- / 0 終わりにして始まり-天生
「私はもう十分この世界に対して働いたと思いますが?」
俺は目の前の存在にそう問いかける。
――そうだね。十分働いたと思うよ。だが、それでも足りない――
――十二分の働きでないとこの世界は変化しない――
「チッ」
返ってきた意思に舌打ちを1つ零す。
「これ以上私は何をすればいいというのか。これまで4つの“世界”を歩み、この世界に対してそれこそ、十二分の働きをしたと自負していますが」
――いいや、君は十分の働きだ――
――水人族の肉体でも、魔族の肉体でも、悪魔の肉体でも、そして今の天使の肉体でも――
――その何れでも、君は十分の働きしかしていない――
――何れかの肉体では十二分の働きをしたのかもしれない。けど――
――この世界はそれぞれで十二分の働きを君に期待しているんだ――
そう、俺はこの世界で4つの生を歩んだ。
そしてそれぞれで最善、とは言えないまでもそれぞれで適当な選択をしてきたと自分では思う。
それをこの目の前の存在――“世界”は足りないと言った。
△▼△▼△
今現在いる場所は天界、その最奥。何もないが在る、そんな場所に世界の分け身と共に来ていた。
「で、これ以上私に何をしろと?」
――あら? 肉体の制限が外れかけているね。いや、舌打ちもしてたか――
――君がこの世界に居られる時間も、あと僅かという事だ――
――君の為にサプライズまで用意していたというのに、それも無駄になりそうだね――
そう言った“世界”の顔は一瞬、愉悦に歪んでいた。すぐに能面の様な無表情を張り付けた顔になったが、代わりにその銀の瞳の三白眼をこちらに向けてきた。
その瞬間、“世界”の雰囲気が変わった。先程までは無邪気な少年の様だったモノが、今では剝き出しの刃物の様に。
その手に、俺を一瞬で殺せる刃物を持っているかの様に。
――話を変えるが、君がこの世界に来たのはなぜだと思う?――
「何故? そんなものは決まっている。俺は“あいつ”に殺され、転生したからだ。魔族として。
殺され、この世界に魔族として転生した時は、憎い気持ちでいっぱいだった。
だが、それは今となっては有難いような、そんな気分だ。実際には有難くもなんともないが」
“世界”の問いにそう答え、“世界”を睨むような目つきで見る。
ついでに、肉体の制限とやらがあることを知ったからそれを意識的に外し、口調も天使になる前のものに変えた。
――なぜ、有難いんだい?――
「それは、お前がッ――」
再度の問いかけに声を荒げて答えようとした瞬間。
“世界”の右手に見覚えのある剣が現れ、それが俺の心臓部に突き刺さった。
「――ぐぅぅぅ!!」
――もういいよ。“君”には今度こそと期待していたが、期待外れだったようだ――
――……“君”を人間として今、この“時”をもって再誕させよう――
――地球の貝洲瑞保として――
――そしてぼくの分身の―― ――を使い、再度この世界に来させよう――
その、“世界”の呟いた名前にやはりと思い口を開こうとしたが、次の瞬間には俺の肉体は細切れにされ、魂までも細切れにされた。
魂の核を、俺の貝洲瑞保としての本質のみを残して。
――君には期待しているよ――
――まぁ、この言葉は“君”には届いても君には届かないだろうけどね――
――さようなら。最低でも119年後にまた会おうね――
完全に消滅するまでの最後の瞬間、その様な言葉が聞こえた。
△▼△▼△
神性暦7374年。
天魂の熾天使、アズラルテルの消滅が確認された。
同時刻、西暦3029年10月24日。
地球の日本のとある場所にて、1人の赤子が誕生した。
付けられた名は、『貝洲 瑞保』であった。
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