33 #定額給付金制度に抗議します
午後7時。
チーム・ウィズコロナの3名、すなわちコロナちゃん、マジェスティック、そしてサービスデザイン推進センターの受付の男はカフェ・パンデミックにいた。
《ウィズコロナチャンネルをご覧のみなさま、こんばんは。今日はいま話題の定額給付金制度について調べてみました》
「これ、本当に大丈夫なんでしょうか。私の身元は本当にわからないんでしょうね」
サービスデザイン推進センターの受付の男――彼は絶対に自分の名前を明かさなかったから、他の二人からサービスと呼ばれた――は、いつの間にかわけのわからない企画に巻き込まれてしまったことにまだ納得がいっていなかった。
「大丈夫。仮面をかぶってるから顔は見えないし、声も変えてあるからわからないよ」
「でもシルエットとか、しゃべり方の癖とかで私だってわかるんじゃないですか」
「考えすぎだって。それにもし万が一のことがあったら俺がサービスを守るから、心配するなって」
「でもこれ本当にバレたらたいへんなことになりますよ。守るっていったいどうやって……?」
「大丈夫。俺、金持ちだから。コロナちゃんは、顔出しOKなんだよね?」
「うん。かわまない。慣れてるし。失うものなんてないし」
3人は、さきほど撮影した動画のチェックをしていた。
サービスデザイン推進センターの建物を背景に、仮面をかぶった二人の男――マジェスティックとサービス――とコロナちゃんが映っている。
動画の中のサービスが言う。
《動画をご覧になっているみなさん。今日はみなさんに定額給付金10万円の闇についてお知らせします。私はサービスデザイン推進センターの職員です。定額給付金は誰でも一律で無差別に毎月給付金が受けとめ……、受け取れる制度です》
「あ、噛んだ」
「噛みましたね。これ、撮り直した方がいいでしょうか」
「いいよ。このままで。こっちのほうがリアリティがあるし」
動画の中のサービスは定額給付金のからくりと、事業を請け負うサービスデザイン推進センターの不正について、自分の知っていることを洗いざらい話した。
最初は恐る恐る。
だが次第に語りは熱を帯び、雄弁さを増していく。
後ろめたい気持ちを抱えたままサービスはこの仕事に5年以上従事していた。
その過程でさまざまな口外できない事実を知った。
秘密にしていたこと。
家族にも、友人にも言えなかったこと。
それをいま語っている。
本当は誰かに話したかったんだね。
動画の中で勇壮に語る自分を見て、とてもいい顔をしているな、とサービスは思う。
実際には仮面をかぶっているから、顔は見えないのだが。
サービスの告白が終わると、次はコロナちゃんの番だ。
動画の中のコロナちゃんは語る。
《私の両親は7年前に死にました。それから7年間、児童養護施設で暮らしました》
コロナちゃんは、自らの生い立ちを赤裸々に語った。
名前ゆえに受けたいじめ。
ソーシャルメディアでの誹謗中傷の数々。
自殺に追い込まれた両親。
児童養護施設での苦難の日々。
そしてサービスデザイン推進センターから受けた冷酷な仕打ち。
《私の生きた14年間。私は本当は毎月10万円を受け取るはずでした。それは私にとって必要なお金でした。健康で文化的な最低限度の生活を営むために、必要なお金でした。総額にして1680万円。私はそれを受け取れませんでした。それを奪ったのはサービスデザイン推進センターです》
動画の中のマジェスティックは、そしていま動画を見ているマジェスティックも、怒りに震えている。
《みなさん、お聞きになりましたか。定額給付金事業にたずさわった職員の勇気ある告発を。そして、事業者の不正の犠牲になったいたいけな少女の境遇を。私たちはこの腐った制度を、国を変えなければなりません。いまこそ私たちは立ち上がるべきときです。私たちはこの制度に抗議するデモを決行します。時刻は本日21時。場所はレッドブリッジ。抗議にご賛同いただける方は、是非デモにご参集ください。ともに声をあげましょう。また、デモ会場に来られない方は、ソーシャルメディアでご参加ください。ハッシュタグは「#定額給付金制度に抗議します」または「#がんばれウィズコロナ」または「#みんなのコロナちゃん」をご利用ください》
《ウィズコロナチャンネル第1回配信、いかがでしたでしょうか。私たちは今後も、定額給付金の効率的なもらい方、10万円の正しい使い道など、みなさんの知りたいことをとことん追究していきます。私たちの活動を支えていただくための寄付を募集しています。振込先の口座番号は……》
「よし。問題ないみたいだな。投稿、と」
マジェスティックは動画をアップロードした。
「あの、こんなので本当に寄付が集まるのでしょうか」
「大丈夫だって。一大スキャンダルだからものすごい再生数だろうし、サービスとコロナちゃんの演説も完璧だったから、絶対集まるよ。300万円は堅いね」
「そうですか」
「これまでの俺のビジネスがうまくいかなかったのは有料会員サイトだったからなんだ。そうじゃなくてまずは無料で公開する。お金は見た人から募る。いまの時代はこれだね」
「あと、最後にデモをやるなんて言ってましたけど、本当にやるんですか」
「あ、あれ、なんか勢いで言っちゃったんだよね。とりあえず、行ってみる? レッドブリッジ」




