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災厄を防ぐために 1


 ご家族は正しい育て方をしたと、思う。

 確かに兄君たちと比べられたら私でも歪む自信がある。

 キングクラスと比べるなんて、無理無理の無理。

 ご両親はちゃんと愛情を持って育てておられたようだし、ジェラール様との婚約も今はマルセルが務める役割を彼女に任せて――と思っていたのだろう。

 ジェラール様を、守り救う役目。

 それを放棄しているのだから、愚かな気もするが……。


「いや、でも、それでマリーリリー様が覚醒するサタンクラスと断定するのは……ええと、他に理由があるのですか?」

「最近婚約破棄の件で陛下と兄君たちに責められたそうなの。本来であれば姫殿下がパーティーの損害代を、アースレイ殿下にお支払いして我が家へ賠償をするべき案件。私どもはフォリシア嬢が嫁いできてくれたから、賠償については請求していないのだが……」

「陛下とお妃殿下がパーティーの件でマリーリリー様が癇癪を起こした、と頭を抱えておられたの。セイントの侍女を配置して、就寝中に浄化を行なっていたそうなのだけれど最近は一日で邪念が溜まってしまうようになっていると」

「っ! それは……」


 たった一日で?

 それって、もう……。

 いや、だからこそ“覚醒前”なのか。


「今からでも陛下にマリーリリー様の浄化を進言しておこう。ジェラールの『予言』も添えて。今夜動いていただければ――」

「お待ちください。ジェラール様の『予言』は王城内です。万に一つのことを考え、陛下と王妃殿下、王子殿下と王子妃殿下方を城の外に避難させ、マリーリリー様には聖殿へご足労いただいて浄化を行うべきです」

「む、そ、そうだな……」

「私も発言をよろしいですか?」


 挙手をしたのは神妙な面持ちのマルセル。

 公爵様はマルセルに「もちろんだ、なんでも言っておくれ」と頷く。

 マルセルもサタンクラス。

 そこまで邪念が溜まりやすくなっているなら、サタンクラスの人間の意見が参考になるかも?


「ジェラール様は明日、王城に連れていかない方がいいと思います。それでなくとも王都で過ごすだけで雑念を吸いやすいのです。ルビが『予言』のあとだからなのか、ジェラール様の魔力が枯渇状態まで減っているとのことですし……本当は領地にお帰りいただいた方がいいのでしょうけれど……」

「え!? そ、そうなのか!?」


 ルビを振り返ると、こくん、と頷く。

 ウィザードのルビにはジェラール様の魔力量が目視できるから、『予言』のあとの魔力が枯渇しているのがわかったんだろう。

 ああ、それで私が抱えて階段を上ったり、ベッドに寝かせてもまったく起きる気配がなかったのか。

 魔力がなくなると体が動かなくなって、ひたすらに眠くなるからな。

 ジェラール様は魔力回復のために爆睡していたのか。

 それに、ドラゴンが生まれたら王都も……ジェラール様にも危険が及ぶ。

 とはいえ、魔力枯渇の休眠中に動かすのはどうなんだ?

 大丈夫なのか?


「ルビ、ジェラール様をティーロの町に運んでも大丈夫か?」

「問題ないと思います。わたくしが周辺に結界を張って雑念を遮断しますので、そのまま馬車でお送りするのがいいのではと思います」

「よし、ではそれで! ルビ、ジェラール様をよろしく頼むぞ。マルセル、公爵様たちも一緒にティーロへ連れて行ってくれ」

「なんだと!? フォリシア嬢、それはいけない! 私は公爵として残る。代わりにマルセル、ジェラールと妻を頼むよ」

「お、お任せください」


 というわけでジェラール様のことは義母様とルビとマルセルに任せて、私と公爵様と登城することにした。

 予言の日は明日だけれど、できることは今日からやっていくべきだ。

 今までジェラール様が寝ている間に予言をしていたのかどうかわからないけれど、今回は国の行く末に係わる予言だった。

 もしもこの予言が誰の耳にも届かなかったらと思うと、ゾッとするな。


「これは、マティアス公爵、突然どうされたのですか? 本日は登城予定ではなかったと……」

「緊急の要件だ。陛下に取次を頼む。『予言』の件と伝えてくれ」

「えっ!? は、はい!」


 やはり『予言』という単語の効果は大きい。

 公爵様を見つけた文官がすぐさま走っていく。

 ジェラール様がプロフェットなのは公開されていないと聞いている。

 なにせキングクラスと違って数十年に一度、一人しか生まれてこない激レアクラスだからな。

 公爵様の伝手で『予言』が手に入った――公爵家の関係者にプロフェットがいる、と今回のことで知られてしまったが仕方ない。

 場内が騒がしくなる。

 すぐに陛下の執務室に呼ばれ、公爵様とともに入室した。

 室内には陛下と数名の重鎮、従者、王子殿下がお二人、そして父上までいる。

 すごいな、父上も嫁入り以来だが……これほどの短時間にこれほどの面々を揃えるとは。


「『予言』があったと聞いた」

「はい。単刀直入に申し上げて――マリーリリー様のサタン覚醒ではないかと」

「っぅ!?」


 私は部屋の扉の横に待機し、公爵様が陛下たちにジェラール様の『予言』詳細を語る。

 そして、今までジェラール様が『予言』を行わなかったのはジェラール様が寝ている時に“寝言”として『予言』を行ったからなのか、国の行く末を左右するほど大きな『予言』だったからなのか。



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