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【書籍化】その心霊バイト、危険につき ~多重債務女とパチモン巫女のオカルトバイト営業忌録~【電撃文庫】  作者: 雪車町地蔵
第六章 隠し湯リゾートバイト

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第二話 秘境のリゾートで山菜採取

「――というわけで、説明は終わりだ。これから即戦力(そくせんりょく)としてビシバシ働いてもらうから、気合い入れてくれよな?」


 数刻前、あたしたちの窮地を救ってくれた管理人さんは、激励(げきれい)の言葉を投げてきた。

 彼を見た老人は、恐ろしいモノと出くわしたように顔を引き()らせ、すごすごと逃げ出したのだが。

 いまの飄々(ひょうひょう)とした管理人さんからは、あのときの凄味(すごみ)がまったく感じられなかった。


 そのあとすぐ、あたしたちは管理人さんの(みちび)きで、隠し湯リゾートへと到着した。

 宿泊施設は、ずいぶんと山間(やまあい)の奥まった場所にあって、なるほど見つからないわけだと得心がいった。

 従業員の宿(やど)()ねた食堂で、あたしたちは簡単なレクチャーを受けて、いまに至るというわけである。


 さて、仕事の内容は、主に雑務だった。


 雑務といっても、接客から配膳、掃除、洗濯、夜の見回りに食料調達と、かなり多岐(たき)にわたる内容だ。

 やるべきことを頭にたたき込んでいると、あっという間に業務開始の時間となってしまった。


 いま、ちょうど飯時(めしどき)だ。

 (やま)(さち)をふんだんに使った管理人さん手作りの料理は、この施設の売りらしい。

 宿泊客たちが、大挙(たいきょ)していた。


「どう思いますか、ニッカポッカ」


 忙しくオーダーを取るかたわら、藍奈が耳打ちをしてくる。

 どうもこうもない。


「普通すぎるね」


 そう、普通だ。

 店内は大入(おおい)りで、テーブルはすべて埋まっている。

 客たちは中年から年配(ねんぱい)が多く、ほとんどが似ていない男女の組み合わせ――つまりは夫婦であるように思えた。


 山奥の山小屋(キャビン)で温泉旅行。

 そう考えれば、なにもおかしなところはない光景だが……


 しかし、これは心霊バイト。

 異常が無いのは、異常である。


 神経をとがらせれば、違和感は皆無(かいむ)ではない。

 たとえば、食堂のあちこちに飾られている写真。

 その多くが、管理人さんと小さな子どもが写ったものばかりということ、ぐらいだろう。

 どれも同じ子どもである。


「なんか不気味(ぶきみ)だなぁ。さすがオーナーの紹介ってこと?」

「……どちらにせよ、しっかり働くことです」


 (うなず)き合って、あたしたちは仕事に戻った。

 昼食時が忙しさのピークかとも考えていたが、どうやらそういうわけでもない。

 食器や食べかすを片付け――厨房(ちゅうぼう)への出入りはなぜか禁止された――床を(みが)いていると、管理人さんが声をかけてきた。


「昼からは、料理の材料を調達してきてほしいんだよねぇ」


 材料? と、(そろ)って首をかしげるあたしたちに。

 彼は外を指さし、こう告げた。


「雄大な自然は、なによりの食料庫(しょくりょうこ)だろう?」



§§



「なにが『雄大な自然は、なによりの食料庫だろう?』ですか! いくら簡単な食料採取とはいえ、初回ぐらいは地理に明るいものをつけるべきでしょう!」


 表情は変えないまま、藍奈がキレ散らかしていた。

 仕方が無いことだと思う。


 ただでさえ肉体労働が得意ではないらしい彼女はいま、過酷な山中でフィールドワークを強制されていた。

 簡単に言えば、案内もなく山菜(さんさい)の採取をやらされているわけだった。


「第一、冬に山菜とかあるのですか。無いでしょうきっと」

「いや、結構あるよ、食べられるの」

「はぁ?」


 心底嫌そうな声を出し、こちらを見てくる藍奈には申し訳ないが、そこかしこに(みどり)はある。豊かな山だなと感じた。


「〝青い〟のは食べられる」

「……前から気になっていたのですが、おまえは色に例えるのが好きですね」

「見えたままを話してるだけだよ」

「なんだか、姉上と話している気分になってきました……」


 お姉さんと?

 深く話聞こうとすると、藍奈は面倒くさそうに手を振って。


「いいから、講釈(こうしゃく)を続けてください」


 と、話題を切り上げるように言った。

 あたしは頷く。


「例えば……これはヤマユリ」

「ユリが食べられるのですか。ああ、正月の」

「そうそう、ユリの根っこは大体ユリネだから、食べられる」


 それで、こっちはノビル。

 ネギとかニラとか、あの辺の感じだ。根も球根になっていて、しゃっきり美味しい。


「あとは……」

「ニッカポッカ。すこし、黙って」


 口の前で指を立てる藍奈。

 喋れと言ったり黙れと言ったり、この巫女は忙しい。


「聞こえませんか?」

「なにが」

「川のせせらぎ」


 言われるがままに、耳を()ます。

 蝉たちの声、虎落笛(もがりぶえ)(こずえ)のぶつかる残響(ざんきょう)……そして、水の流れる音。


「……!」

「行ってみましょう」


 下生(したば)えを()き分け、あたしたちは道なき道を進む。

 しばらく行くと、急に視界が開けた。

 そこには――


「これは、驚きましたね」


 藍奈が、戸惑いを隠せないといった様子で、驚嘆の息を吐いた。


「〝(かく)(さわ)〟ではないですか、これは」


 両手を広げたぐらいの川幅をした小さな沢が。

 山奥へと向かって、ひっそりと伸びていた――


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その心霊バイト、危険につき ~ビンボー少女とパチモン巫女のオカルトバイト営業忌録~

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その心霊バイト、危険につき ~ビンボー少女とパチモン巫女のオカルトバイト営業忌録~

著者 雪車町地蔵 イラスト あやみ

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