からすをころしたひ
お題:免れた悪
必須要素:漆黒の翼
制限時間:15分
真っ黒な羽が目の前で散った。
漆黒の翼はすでに空を行く力を失っており、か細い「カァ」という声だけがかろうじて出る程度だ。
ぼくの行動を見咎めるように、カラスたちが頭上の空を埋め尽くしていた。
ぼくが姉を殺したのは3か月前のことだ。
ぼくが姉の頭めがけて、二階から花瓶を投げつけたんだ。
けれど、お母さんはぼくの事をかばって娘殺しの犯人になってしまった。
「なんで? ぼくは、あいつが居なきゃお母さんが自由になれると思って……」
「私が自由になっても、あなたが殺人犯になって外で生きていけなくなってしまったら駄目なのよ。だから、お願い。お母さんを、お姉ちゃんを殺した犯人って事にして頂戴」
自首だったということもあって、ぼくがやったというのはばれなかった。
ぼくが自分から名乗ってしまえば、お母さんにとって最悪の状況になる。
それがわかってしまった以上、ぼくはお母さんの言った通りにしらばっくれるしかなかった。
木々の隙間から見える空が黒い。
希望が見えたと思ったはずが、大事な人に罪を負わせた闇ばかりでまた覆い隠されたぼくとおなじだ。
目の前で、力尽きていくカラスをじっと見下ろしていると、空を覆う黒いものがガァガァと騒がしくわめくのが聞こえる。
「罪こそ免れたけど、だめだ。ぼくの心が真っ黒だ」
モデルガンで撃ち落とし、むしゃくしゃしてそのままいくつも弾を撃ち込んだカラスに手を伸ばす。
身体が小さいせいか、姉の時とちがってあっという間に冷えてしまう。
鳥類の高いはずの体温が感じられなくて、目の前が急ににじんでゆがんだ。
ひとに罪をかぶせて免れたって、なにもすっきりしない。
報いも非難も、ちゃんと受けたほうが良い。
ガァガァとさわがしい頭上のぼくを責める声が、どうしようもなく心地よかった。