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縁のないもの

お題:輝く愛

必須要素:レモン

制限時間:30分

 初めてのキスの味は甘酸っぱくて、レモンの砂糖漬けのようだと人は言う。

 本当にそんな味がするのだろうかと思って、母とのお出かけのチューをためしてみたことがあるが、あいにく赤子の頃に親兄弟からさんざっぱらちゅっちゅちゅっちゅされていたせいかレモンの砂糖漬けの味は得られなかった。


 レモン風味の炭酸飲料のフタをあけ、プシュッという気の抜ける音を聞きながら、私はそんな小さい頃の思い出をなんとなく思い出していた。


「……今、あの人とするキスなら、レモンの砂糖漬けかもしれない」


 そうつぶやくと、同じ部屋で着替えていたタカシが「は?」と聞き返してきた。


「何言ってんだ?ルミカ」

「いやな、小さい頃にキスはレモンの味と聞いて母とお出かけのチューをしたのだが全く持ってレモン味ではなかったなと思ってな」


 そう言いながら、先ほどあけたペットボトルに口をつける。


「……あの人とか言ってたから俺ではないのな」

「私とお前の関係はなんだ?」

「セフレ」

「正解だ。初恋の味だとかそういうあまじょっぱさとは無縁だな」

「甘酸っぱさな」

「それだ」


 大学の、夏休みに入って人がほとんど来なくなった一室。

 ごてごてしたパンクファッション故に服を着なおすのに時間がかかっているタカシから目をそらして、私はカーテンをほんのわずかにあけ、併設されたグラウンドの方を見た。


 運動系サークルの連中はこの暑い中でも中学~高校と変わらないぐらいの熱意で練習をしている。いま練習しているのは野球サークルか。甲子園もないのに結構なことだ。チーム内を2つに分けての紅白戦の最中なのだろう。同じユニフォームの面々が、2色のヘルメットでわかれて試合をしている。

 ……その中に、私が今思いを寄せている彼もいるはずなのだが、あいにく彼は今まさに私が彼と共に得たいと思っている輝く愛の最中にいる。

 グラウンドをかこうフェンスの外に、つばの広い帽子をかぶった、清楚そうな女性がいる。


 キィン と、音がなって白球が遠くに飛ぶ。

 それを見届けると、私はカーテンをしっかりと閉めなおした。


「着替え終わったか?」

「おう。ルミカ、キスしとくか?」

「……いや、いい。みじめさが増すだけだ」


 私はタカシの分の飲み物を手渡す。


「こういう風に気を回してくれるからさー、俺割とお前が俺に気があるんじゃないかって思うんだけどさー」

「私と一緒にいて熱中症だとか脱水症になりましたとか言われたら嫌だからな。いない時ならどうとでもなればいい」

「うわーい、俺のセフレ超ツンデレ」


 アホなことを言うタカシの頭を小突いてから、ベッドルーム代わりにしてしまった教室を出る。


「待てよルミカー、ついでだし遊んで帰ろうぜー」

「何を言ってるんだ、遊ぼうと言って呼び出したんだからこれから遊ぶのが当然だろう」

「あ、そだっけ?」

「鳥頭め。服装にも合うし頭のなかみに合わせて髪型もトサカにしてみたらどうだ?」


 校舎から出て、グラウンドの横を通る。

 紅白戦がちょうど終わったのか、あの人が彼女のもとに駆け寄ってくるところだった。

 つば広帽子の彼女が差し出すタオルを受け取るさまを見て、一瞬足が止まる。


「ルミカ、行こうぜー」

「……ああ」


 輝く愛の様に見惚れているのか、嫉妬しているのか。

 いずれにせよ、私にはああいった青春劇とは縁が無いのだろうと刺す様な太陽のもとで暗闇を見た。

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