過去
「やっぱりか。く、帝国め」
宿屋の店主ティティスは怒っていた
「まさかいくら国境近くだからと言って村が襲われるとは思わなかったが・・・。勇者か」
「勇者。レノン・・・」
二人は深刻な面持ちでため息をつく
「レノンはもういないティティス」
「分かってる。でも、勇者と聞くと思いだす。帝国に殺されたあいつのことを。あいつの忘れ形見のあの子が不憫でならない」
「本来ならあの子は王女で次期勇者。勇者姫になるはずだったからな」
この世界にも勇者というものがある
魔王が生まれる時、また反存在の勇者も生まれるのだが、先代勇者のレノンが魔王を倒した後、彼は今はない祖国の王女と結ばれ、娘にも恵まれた
平和な世界で幸せな暮らしが待っているはずだった
数年前に帝国が国を亡ぼすまでは
魔王を倒し、勇者としての力を失ったレノンは妻と娘をかばって死に、妻は何とか逃げたが、帝国兵に追われ娘をかばった傷が元で亡くなった
その時その娘を託されたのがターナー達
かつて勇者レノンの仲間だった勇者のパーティメンバーたちだった
戦士ターナー、賢者ティティス、大神官セピア、怪盗マーズ
五人は幼馴染でもあった
そして託された娘、フィオナこそが、次の勇者であった
帝国がなぜ勇者であるフィオナの存在に気づいたのかは分からないが、フィオナを隠さなければならないのは確実だった
この街に連れてきたのも、かつての仲間にその話をするためと、ここならば仲間たちがいるため守りやすかったからだ
「それでセピアやマーズには?」
「ああ、もう話してある。オレもかつてのように戦えるようになった。あの不思議な猫のおかげでな」
「その猫大丈夫なの? 鍛え抜かれた帝国騎士が簡単に倒されたんでしょう?」
「大丈夫だ。勇者であるフィオナがあの子に全く悪意を感じていないしな」
「確かにそれもそっか。まあ今は特別なちょっと変わった猫ってことにしとくわ」
ひとまず二人だけの話し合いは終わった
後日他の仲間二人も呼んでこれからについて話す予定である
「フィオナには辛い事実を突きつけることになるかもしれないな」
「いずれ話さなきゃいけないことよ。それに、あの子が勇者になったってことは、魔王がどこかに生まれてるってこと。以前と間隔があまりにも近いけど、魔王はいずれ人類の敵となる存在。倒さなくちゃ」
「ああ、そうだな」
二人はエールをあおった




