94 神前の闘技-6回戦第1試合-後
簡単に、この消風陣について判っている事を纏めると、師匠が使っているのを見た時は杖の数メートル先にその術の効果が出ていた。で、今の、ヴァーユが発動したものは魔力の過剰消費によって効果が、いや効果範囲が拡がっていると思われる。
効果範囲を拡げることによって対象を複数にすることができんだろうな。実際のところはどうか分からないけど。
そう、実際ルテリアは消風陣の効果に入っていない、と言うか効果を受けていないみたいなんだよな。今も聖矢を放ってるし。
術の効果範囲を拡げる代わりに強制力が無くなった、ないしは下がったのか、それとも、聖霊という存在、もっと言えばルテリア自体がそういうものを受け付けないのか。
どちらにせよ、ルテリアが術を撃てているのは事実。
故に術での攻撃はルテリアに任せて、俺は両の剣にそれぞれ霊力を纏わせ突撃するのみ。
『我らが聖なる神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを滅し貫く、限りなく浄化に近しい聖なる力を。』
――聖矢陣――
耳に響くという感覚もなく、直接頭に届けられているかのようなルテリアの詠唱を聞きながら、風術の術陣に魔力を籠めているヴァーユへと近づいていく。
「全ての風を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。叩き付けられるモノ全てを、切り裂く力を。」
――裂打陣――
この静寂の中でただ1つ耳を響かせる音の元へ走っていたが、詠唱の最後、「叩き付け」と「切り裂く」という言葉に、足が止まる。
2つ術陣を展開していたことから確実に、俺とルテリアそれぞれへ1つずつ放つことだろう。
ヴァーユの事を警戒しながら、頭上7、8メートルに展開された術陣へも意識を向け、烈風の鎚が生成されるのを待ち。どういうわけか通常の術よりも時間を掛けて術陣から鎚が現出する。
俺の出す水打陣と同等の大きさの鎚が生成され、ブゥンッ!!と轟音を立てながら頭上に迫ってくる。
どう対処するか。
直接的になら術では現状無理だから、双剣しかないが……。魔纏やら聖纏があるとしても、剣でどうこうできるとは思えないしな。
足を動かして避ける、か……? でついでに本体、というかヴァーユに双剣で攻撃を加えるか。
それが一番よさげかな、考えうる限り。
目の前にある今出てきた大きなものに対するよりは、さっきまでの目的のままでいた方がまだいいはず。
意外にゆっくりと墜ちてくる風の鎚を見上げながらそうと決め、両の脚を再び動かし始める。
ルテリアには自分でどうにかしてもらおう。俺からは今は何も言えないし、ルテリアならどっちでもなんとかしてくれるはず。
少しだけルテリアに対して不安がありつつも、しかしそこは過度に考えないようにして、ヴァーユへと肉薄する。
いざという時の為に持っていたらしい短剣に魔力を纏わせ、双剣の振り下ろしに対応される。
「全ての風を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを貫く、貫通の風の力を。」
――風矢陣――
双剣と短剣で数合斬り結んだのち、唐突に片方の短剣を杖に持ち替えて術を撃ってきたが、まぁすぐに対処はできた。
――ゴォォンッッ!!!
だが、その直後、真後ろから轟音、とまではいかないが岩の砕ける音がした。
ヴァーユと斬り結びながら軽く移動し推定惨状を確認してみるが、音の割には崩れていると言う感じもなく、ルテリアも変わらず生き残っている。
それだけ一瞬で確認して再びヴァーユと斬り結びに入るが、正直なところ、何故に術メインでサブに短剣を使っているのか不思議なくらいに短剣の技量が凄まじい。
もちろん術が好きだから、とか、そういうのは個人のあれだから良いんだろうけど、普通に短剣メインでもやっていけると思うんだよな。普段がそうでこの時だけ術メインの可能性もあるにはあるけど、どうなんだろうな。
なんて、呼吸はできるが音には出せない状況で1人考えていると、無事だったルテリアが何やら詠唱をしている声というかなんというかが聞こえてきた。
『我らが聖なる神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。聖なる神の力の一端を、一時的に与える力を。
我らが聖なる神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを滅し貫く、限りなく浄化に近しい聖なる力を。』
――聖与陣――
――聖矢陣――
エンチャントは俺へ、聖なる矢はそのままヴァーユへと放たれた。
計5本の矢は自由自在に、それこそそれぞれで意思を持っているかのように動き回り、ヴァーユが詠唱を始めようとしたところを1本ずつ狙っていっている。
「お」
とそんな風に呑気に見て、見ちゃってるけど、俺は俺で付与貰ってるんだよな。最後にひと当てするか。ルテリアに任せっきりも何だし。
更に聖力の圧力が増した聖剣と魔纏だけの魔剣を構えて、延々と追加され続けている聖矢に翻弄されているヴァーユへと近づいていく。
すぐに手の届く位置へと辿り着き、取り敢えず左の短剣を潰すために右の魔剣を振るう。
「全ての風を司る神よ。この矮小なる――」
――魔剣の一撃により短剣が壊れたからか、咄嗟に打開のために後退しながら何らかの術を発動しようとしたようだったが、未だ振るっていない聖剣を横に薙いでその首を刎ねた。
『神前の闘技6回戦第1試合、勝者イズホ!!』




