高い空に住む女の子
お題:どうあがいてもデザイナー
必須要素:SF
制限時間:30分
窓から空を見る。薄らと張った大気の膜が、宇宙の暗闇に青を乗せている。
ここから見える紺青の空は、普通の人が住む町から見れば別の色らしい。なんでも、もっと明るく、さわやかな、青に近い水色なのだという。
「地上からの、明るい青の空も見てみたいな」
『駄目ですよアリカさん。ここより低い場所だとあなたは気圧に負けちゃうんですから』
ぽつりとつぶやいた私の声に返したのは、家政婦のユキエさんだ。彼女は遠隔操作ロボットで洗濯物を畳みながら、通信機越しに話を続ける。
『あなたが気になるのはわかりますけれど、それ以上にあなたの命は替えがきかないんですから』
「見たい、というだけよ。本当に下りたりしないわ。でも、映像や画像も届けられないのに話だけ聞くなんて……みんなは、それで私が考えた物を描いて欲しい、というのでしょうけど」
『そうですね。アリカさんの絵は地上でも人気ですよ』
「私も地上の事が気になっているのに、ラブコールどうししか届かないのよね」
『まあまあそう言わず。新しい小説と、アリカさんの絵の感想の検分がもうそろそろ終わりますよ。それで元気出してくださいな』
「はぁい、おとなしく待っていてあげるわ」
ユキエさんと、他にも何人か日替わりで来る家政婦のみんなは私の立場に同情してくれているけれど、それでも私の願いをかなえてはくれない。
まあ、しかたない。私だって自分の好きなもののために誰かが犠牲になってるとしてもそれが我慢できるかというとそうではない。
普通の人とは隔離されているくせに、おそらく普通の人間らしい考え方をしてしまう。
「絵を描いてくるわ」
『まあ!今日中にできますか?!』
「ふふっ……ラフや下描きが良いとこだと思うけど、そういうのができたら見せてあげるわ」
『まあ、まあ!楽しみです!アリカさんの絵は、神様の絵みたいですから!』
「神様には程遠いと思うわよ」
軽く手を振って、絵を描くための部屋に入る。
機械に必要な材料を入力し、マニピュレーターと強化ガラス越しに絵を描いていく。とはいえ、私が情報を調べた限りでは私は画家ではない。
思いついたモチーフを配置し、色を適切に組み合わせる。やっている事はデザイナーというのがより近いのではないだろうか?
「ふふっ……普通の人ならできることができなくて、神様にもなれなくて」
自分の出自を思い返す。
「私はどうあがいても"デザイナー"なんでしょうね」