1‐13.(……ごめんな、アヤ)
時間が足りない……
今回も文字数少なめです。
報告をし終え、目の前の人物を固唾を飲んで見守る。
「……わかった。そうしよう」
ギルドマスターのその言葉に、思わずハイタッチを交わす二人。
あの後、帰ってきた二人はギルドマスターに面会を希望。
Sランクという強権でごり押しし、報告と作戦変更のお願いをした。
「良いんですか? 変えてしまって」
「構わないさ。大本の作戦は変わらん。それに、人々の生存率が上がるのだからな」
同席したサブマスターの質問に、ギルドマスターが答える。
多少人員の変化が起こるだけで、死者数を減らせるとなれば、ギルドマスターが方針を変えない理由がなかった。
二人がお礼を言い去って行った後、サブマスターが呟いた。
「ここに来て、協力者ですか……これも神のお導きかもしれませんね」
「どうだろうな。俺のところの守護神は仕事をしないことで有名だからな」
ギルドマスターの返しに思わず吹き出すサブマスターと、つられて笑うギルドマスター。
ひとしきり笑った後に、サブマスターが再度質問した。
「ふぅ……このタイミングということは、彼女が動いたんですかね?」
「おそらくな。全く、今度はどんな酔狂者なんだか」
サブマスターから視線を外し、遠くの森へ思考を馳せる。
長い耳を持つギルドマスターは、狐耳のサブマスターに聞こえないように呟いた。
「あれから三百年。目的は以前変わらず、か」
魔王に従いし神獣は、彼の記憶の中で微笑んでいた。
◆
星々が輝く時間に、未だ眠らない一つの影がある。
「というわけで、よろしく頼むよ」
『……そのうち、クビになるぜ、お前』
「本望だね。あの王には忠誠心がわかないや」
窓を開け、魔力線を利用した通信で会話をしている。
防音魔導を使っているところから見ると、どうやら内容を秘匿したいようだ。
昼間と違い、瞳はぱっちりと開き、髪の毛からは体内から溢れた魔力が溜まっている。
『ったく。後一ヶ月は我慢しろ。"救世主"が来るんだろ』
「あー。仕方ないね、我慢するよ。……で、返事の方は?」
ズレた話を無理やり戻し、尋ねる。
まあ拒否権など存在しないのだが。
『はいはい、適当にやっておくぜ』
「ありがとね。敵役、大変だろうけど……」
『問題ないぜ。必要経費だ』
その答えに一瞬目を伏せるが、すぐにかぶりを振って話す。
本人が大丈夫というのなら、それを信じよう。
それは自分にはできないことだから。
「ならいいや。けど……だいぶ気付かれているようだね、ヨミ?」
『一番気をつけるのはお前だぜ、ライト。半分以上バレてるんだからな』
「気をつけとくよ。じゃ、手筈通りにね」
通信を切って、窓を閉じる。南の森に思いを馳せ、ライトは静かに呟いた。
「さて……封印の扉は開くのかな?」
◆
黄金の光が東に煌めき、星々の灯が儚く消え去ろうとしているころ。
夜に同化した、どんな光であろうとも飲み込む闇の森にて。
招かれざる客を待つ、一つの影があった。
(今日か)
高貴な雰囲気を纏う、蒼の服に身を包んだ一人の少年──零。
こんな時間に起きている理由は単純である。眠れなかったのだ。
本当に人を殺すかもしれないという緊張もあるが……今までの記憶が主な理由だ。
──欲を満たすためだけに造った帝国──
──ストレス発散のため生まれた永久凍土──
──私的怨恨のため生まれた永久焦土──
──自分のせいで焼け落ちた公国──
自分が動いた時は、ロクなことがなかった。
消え去る時の人々の悲鳴、怒号、そして怨嗟の声。そして、恐怖に満ちた顔。
零の記憶には、それしかなかった。
自分の感情も、その前の風景も、人々の感謝の声すらも。
だから、閉じ籠った。
閉ざしていれば、恐怖は見えない。悲鳴は聞こえない。
この世界に来ても、アヤがどれほど尽くしても、それが開くことはなかった。
けれど、本当はわかっているのだ。
このままではいけないということも。
アヤがどれほど自分を思っているかも。
一昨日、彼らがやってきた時も、追い払いはすれど、怒ったり、アヤを叱ったりすることはなかった。
自分が悪いと、わかっているから。
これは、ただのわがままなのだ。
勝手にアヤを巻き込み、それでいて今度は遠ざけようとしている。
(……ごめんな、アヤ)
零の両目から、一筋の涙がこぼれた。
その意味を、自らの感情を理解しないまま、零は涙を凍らせた。
そのまま歩き出す零。
背後には、歪んだ白い塊が二粒落ちていた。
◆
彼女は、「そのこと」を知っている数少ない一人だった。
幼い頃にそれを知ってから、数多くの勘違い野郎をブッ飛ばしてきた。
それが、自分にできる恩返しだと信じて。
今回狙うのは、最北にある国「スヌト王国」。前王はマトモな人だったのだが、王が代わってから一気に信用度が下がった。
前王の働きもあり、侵攻はしていなかったのだが……今回の宣戦布告にあたって、見せしめに蹂躙することにした。
彼女の望みはただ一つ。
(幻獣様、今助けに行きますからね!)
虐げられている幻獣たちを自由にすること。
そのためだけに、四天王第二位という地位までに上り詰めたのだ。
アイツの命令には従わなければいけないのは気に食わないが、幻獣を救出できるのなら多少の不自由さには目をつぶろう。
今回は、国の中枢に攻め入るという計画のもと、五匹の幻獣を救出する計画を立てた。
城の地下に囚われている四匹と、南の森に封印されている一匹。
一匹でも救出できれば構わない。もともと宣戦布告が目的なのだとアイツから言われている。
目下にチラリと黒いものを確認すると、彼女は翼をたたみ、ダイブの体勢に入った。
あの森に封印されているはずの幻獣を目指して。