蟲人族の国3
ネームドモンスター、仮にヘラクルとでも名付けておこう
見た目はヘラクレスオオカブトムシの外骨格を持った人型の魔物
目は真っ赤でな複眼で、大きな角が頭から生えている
その筋力はすさまじく、周りにある大木を片手で簡単にへし折るほど
捕まれば握りつぶされる
でもフィオナちゃんの速度は私より少し遅い程度
捕まることはないはず
相手は何もしゃべることなくフィオナちゃんの剣をその硬い外骨格の腕で受け止めた
ガキィイインと響く金属音
「うう、か、硬い」
思った以上に威力があったのか、ヘラクルは自分のひび割れた腕を見て驚いている
そしてニヤァと再び笑って羽を広げ、飛びながら向かって来た
「ラヴ、エイトスラッシュ!」
目にも止まらない八連の斬撃
筋力までも増しているために出来た芸当で、今までのフィオナちゃんの力だと筋線維が断裂していただろう
でも今の彼女の力なら、呼吸すら乱すことなく成し遂げてしまう
寸分たがわず全く同じ個所へ攻撃を加えたため、ヘラクルの左腕が斬り飛ばされた
「チェリッシュ、リラッシュ」
斬りつけるごとに相手の力が削られていく
ヘラクルは自身の体の変化に戸惑いながら、その場に倒れ動かなくなった
死んだわけじゃない
ただヘラクルは別の魔物として生まれ変わる準備が始まった
これがフィオナちゃんの新しい慈しみの力、慈愛の力
マリアリボーン
慈愛の心をもって相手を倒すことで悪意あるモノから優しい者へ
再び立ち上がったヘラクルの目にはもう狂気や殺意はない
まるで変身ヒーローのような見た目になり、なんだか優しそうな顔立ちになっている
「ミ、ミア、これ、成功したのかな?」
この力、今までは弱い魔物にしかやってない
兎型の魔物なんかでは簡単に成功してて、その子は今故郷の村でみんなの人気者になってる
フィオナちゃんの力具合からすればヘラクルにもちゃんと成功してるはず
私はゆっくり彼に近寄ってみる
「クルルル」
あ、鳴いてる
彼に手を伸ばすと、ゆっくりその手に触れ、優しく握ってくれた
「大丈夫、敵意はまったくないよ」
「やった!」
フィオナちゃんも彼に触れる
さっきまでは怖かったけど、こうして懐くと可愛いもんだ
まあ見た目は特撮ヒーローだけど
取りあえず彼は結構強そうなので、護衛として一緒に来てもらうことに
草食性らしくて、ご飯は野菜でいいみたい
人参をおいしそうに齧ってるところはなかなかに可愛いと思うよ
そして彼と共に歩き始めてから一時間ほど
ようやく蟲人族の国に到着した