ポンニチ怪談 その58 ジコウ免疫疾患
マイマイナンバーカードと健康保険証と強制的に一体化したせいで、小規模医療機関がすべて閉鎖、医療は上級国民と呼ばれる人間が受けるようになったニホン国。しかし、最高の医療を受けられるはずの与党ジコウ党の元閣僚たちが次々と…
ニホン国、首都トンキン。小規模な病院や診療所、開業医などが軒並み閉鎖された中、残った数少ない大病院の最上階の個室のベッドに、初老の男性が横たわっていた。
「うう、く、苦しい」
苦しみ悶える男性にスーツ姿の若者は必死になって呼び掛けていた。
「コ、コウノン大臣、し、しっかりしてください。今、次の薬を…は、早くしてくれ、お医者さん」
後ろに控えていた医師は言いにくそうに
「その、秘書さん、あらゆる治療薬は投与し、外国からの最新機器も使用しております。しかし」
「しかし、なんだ!」
「おそらく、ほかのジコウ党の元閣僚の方々と同様、効かないかと。…いや、それどころかアトウダ元総理やダカイチ元大臣らのようなことになるかもしれません」
「ど、どういう意味なんだ。確かにジコウ党の元重鎮たちがなぜか次々に亡くなっているが、そ、それは医療機関が少なくなったからじゃないのか!」
「…確かに診療所、町医者がマイマイナンバー健康保険証一体化や急激な円安などで次々と閉鎖に追い込まれ、実質的に大半の国民が医療をs受けられなくなったということはあります。それでも、上級国民、すなわちジコウ党の方々やその関係者は例外です」
「それなら、どうしてそんなに死者が多いんだ!すでにジコウ党の大臣経験者の3/4が亡くなり、大臣付きの記者やINUHKのガンダダ・アキレコや学者のヨツウラ・ハリらも不審死だ!あんたら医者が何かやったんじゃないのか!マイマイナンバーを健康保険証と紐づけしたのがそんなに嫌なのか!」
声を荒げる若者に
「確かにとても、大変でしたけどね、あんな馬鹿らしいシステムに乗っかるのは。それでも我々は患者を苦しめるようなことはしませんよ。これでも医者ですから。こんな腐った医療システムに縋り付いて、貴方方のような人でなしを診なければならないとしてもね。…効かないんですよ、本当に薬が。おそらくジコウ党の方々、そのお仲間の免疫システムは破壊されてる、だからどんな治療も無駄なんです。体のほうが治る力がない。いや、逆に薬を敵とみなして攻撃し、自分さえも傷つけているんですよ」
「それは、どういう」
「多分、例のあのワクチンとやらで免疫が暴走したんでしょう。マイマイナンバーを健康保険証や、あらゆるカードと一体化させる際に混乱が起きる。当然医療機関にも影響が出る。新型肺炎ウイルスの第6回のワクチン接種ができなくなるかもしれない。それを恐れたジコウ党の方々が密かに国内で開発された新しいワクチンを打った」
淡々と話す医師に若者の顔は次第に青くなっていく。
「それは、その、く、国の重要人物が倒れたら、マズイ…」
「あなた方のご主人は国民でしょう?それを差し置いて、しかも内緒で打ったんでしょう、しかも議員さんだけでなく、御用学者や太鼓持ち芸人、すり寄ったマスコミ関係者もでしょう。うちの大先生もですけどね。僕らも打たされましたよ。この病院で勤務する限り拒否はできなかった、愚かだったと思いますよ、今じゃね」
医師はそっと腕をまくった。皮膚の一部がどす黒く変色していた。
「う、ま、まさか」
「常在菌にやられたんですよ、普通ならこんなことにはならないんですよ、免疫システムが働いているならね。欲をかいてジコウ党なんぞに組したせいで、このざまです」
「ひょ、ひょっとして、ぼ、僕の足の傷が治らないのは」
「ああ、そういえば、さきほどから足を引きずっておられるようですね、秘書さん。どうして傷がついたかはわかりませんが、確かにもう治らないかもしれませんね。徐々に傷がひろがって、組織が腐っていくでしょうね」
「ひいい、ま、まさか、ダカイチ大臣の髪が抜け、首がもげ落ちたっていうのも、ヨツウラさんの顔が膿崩れたっていうのも本当だったのか」
「私はみたわけではありませんが、たぶん本当でしょうね。アトウダさんが腹を壊してそのまま腸が腐っていったそうですし。ああ、うちの大先生は肝臓がすぐダメになってのたうち回って亡くなりましたよ、いかに薬を飲んでも、手術をしても無駄でした。コウノンさんは風邪のような症状でしたので一応抗生物質やほかの治療薬を投与したんですけどね。点滴でさえ受け付けないようです。体重もかなり減ってるのに、栄養素を吸収する力すらないようです。いや本来の栄養すら今の彼には毒のようだ」
医師はコウノン元大臣の枕元を指さした。吐いた痕跡がいくつもあった。
「だ、大臣、大臣、ま、まさか、もう」
「わかりませんが、長くないでしょうね…あなたも、私も」
「え?…ギャアア、あ、足が、足が」
秘書がガクッと倒れた。右の足首から膝のあたりまでが、床に転がっている。
「おや、足がもげたんですか。でも、それだけではたぶん済まないでしょうね、壊死がどんどんひろがって、やがて、全身にまわるんですよ」
「痛い痛いよおお、な、何とかしてくれ」
「無理ですよ、私もほら、腕がもげそうなんです」
と肘から黒く変色した腕がブラブラと揺れている。医師は哀しそうに
「これだけじゃないんですよ、胃も腸も本当はとても苦しいんですよ、ああ、ジコウ党なんかに、権力者に味方なんてするんじゃなかったなあ。免疫が破壊されるなんて、これは一種の罰とか呪いなんでしょうかねえ」
「ぐ、ぐるしいいい」
「ああ、もうおなかの方まで腐ってきたんですか、割と早いですね、若いからかなあ。ああ、私も、もう…」
床に転げまわる若い秘書を冷たい目で見ながら、医師はゆっくりと目を閉じた。
どこぞの国では、政府が利権をむさぼるために、国民の生活も健康も犠牲にしそうになっていますが、さてどうなるんでしょうかねえ。大人しく国民が従うのか抗うのか、まあ、迷走した政府が自滅っていうルートもあり得そうですけどね。