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【書籍化】その心霊バイト、危険につき ~多重債務女とパチモン巫女のオカルトバイト営業忌録~【電撃文庫】  作者: 雪車町地蔵
第四章 赤い〝禁后〟屋敷は瑕疵物件

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第一話 初日:瑕疵物件を多人数シェア!

「今度の仕事はぁ、大勢でやってもらいますぅ。よろしいですかぁ?」


 いつだって開店(かいてん)休業(きゅうぎょう)状態の、ハロワの42番窓口で。

 受付の中年男性が、相変わらず奇妙なイントネーションで、求人要件を確認をしてきた。


「……藍奈(あいな)以外と心霊バイトするの、初めてかも」

「それだけぇ、架城(かじょう)さんがこなれてきた、という話ですよぉ。お仲間さんにも、アドバイスとかしてあげてくださいねぇ。あぁ、こちらにお名前、いいですかぁ?」

「はいはい、いつものいつもの」

「架城日華(にっか)……やっぱり、珍しいお名前ですねぇ。源氏名(げんじな)だったりぃ?」

「にゃははははは」


 そろそろ厳しくなってきたやりとりに、苦々(にがにが)しい笑いを返していると、受付さんはまた、紙片を握らせてきた。

 手のひらの中だけで開けば、


『忘れていろ 仲間になるな』


 ……やはり、意味不明な文言(もんごん)(したた)められていた。


「ニッカポッカ、こちらも書類、終わりましたよ」

「オッケー。じゃあ、藍奈。そのまま現地に行こうよ。あたしが運転するからさ」

「……電車で行きましょう」


 そういうわけで一路(いちろ)、あたしたちは某県郊外(こうがい)へと旅だった。



§§



 旧家(きゅうか)という言葉がある。


 地方の名家を指す言葉だ。

 あからさまに歴史ある武家屋敷(ぶけやしき)から、文金高島田(ぶんきんたかしまだ)()った和装の女性が出てきたときは、思わずそんな言葉を想起(そうき)してしまった。


「ようこそいらっしゃいました! あなたがたが最後のご到着です、おまちしていましたよ! 早速、お仕事の話をしましょうか!」

「うぉ……?」


 おしとやかな風体(ふうてい)をした女性が、いきなり強いコミュ力を発揮してきたものだから、日陰者(ひかげもの)としては面食(めんく)らってしまう。

 あの藍奈ですら、目を丸くしていた。


「えっと依頼人さん、だよね?」

「はい!」

「名前を聞いても、いい?」

「皆さんにやっていただくのは、とっても簡単で楽しいお仕事なんです! だから、ぜひ他のお友達とかにも紹介してあげてくださいね!」


 おい。


「あらー! そちらの巫女さんはとってもお綺麗! きっとこの仕事に向いているわ、頑張ってね!」


 だから、おい。

 無視をするんじゃあない。


「職務内容だけど、まず別宅(べったく)入居(にゅうきょ)してもらいます。そこは賃貸(ちんたい)なんだけど、以前に死人が出てしまったのね? このままだと次の利用者さんに通告(つうこく)の義務があるんだけど――」


 駄目だ、のれんに腕押し、(ぬか)に釘。

 ぜんぜん主導権(しゅどうけん)を握らせてくれない。


 仕方ない。

 顔を見合わせ、お互い観念(かんねん)したことを理解したあたしたちは、静聴(せいちょう)の構えに入った。


「はい、ここで裏技(うらわざ)! 間に誰かが賃貸契約すれば、次の方にお教えする義務はありませーん! ね? 素敵でしょう?」


 素敵かどうかは解らないが、つまり今回の業務は……


「ええ、そう! あなた方には十日ほど、別宅を借り受けてもらうわ。食料や、生活必需品なんかは、十分な量の準備がありますからご安心ね! 屋内に入ったらすぐ、この封筒を開けて、指示を遵守(じゅんしゅ)してください。ぜったい、ぜーったいよ? 賃貸契約なんかの手続きは全部こっちで終わらせているから気にしないで。なにか質問は? ない? ないわね! それじゃあ他の皆さんと合流しましょう! 案内します、ごあんなーい!」


 立て板に水を流すがごとく。

 やけに流暢(りゅうちょう)で、じつに慣れきった様子の説明が、あれよあれよという間に終了する。

 封筒を押しつけられたあたしたちは、勢いのまま別宅へ連行されてしまうのだった。


 うーん、胡散臭い!



§§



 別宅は、奇妙な建物だった。

 武家屋敷とは正反対のコンクリート造りで、しかしやたらめっぽう歴史を感じさせる。


「近代建築ではないですね。形式が古すぎる……」


 専門分野でもないだろうに、藍奈はそう呟いた。


 家の前まで行くと、他の参加者たちの姿も見えてきた。

 これは確かに、大人数だ。


「おー、あんたらも心霊バイトか?」


 こちらに気がつくなり、フランクに声をかけてきた女性がいた。

 そばかすの目立つ短髪の女性だった。


「って、メッチャ美人の巫女さんやんけ! はぁ……いるんやな、世の中には絶世(ぜっせい)の美女ってやつが」

「当然です、私の美貌(びぼう)は世界で二番目なので」

「ははぁ? さては訳ありやな……って、それはお互いさまか! あ、わたしは夕子(ゆうこ)。こっちは相方の歩美(あゆみ)


 そばに居た眼鏡の女性を抱き寄せながら、夕子さんはニシシと笑った。

 紹介された歩美さんはどうにも嫌そうな顔で、


「歩美よ。仲良くするつもりはないわ。せいぜい足を引っ張らないでちょうだいね」


 ツンケンとそう言うに止めた。


「わりぃ。こういう性格なんや。ほかにも今回は、ぎょーさん参加しとるな。見知らんやつばっかりやけど」


 夕子さんは一度首をかしげ。

 それからすごくチャーミングに笑って。


「ま、関係あらへんか。うちらは知り合ったばっかやけど、これもなにかの(えん)ちゅーことで! 力合わせて頑張ろうや」

「こんなやつら、どーだか」


 夕子さんと歩美さんは対照的で、だからこそよいコンビだと思えた。


「……素人しかいないのですか、心霊バイトは」


 藍奈が、やけに辛辣(しんらつ)な、どこか呆れたような口調で、そう(こぼ)した。

 なにか、気に入らないことがあったらしい。


 さて、簡単な挨拶を終えるのを見計らったように、依頼人が別宅へ入るよう(うなが)してきた。

 指示に従って、一歩屋内に入った瞬間、


「――っ」


 あたしは、強い痛みを左目に覚えた。

 一方で他のみんなは、言葉を失っていた。


「なんじゃこりゃ……」


 ようやく夕子さんが絞り出したその台詞は。

 この場にいた全員の気持ちを代弁していたと思う。


 赤かった。


 壁も、床も、天上も。

 調度品(ちょうどひん)も、立ち並ぶものも、(あか)りさえも全てが赤く塗り固められていた。


 赤のなかに〝赤〟がある。

 ……これじゃあ、見分けが付かない。


「本当ですよ、私の緋袴(ひばかま)が目立たないではないですか」


 ぷんすこと怒りをあらわにする藍奈だったが、たしかに彼女のアイデンティティーは失われていた。


「それでは、何卒(なにとぞ)よろしくお願いしまーす!」


 ガチャン! と、やけに大きな音を立てて。

 入り口の扉が閉め切られる。


 もはや二度と開くことがないように、ドアを(へだ)てて外界が遮断(しゃだん)される。


 うん――


「お仕事開始だね」

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その心霊バイト、危険につき ~ビンボー少女とパチモン巫女のオカルトバイト営業忌録~

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その心霊バイト、危険につき ~ビンボー少女とパチモン巫女のオカルトバイト営業忌録~

著者 雪車町地蔵 イラスト あやみ

― 新着の感想 ―
[良い点] 不動産屋って頭がいいなぁ……(※迫真
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