実際に出した方がいいだろうに、しかも、何回も使えるなら今ここで使ってもいいはず。それなのに使ってこずに土術の術陣を展開しているという事は、実際のところは、何回も使えることは使えるが自由には使えず何らかの条件があるか、それとも、そもそもがさっきの1回しか使えずにはったりをかましているか。
どちらにせよ使ってこないというのなら、淡々と、地道に術やら剣で相手のHPを削っていく方法か、天幻で1発大きく削れそうなら削ってみるか。
まぁ天幻を発動する場合、今まではそんなに気にしてなかったけど、発動中から発動後2、3秒は硬直があるから、そこだけは気を付けないといけないけど。
「全ての地を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを砕き貫く、鋭き岩の力を。」
――岩槍陣!!――
次に来る術を霊力を籠めた双剣で叩き切ろうと構えていたが、詠唱が終わり次の瞬間に術陣が消えたことで、咄嗟に後ろへ跳んだ。
本当にギリギリで足元に展開された術陣から出てきた5本の岩の槍は避けることができ、しかし、地面から突きあがった槍によってペテナの姿は見失った。
「全ての聖を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。聖を司る神の力の一端を、一時的に与える力を。」
微かに聞こえてくる声からして、たぶん岩の裏に隠れて近づいてきているんだろうな。
対抗して俺も同じように、付与まではいかないが霊纏を発動する。
武器的にどっちが上かは分からないけど、少なくともいなすことぐらいはできるはず。
――聖与陣――
どこから来るか、と目を凝らし、右左上と見回したが来る気配は無し。
取り敢えずこの岩邪魔だから、一旦消し飛ばそうかな。
「全ての水を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。足元から膨大な量の水を、噴出させる力を。」
――水柱陣――
岩のすぐ下から勢いよく水が噴き出し、岩を粉々に砕いた。
水の勢いが収まってから突撃しようと構えていたが、その前にペテナの方から突撃してきた。
水の中から飛び出してきたペテナは、再び真っ直ぐに俺の心臓目掛けて槍を突き出してくる。
咄嗟に槍の先端へ剣を合わせて弾いたが、どういうわけか槍本体が流動し、何事もなかったかのように再び心臓へと向かってきた。
紅い槍のおかしな挙動に驚きつつも、刺し貫かれないよう対応する。
突き出される槍を剣で弾いて流動して戻され、と繰り返し、次第に腕やら脇腹やらを掠めてくるようになってきた。
それが重なるにつれて俺とペテナの動きに差が広がっていく。
隙を見て傷薬とHP回復薬を飲むが、またすぐに少しづつ傷が増えていっているから殆ど意味がないように思える。
この、削られては治してのイタチごっこのような繰り返しも、アイテムの個数に限りがあるから無限には続けられない。
それに、実際どうなのかは判らないけど、次にいつあの一穿何とかが来るか分からない。今は温存してるだけなのかもしれないし、実際のところ2回目は使うことができないのかもしれない。
どちらにせよ、もうそろそろでかいのを1発、こっちから仕掛けない事には俺が負けそうだな。
「全ての聖を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを滅し貫く、限りなく浄化に近しい聖なる力を。」
一度大きく後退し、持ちうる限りの聖力を術陣に籠める。
術陣の中で聖力をできるだけ均等にし、最大限の威力が出るよう調節する。
――聖矢陣――
いつもより眩い輝きを放つ術陣から10本以上の聖なる矢が現出し、一直線にペテナへと襲い掛かった。
「血槍・樹血穿」
がしかし、ペテナが何やら呟いたと認識し、聖矢が紅い何かに弾き飛ばされたのが見えた瞬間、俺の視界は空を認識していた。不思議な浮遊感と共に。
視界がぐるりと回りフィールドの地面が見え、首のない自分の身体が見えたと同時に視界全体に『Dead』の文字が表示された。




