蟲人族の国12
三層に来てすぐにノアちゃんのもう片方の靴が落ちているのが見えた
その横には、ノアちゃんの触覚・・・
蟲人族には触覚がある種族も多い
当然、引きちぎられるのはかなり痛いはず
それがここに落ちているということは、少なからずあの子が傷つけられているということ
私は怒りながらも冷静に、まずはダンジョンを突破することを最優先に考えた
ノアちゃんを攫ったやつは許さない
「フィオナちゃん、ちょっと本気で行くから、私に乗って」
「うん」
フィオナちゃんもかなり怒っていた
怖いどうのこうのを忘れて、静かに怒っているのが伝わってくる
猫型になった私は三層を走り抜け、出てきた魔物を斬り裂いて進む
もはやどんな魔物だろうと、襲い掛かる前に倒す
飛び出して来ようとも、こちらが先に仕掛ければ相手は難なく倒せた
そして三層の最奥
そこに小さなノアちゃんが倒れ、死神のような何かが覆いかぶさっていた
「ノアちゃんを返しなさい!」
私は全力で精霊魔法を撃ち込んだ
バジュウと開いての背中に直撃し、こちらを向く魔物
「ち、邪魔をするな」
「喋った・・・?」
ありえない
ダンジョンならともかく、野良ダンジョンに知性がある魔物が湧く可能性は極めて低く、ましてや喋る魔物なんて今まで確認されていない
相手のステータスでは、その正体はリッチとなってるけど、おかしい、リッチにしては魔力が高すぎる
それに、奴は私でも見えないくらいの速度で移動していた
どう考えても普通のリッチじゃない
「まだこいつの生気を吸いつくしていないんだ」
そう言ってこちらを見る奴の顔は、半分頭蓋骨がむき出しになってて、もう半分は人間の顔だった
「あと少しで私も完全復活できる。その時相手をしてやろう」
「いや、お前はここで討たせてもらう」
ノアちゃんを見ると、気を失って頭から血が流れてはいるものの、息はあるみたい
でも早くしないと、かなり生気を吸い取られていて危険
「ふん、私を誰だと思っている? かつてこの地を治めていた赤人族の王、レドゥなるぞ」
「あんたが誰かなんてどうでもいい。その子を返さないなら、ここで消滅させるまでよ」
「ノアちゃんを返しなさい!」
私とフィオナちゃんはいきなり全力の攻撃を加えた
「ラブレス、フルブレイド!」
「精霊魔法、覇浄の栄天」
浄化の光が雨あられと振る中、フィオナちゃんの愛憎の一撃が直撃する
「赤刀マガツマヨヒガ」
レドゥが真っ赤な刀を抜き、浄化の光を全て受け流したうえで、フィオナちゃんの攻撃をその刀で受け止めた
「うそ、全力の魔法だったのに」
「確かに強いが、私の刀はこれでも聖剣でね。光の魔法程度なら受けても問題ないのだよ」
こいつ、もしかして、魔王より強い?