90 神前の闘技-4回戦第1試合
4回戦第1試合、“ハム”対“俺”。
既に見慣れた手順で闘技場のフィールドへと飛ばされ、サクサクと歩いて中央に寄っていく。
特に何かを待つという事もなく、審判のメフィトゥル様ヘ合図を送る。俺はもう始めてしまって大丈夫です、と。
『神前の闘技4回戦第1試合、“ハム”対“イズホ”。試合開始!』
「全ての火を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを燃やし全てを貫く、貫通の火の力を。」
――炎槍陣!――
大丈夫だとは合図したがそういえば、初めから挨拶も無しにやってたなぁ、なんて思いながら牽制で軽く術を撃ちながら後退する。
相手は連れていた狼を俺へ嗾けながら、その狼に向けて何らかの術を掛けようとしている。炎の槍は正直狙いなんて適当だったので簡単に避けられていたが……。
「全ての契約を司る神よ。この矮小なる身と矮小なる契約獣に力を与えたまえ。今一時、その枷を開放する力を。」
――中位活性陣――
水とかの付与の術の時と同じような光を纏った狼が更に迫ってきたので双剣で対応しつつ、こちらも、とネモを召喚しようと術陣を展開する。
「全ての空間を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。ただ一時ではあれど、契約により繋がれし獣霊をこの地に呼び寄せる力を。」
「全ての地を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを砕き貫く、鋭き岩の力を。」
――獣霊召喚陣――
――風の上級精霊:ネモシーユ――
――岩槍陣!――
素早くネモを召喚するが、その間にも相手から意趣返しかのように岩の槍が飛んできた。仕方ないから身体で受けよう、とも思ったけど、そういえば土属性には脆弱だったな。
で、土は確か風に弱かったはず、とネモに散らしてくれと合図を送る。
『我らが風の神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを切り裂く可能性を持つ、分離の風の力を。』
――裂槍陣――
素早く展開した術陣からは前回の試合でも見た風の槍が生まれ落ち、すぐに岩の槍にぶつかって対消滅した。微かに風の力が残っているようだが、それも少しすれば空間に溶け消えるだけ。
「全ての魔を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを貫く、貫通の魔の力を。」
――魔矢陣!――
ネモが岩の槍を散らしてくれている間、その隙を狙って狼が攻撃を仕掛けようと回ってきていたので、それを止めるか。2個前の試合と同じようにプレイヤーの方はネモに任せるとしよう。
ウロチョロと動き回る狼に対して比較的狙いやすい矢陣で対応し、俺からも近づいていく。
双剣を手に、水の術陣を更に展開する。
ついでに、できるか試したことの無いこともやってみるか。
それぞれの剣の先に展開した術陣へ、右の魔剣には魔力を、左の聖剣には聖力を流し、どちらも与陣へと変化させる。
「全ての魔を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。魔を司る神の力の一端を、一時的に与える力を。」
――魔与陣――
「全ての聖を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。聖を司る神の力の一端を、一時的に与える力を。」
――聖与陣――
術陣へ十分に魔力と聖力を流し、剣への霊力の付与を完了する。
その上で、魔纏と聖纏を同時に発動したらどうなるのか。そもそもできないのか。
魔纏か聖纏どっちかを付与の上に単体で乗せることはできるが、同時に発動できるかは確認していない。
例えば、魔与陣が掛かった剣の上に聖纏を発動するのが無理だとか、魔与陣の上に魔纏と聖纏どちらとも発動するのが無理だとか。
確実に今確認することではないっていうのは明らかその通りなんだけど、思いついた、ついちゃったものはしょうがない。
まずは一番発動できる可能性のある組み合わせで、魔纏と聖纏をそれぞれの剣に発動する。間違っても魔剣に聖纏だったり、聖剣に魔纏と聖纏の両方を発動するような、今の段階でも無理そうな組み合わせは、今はしないようにする。
結果として、1度目では魔纏と聖纏を完全同時に発動することはできなかったが、2度目は少しタイミングをずらすだけで発動することができた。
何がどう影響してそうなるのかは分からないけど、今はどうでも良いか。また後で、時間のある時に思い出したら調べてみるとして。
まだもっと多くの霊力をため籠めそうな双剣を握りなおし、狼に向き合う。
相対する狼は威嚇するように唸りながらも少しずつ近づいてきて、いつでも飛び掛かられそうだ。
「全ての水を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを貫く、貫通の水の力を。」
――水矢陣――
狼の足元と口元、その他周辺へと広範囲に散らばる様に矢を放ち、その後ろで力いっぱい狼に向かって踏み込む。
狼は高く跳ぶでも更に前に踏み込むでもなく、後ろに退くことで矢を回避したので、そのまま俺も矢には目もくれず更に踏み込む。
後退していた狼だったが唐突に何かに躓いたようで体勢を崩し、その歩みが止まった。その足元を見れば、どうやら俺がさっき放った矢によって抉れた地面の瓦礫に気づかず躓いたようだ。
狼が躓いたことで更に俺との距離が無くなり、一度深く足を進めるだけで剣が届く距離となった。
このチャンスを逃す手は無い。
念のため踏み込む前に狼の脚へ斬撃を1つ放ち、その上で直接、剣で斬りこむ。
1つ2つ、とそれほど深くは無い斬りこみだったが、それだけで狼のHPは全損したようだ。
『神前の闘技4回戦第1試合、勝者イズホ!』
ネモとハムの方を見るまでもなく、メフィトゥル様の言葉が響き渡った。
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