第一話 初日:瑕疵物件を多人数シェア!
「今度の仕事はぁ、大勢でやってもらいますぅ。よろしいですかぁ?」
いつだって開店休業状態の、ハロワの42番窓口で。
受付の中年男性が、相変わらず奇妙なイントネーションで、求人要件を確認をしてきた。
「……藍奈以外と心霊バイトするの、初めてかも」
「それだけぇ、架城さんがこなれてきた、という話ですよぉ。お仲間さんにも、アドバイスとかしてあげてくださいねぇ。あぁ、こちらにお名前、いいですかぁ?」
「はいはい、いつものいつもの」
「架城日華……やっぱり、珍しいお名前ですねぇ。源氏名だったりぃ?」
「にゃははははは」
そろそろ厳しくなってきたやりとりに、苦々しい笑いを返していると、受付さんはまた、紙片を握らせてきた。
手のひらの中だけで開けば、
『忘れていろ 仲間になるな』
……やはり、意味不明な文言が認められていた。
「ニッカポッカ、こちらも書類、終わりましたよ」
「オッケー。じゃあ、藍奈。そのまま現地に行こうよ。あたしが運転するからさ」
「……電車で行きましょう」
そういうわけで一路、あたしたちは某県郊外へと旅だった。
§§
旧家という言葉がある。
地方の名家を指す言葉だ。
あからさまに歴史ある武家屋敷から、文金高島田を結った和装の女性が出てきたときは、思わずそんな言葉を想起してしまった。
「ようこそいらっしゃいました! あなたがたが最後のご到着です、おまちしていましたよ! 早速、お仕事の話をしましょうか!」
「うぉ……?」
おしとやかな風体をした女性が、いきなり強いコミュ力を発揮してきたものだから、日陰者としては面食らってしまう。
あの藍奈ですら、目を丸くしていた。
「えっと依頼人さん、だよね?」
「はい!」
「名前を聞いても、いい?」
「皆さんにやっていただくのは、とっても簡単で楽しいお仕事なんです! だから、ぜひ他のお友達とかにも紹介してあげてくださいね!」
おい。
「あらー! そちらの巫女さんはとってもお綺麗! きっとこの仕事に向いているわ、頑張ってね!」
だから、おい。
無視をするんじゃあない。
「職務内容だけど、まず別宅に入居してもらいます。そこは賃貸なんだけど、以前に死人が出てしまったのね? このままだと次の利用者さんに通告の義務があるんだけど――」
駄目だ、のれんに腕押し、糠に釘。
ぜんぜん主導権を握らせてくれない。
仕方ない。
顔を見合わせ、お互い観念したことを理解したあたしたちは、静聴の構えに入った。
「はい、ここで裏技! 間に誰かが賃貸契約すれば、次の方にお教えする義務はありませーん! ね? 素敵でしょう?」
素敵かどうかは解らないが、つまり今回の業務は……
「ええ、そう! あなた方には十日ほど、別宅を借り受けてもらうわ。食料や、生活必需品なんかは、十分な量の準備がありますからご安心ね! 屋内に入ったらすぐ、この封筒を開けて、指示を遵守してください。ぜったい、ぜーったいよ? 賃貸契約なんかの手続きは全部こっちで終わらせているから気にしないで。なにか質問は? ない? ないわね! それじゃあ他の皆さんと合流しましょう! 案内します、ごあんなーい!」
立て板に水を流すがごとく。
やけに流暢で、じつに慣れきった様子の説明が、あれよあれよという間に終了する。
封筒を押しつけられたあたしたちは、勢いのまま別宅へ連行されてしまうのだった。
うーん、胡散臭い!
§§
別宅は、奇妙な建物だった。
武家屋敷とは正反対のコンクリート造りで、しかしやたらめっぽう歴史を感じさせる。
「近代建築ではないですね。形式が古すぎる……」
専門分野でもないだろうに、藍奈はそう呟いた。
家の前まで行くと、他の参加者たちの姿も見えてきた。
これは確かに、大人数だ。
「おー、あんたらも心霊バイトか?」
こちらに気がつくなり、フランクに声をかけてきた女性がいた。
そばかすの目立つ短髪の女性だった。
「って、メッチャ美人の巫女さんやんけ! はぁ……いるんやな、世の中には絶世の美女ってやつが」
「当然です、私の美貌は世界で二番目なので」
「ははぁ? さては訳ありやな……って、それはお互いさまか! あ、わたしは夕子。こっちは相方の歩美」
そばに居た眼鏡の女性を抱き寄せながら、夕子さんはニシシと笑った。
紹介された歩美さんはどうにも嫌そうな顔で、
「歩美よ。仲良くするつもりはないわ。せいぜい足を引っ張らないでちょうだいね」
ツンケンとそう言うに止めた。
「わりぃ。こういう性格なんや。ほかにも今回は、ぎょーさん参加しとるな。見知らんやつばっかりやけど」
夕子さんは一度首をかしげ。
それからすごくチャーミングに笑って。
「ま、関係あらへんか。うちらは知り合ったばっかやけど、これもなにかの縁ちゅーことで! 力合わせて頑張ろうや」
「こんなやつら、どーだか」
夕子さんと歩美さんは対照的で、だからこそよいコンビだと思えた。
「……素人しかいないのですか、心霊バイトは」
藍奈が、やけに辛辣な、どこか呆れたような口調で、そう溢した。
なにか、気に入らないことがあったらしい。
さて、簡単な挨拶を終えるのを見計らったように、依頼人が別宅へ入るよう促してきた。
指示に従って、一歩屋内に入った瞬間、
「――っ」
あたしは、強い痛みを左目に覚えた。
一方で他のみんなは、言葉を失っていた。
「なんじゃこりゃ……」
ようやく夕子さんが絞り出したその台詞は。
この場にいた全員の気持ちを代弁していたと思う。
赤かった。
壁も、床も、天上も。
調度品も、立ち並ぶものも、灯りさえも全てが赤く塗り固められていた。
赤のなかに〝赤〟がある。
……これじゃあ、見分けが付かない。
「本当ですよ、私の緋袴が目立たないではないですか」
ぷんすこと怒りをあらわにする藍奈だったが、たしかに彼女のアイデンティティーは失われていた。
「それでは、何卒よろしくお願いしまーす!」
ガチャン! と、やけに大きな音を立てて。
入り口の扉が閉め切られる。
もはや二度と開くことがないように、ドアを隔てて外界が遮断される。
うん――
「お仕事開始だね」





