星空は見えたか?
ちなみにこれは、2008年作品。
ポケットのお知らせに書いてあるものとは違う作品です。
これとはまた別に書きますので。
ああ、暖かい部屋だ。私はこの1LDKのリビング――和室の部屋が好きだ。この畳の匂いと、部屋の片隅に置かれた本棚の古い匂いが好きだ。しかし、中央にソファやその正面にTVなど、似合わない物まである。勿論、これは私の趣味ではなく、私の彼が置いた物である。
私には長年付き合っている彼がいる。彼はとても優しくて、私が悲しい時やないている時に頭を撫ででくれるのが私はとても好きだ。
私は彼の事が好きだ。彼も私の事を好きだろう。だけど彼は浮気性なのか、私というものがありながら常に彼女をつくってくる。しかし、最後には私が残るのだ。それはきっと彼が一番好きなのは私であるからだ。だけど彼は懲りていないのか、それとも私の事が好きだという気持ちに気付いていないのか、また今日も彼女を作ってきたらしく、家にまで連れ込んできた。
「わぁー素敵なお部屋ね。何々、このアイドルが好きなの?」
女が部屋に入るなり喋り始めた。うるさくってたまらない、とばかりに私は耳を閉じた。不機嫌な態度を見せ付けるものの女は気付かない。攻撃してやろうか。
「あー! この子が貴方の言ってた子ね。可愛いー」
女が私の体に触れてくる。気色悪いことこの上ない。それにこの女に可愛いなどと言われる筋はない。まあ、年齢が低いから可愛く見えるのも当然だが、美人と言って欲しいものだ。
「んー何だか私は嫌われているのかなぁ? さっきからそっけない態度ばっかりなんだけど」
当たり前だ。私の彼に手を出す女なんかを好きになるものか。私はまだ幼いが、それでも彼の彼女だぞ。いい加減に手を離せ、とばかりに手で手を払った。
「まあ、仕方ないっか。あ、それよりもこの時間帯って面白いTVやってるよ」
ふん、彼の事を何も知らないんだな。彼はTVは見ないんだよ。彼が好きなのは読書とゲーム、それと勉強だ。勉強が好きだなんて流石、私の彼だけある。
「あ、TV見ないんだ? でもでも、面白いのやってるよ? ほら見てみて、この芸人さん私好きなの」
彼が嫌がってるじゃないか、いい加減にしろこの女め。彼はこの時間帯は読書と決まっているんだよ。それを邪魔するな。あ、彼ったらもう! 流されるままに見てるし……。
「ね? 面白いでしょう。あ、君も見ない?」
見るか阿呆、とばかりに私はそっぽを向いた。しかし彼が私の事を抱き上げて膝に乗せてきたので、仕方なく見る事にした。やっぱり彼の膝は良いな。
「あ、やっぱり彼の言う事は聞くんだ? それにしても膝の上なんて羨ましいなー。でも私だと重いか、テヘッ!」
テヘッ! とか可愛いと思ってるのか? 彼はそういうのは嫌いではないが好きでもないんだよ。やるならもっと可愛らしくやれ。
「あ、TV終わっちゃった。ねえ、外行かない? この時期だと寒いけど星空とか綺麗だよ」
今日は曇りだよ馬鹿女。見えるか。え、彼は行くのか? この女め、そんなに私と彼を引き離して二人きりになりたいのか。
「あ、君も行かない? 中々この時間に外出られないでしょ? 星空綺麗だよー?」
チッ、さっきから星空星空と……。本当に星空が見えたらお前を彼の女と認めてやるよ! どうせ空は曇って見えないだろうけどね。
それと確かに出られないが……誰が行くか! ふん、せいぜい今の内に楽しむが良いさ。最後に残るのは私なのだからな。
「この子行かないみたいだね。じゃあ二人で行こっか?」
女が玄関を開けて外に出た。外の寒い風が部屋に舞い込んで、彼が体をぶるっと震わした。おいおい、大丈夫なのか? と心配する私を他所に、彼は私に『じゃあ、留守番お願いな』と言って来た。
バタン、とドアがしまって、ガチャリと鍵がかけられる。一気に二人も居なくなって寂しくなった部屋で私は遅れて返事をした。
「にゃあ!」