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2-1.「レイ様……?」

章題回収。


スヌト王国は()()()、“差別をしない国”である。だから樹人族ライトが宮廷魔導師筆頭になっても表向き文句は言われないし、街中に色違眼いろちがんが歩いていても石は飛んでこない。そして、実害がないなら特段気にしないのが、零である。


ライトのおかげで無一文でも王都に入ることが出来た零は、知り合いとの待ち合わせ場所へ向かっていた。


大体アヤと同じ時期に知り合った彼女・・は、約半年前に「恩を売ってくる」と言って森から去った。その後、この王都に滞在しているとアヤが知らせてくれた。

だから、右も左もわからないという事態には陥らないはず、だった。


零には一つ、弱点がある。本人も自覚しているほどの、致命的な弱点が。


(……迷った)


無表情に加え生気のない瞳。それを見れば零が人々の“悪魔”カテゴリに入るのは当然のことと言えた。

会う人全てに石を投げられ、罵詈雑言を浴び、生きる気力すら失った者たち。

彼らの有り様を見ている人たちから見るほど、零は“悪魔”に入ってしまう。


だから、零は人通りの少ない裏路地を移動していた。迷うわけだ。

それに、表通りはパレードが開催されるということで非常に人が集まり、賑わっていた。


人々の会話を聞いてそのことを理解した零。ほとんど全員がきたる馬車を待っているので、この辺りで待ち人を探してみることにする。

注目されないようにほどほどに移動しつつ、探していく。さすがに人が大勢いる前で魔術を使うわけにはいかない。


表通りを半分くらい探し終わった後、にわかに辺りが騒がしくなった。パレードの主役がやってきたのだ。

騒がしいを通り越しうるさくなってきたので、奥の方へ引っ込む。


人が散るまで適当に隠れていようと考えて閉じこもっていた時、好奇の視線を感じた。

今まで嫌悪と非難の視線ばかりだったので、物珍しさに深く考えず顔を上げてしまって──後悔した。


髪と瞳の色こそ違えど。

見間違えるはずもない。


視線の先、馬車からこちらをみる顔つきは。

紛れもなく、前世で良く見ていた顔で。


一つの単語が、その唇から溢れた。


「レイ様……?」



“宇宙に名だたるストーカー”ギンガ。


シロオンの最上級プレイヤーで──『帝国四天王』次席騎士セカンドナイト


零をこの世で一番よく知る人物が、そこにいた。



もう、会えないと思っていた。

別れの言葉も言えず、離れるのだと。


しかし、運命はどうやら──


──レイ様の味方をしたらしい。




門が厳かに開く。中にいた大勢の人たちが自分たちを讃える。

馬車はゆっくりと進み、向こうに見える王城に近付いて行く。


パレードはコレで二回目だ。正直言って慣れないが、仕方のないことだと割り切っている。


ファンサービスに余念のない勇樹が手を振る。無駄に良い顔とスタイルでその方向にいた数十人の女性が倒れ伏す。


勝人はその状況にため息をつく。こんな状況はこの世界に来てから数え切れないほど見た。リアクションが淡白になるのも仕方がないことだ。


「また。何が楽しいの?」


「同意します。あれで()()()ますからね。手に負えません」


またやってるよ、と呆れ眼の千輝に同意する。瑞希に気づかれないように隠しているが、勇樹は婚約者持ちである。彼女は既に他界しているが。


「……ナンカ言ったか?」


「いえ特に。ただの雑談です」

「別に。一発ギャグ予想賭け」


「賭けるな。魅せモン……では、あるけど」


何とか話から遠ざけることに成功し、一息つく。千輝も同じだったようで、疲れた笑みを見せる。

改めて民衆に向き直り、対応していると、とある色が目に留まった。


紫。


(勝人の中では)最も尊い色にして、最も高貴な色。

その髪の持ち主が気になって、身を乗り出した。

視線に気づいたのか、持ち主が顔を上げる。


綺麗な白い肌に、宝石のような紅と蒼の瞳。

そして何より、見覚えのあるその顔は──


「レイ様……?」


つい、その名を呼んでしまう。


シンクロオンライン、攻略不可プレイヤー。"ヒュドール帝国"、不動のトップ。

そして、自らの主人である、「レイアース」その人だった。





目と目が合って。

しばらくの間、勝人はぼーっと、零に見惚れていた。


奇しくも、あの時──出会った時──と同じように。


対する零は、瞳に驚きを映すと、後ろの路地に向かって全力で滑っていった。


零の視線が外れるのと、


「勝人?」


勇樹の声によって勝人は現実に引き戻された。

しかし、それは勝人の決断を早めた。


勝人は脳内に王都網羅マップを浮かべると、


「勇樹、後は頼みました」


「ストッ……ちょ、待……」


静止の声も聞かず馬車から飛び降りた。


上昇気流を操作し無傷で着地すると、零が逃げた方へ全力で走った。


人目もくれず、ただ零に会いたいという一心のみで。



全力鬼ごっこから数十分。


零は絶賛迷っていた。


行き止まりに当たったら終了という意識が方向音痴に拍車をかけ、後ろに数秒残る氷の道がプレッシャーを与える。

さらに言えば、土地勘の差は明確で、どちらが最終的に勝つかは明白だった。


なので零は、危険を冒してでも待ち人と合流する方法を選んだ。


空へ向けて、氷弾を一発打ち込む。すると、青い羽毛に一本の赤い線が入っている小鳥が一羽、零の下に飛んできた。

そこに向けて、もっと言えば小鳥の主に向かって、零は話しかけた。


「アリス。迷った」


『全く……そこから左。そっちを右。もう少ししたら右に曲がって』


こうなった原因も聞かずに、現在の状況に対し解決策を示してくれたことに感謝し、指示に従う。


連絡から数分で表通りにたどり着いた。今までの時間は何だったんだろう。


『右よ。その後は真っ直ぐで良いわ』


人にバレるといけないので隠蔽結界を用いつつ滑る。

その後徐々に減速し、一人の女性の前で完全に止まった。


「レイ。久しぶりね」


金髪のショートカット。赤のカチューシャで髪を飾っている。瞳は橙に輝き、光をキラリと反射する。初夏に似合う五分袖の上品な服と、膝丈の紺色スカート。

その容姿は最後に会った時と何ら変わりなかった。


“糸遣い”アリス。前々代勇者の同行者にして、人間ならざる者。


「レイ様……方向音痴は治ってないんですね……って、あれ」


ようやく追いついた勝人がアリスを視認して、驚きの声を上げる。


何故なら彼女は、


「お知り合いだったんですか」


「そっちこそ、ね」


今代勇者の「通訳係」でもあるのだから。



王城前で、勇樹たちと合流した。


零を知る二人によって、零の人前逃走は阻まれた。

そのかわり、いつもより表情が死んでいるが。


「レイ様。こちら、幼なじみの勇樹と千輝。そして、クラスメイトの瑞希です。勇樹と千輝には何度か話していますが、こちら、『シンクロオンライン』の無敗帝王、レイアース・ヒュドール様です」


「初めまして、北川勇樹です。噂はかねがね伺っておりました。お会いできて光栄です」

「初めまして。清水千輝。勝人の主人と聞いております。お会いできて光栄です」

「初めまして。鐘平瑞希と申します。これから、よろしくお願いします」


「……レイアース・ヒュドール」


三者三様の自己紹介と、名前だけ言って沈黙する零。その様子を見て、アリスが軽くため息をつく。

勝人も一瞬呆れを浮かべたが、すぐにそれを消すと、とびきりの笑顔で言った。


「では、顔合わせも終わったことですし、国王様に当分の住居をもらいに行きましょう」


零の動きが止まる。言葉にすれば『聞いてない……』だろうか。


その声無き声が聞こえたのか。


「言ってませんからね」


勝人がそう補足した。


負のオーラを放出し始めた零を宥めるように、


「あ、レイ。アレ持ってれば大丈夫よ」


アリスがフォローを入れる。オーラの放出は収まったが、さっきよりもさらに表情が死んでいる。


「レイ様は話さなくても構いませんから。それに、アリスさんも同行しますので──」


腕を引っ張る勝人と、背中を押すアリスに勝てず、ズルズルと引きずられていく零。

そんな零の後ろをついていく三人は、


(やっぱ、優しいんだな……なるほど、アレがツンデレ)


(拒まない。勝人の気持ちがわかったかも)


(強引に……大丈夫でしょうか)


三様に、あるいは二極に、違うことを考えていた。


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