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怠惰の王は冰焔を統べる  作者: リディリエル(四葉 六華)
第一章 黒歴史、再生!
12/27

1‐11.「……勝手にしろ」

すいません遅くなりました。

それと今年は受験期なので投稿頻度が落ちます。ご了承ください。

かれこれ、数十分はこうして睨み合っている。


「……」


「……」


長すぎる紫の髪、綺麗な空色(セレステブルー)の軍服(もちろんオーダーメイド)と赤青のリバーシブルマントに身を包んだ、冷気も暖かく感じるような視線と無表情が武器の少年──すなわち、零と。

白色パールホワイトと背中の水色フォゲットミーノットの毛、そして深い黒色(ランプブラック)の瞳を持つ、粘り強さとつぶらな瞳が武器の雷獣──すなわちアヤが。


お互い一歩も譲らぬ気迫で、静かな喧嘩をくり広げている。

言葉を発さないのは、口撃で決着がつかなかったからである。

堂々めぐりの論争の末、視線喧嘩で決着をつけることになったというわけだ。


「……」


「……」


無口無表情気温低下攻撃VS最強の定番ことつぶらな瞳攻撃の激戦は、根負けした零が目をそらしたことにより終わった。

零が目を戻すと、アヤのつぶらな瞳が真っ直ぐに見つめ返してくる。

……どうやら、譲る気はないようだ。


『レイ様。勝ちましたので許可をいただきたいと思います』


零は深いため息の後。

そう主張するアヤから視線を微妙に逸らしながら。

およそ常人には聞こえないような小さな声で、ポツリと呟いた。


「……勝手にしろ」


付き合いの長い人が見れば、それが彼なりの"デレ"であることが分かっただろう。

恐ろしいほどに自らの感情表現が苦手な零は、意見の衝突の際、素直に相手の意見を受け入れることができない。

それは、ツンデレの証拠でもあり、帝王の証でもある。


帝政──個人の意見でなければ、零はその能力を発揮できないから。


そして、その性質を理解していたアヤは。


『ありがとうございます』


素直にお礼を言い、零の前から去っていった。

おそらく、今日()来ているあの二人を迎えに行ったのだろう。


寝ぐらにしていた洞窟はもう封鎖してしまったので、新たな寝床である木の上で喧嘩を繰り広げていた。


アヤの方へ向けていた視線を切ると、零は寝返りを打つ。

バランスの悪い木の上だというのに、落ちるどころか木が揺れさえもしない。

ただ、零の身につけているマントだけが、重力に従ってパサリと落ちた。


暗く黒い森の天井へ目を向けた零の脳内には、とある思考が渦巻いていた。


(……変わって、ない、か)


前世いぜんと変わらぬ動き。変わらぬ音。

零が、積極的な行動をためらう理由がここにある。


(……結局は。()()()()()()()()()()


零の能力は、ゲーム……つまり、上限のある世界から来ている。

ゲームであるのなら、どんなに暴れても、世界は壊れない。壊れる前に、落ちるから。

だから、自らの全力を振るうことができる。


けれど、ここは現実だ。

世界に上限がないということが、零を止める。


少し力を入れれば、壊れてしまうのではないか?

振るう力に、世界が耐えられるのか?


そんな思いが、零をためらわせていた。


現実の体のまま異世界ここにこれたのなら、そんな悩みはなかっただろう。


──力を振るわなければ、世界に影響が出ることはない。


いつからだろうか。

零が、そう考えるようになったのは。


思うように行動できるこの世界で。


全力を出せば、魔王討伐など一週間程度で終わってしまうというのに。

零は、未だ最初の地から出ていない。


これが普通の人なら、同じ魔法を与えられただけの人なら、力に溺れるか、威力を知らず使うのだろう。または、力を封印するか。


しかし、その便利さを、扱い方を。

何より、制御の仕方を。


知って()()()()いる。


(……別世界に来ても、変えられない。自分でさえも)


先日の、調整ミスが再生される。

もっと大規模に、あれが起こったら?


零の実力なら()()()()()()()()()()()()()のだが、影響を過度に恐れるあまり、現実をそのまま認識できないでいる。


もとより、零の制御は完璧だ。

状態変化を操る腕はもちろん、それに付随するエネルギー操作、風による探知など、誤差をも制御するほどの実力を持つ。

それは、感情による変化があまりにも少ないから。


それが揺らぐのは、感情が揺れた時。

すなわち──


「もう、変わらない。何であっても」


──トラウマの再生。「他人」がいると"恐怖"したときだ。



普段は全く訪れない、森の浅い場所にて、アヤは人を待っていた。

初めて零の意思に逆らい、粘り勝ちをして二人の幻惑解除・・・・の権利をもぎ取った。

幽閉の森の結界調整を済ませ、木の上へ登る。


幽閉の森は中にいるモノを惑わす森。といっても、中に暮らしている動物たちが迷ってしまっては意味がない。

そんなわけで、幽閉の森の結界には効果調整機能が付いている。

その機能で、零たちは迷わない。……のに、持ち前の方向音痴が邪魔をする。

そればかりは本人の問題なので、アヤにできることは道を教えることくらいだ。


(レイ様は、本当に……似ていますね)


思い出すのは、初代の姿。

お調子者で、よく笑い、よく強がる人だった。


行き場のない仲間げんじゅうを、保護してくれて。

あの人にも、やることはあるはずなのに、私たちのやりたいことに付き合ってくれた。


……分かっている。本当は。

あの人が、人間に絶望してたってことくらい。

行き場のない怒りを抱えていたことくらい。


それでも、あの人は笑っていた。笑っていながら、悲しんで……憎しんでいた。


『ごめんな……さよなら』


最後に聞いた声は、悲しみに満ちていた。あんな声は、初めて聞いた。


もう、悲しませない。

自らの主人に喜んでもらうことが、雷獣わたしたちの生きがいだから。


だから、この道を進む。


世界に主人を認めてもらうために。


当代レイさまが、安心して()()()()()暮らせるように。


二人分の足音が聞こえる。どうやら、待ち人が近くまで来たようだ。

登っていた木から降りて、二人を出迎える。


「……アヤさん? なんでこんな浅い場所に?」


Sランク冒険者、アンリとセンリ。

双子の渡り者が、アヤを見つめ返していた。


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