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みんなのコロナちゃん  作者: 新型
15/40

15 古い生活様式を守る会

 午前1時。

 アマビエ様は公園でいまなおけん玉の練習に励んでいた。


 11の基本技と6つの上級技をマスターした。

 現在は7つ目の上級技「地球回し」を練習中である。

 ここまでに2万円ほど課金した。


 基本技はともかく上級技を自力で習得するにはひとつにつき1時間から場合によっては半日はかかる。

 課金による動作支援を行えばこれが10分から30分程度に短縮されるのだった。

 技の失敗が続くと、けん玉は「いますぐ課金すればあと10分で技の習得が完了します。さらに、いまならけん玉デコレーションアイテムをプレゼント」などとアナウンスする。

 しかも課金額の50%は「猫を感染症から守ろう基金」に寄付されるという。

 このことがアマビエ様の課金への心理的ハードルを低めた。

 私は射幸心を煽られてうっかり課金してしまうのではない。

 これは猫を救うための行為でもあるのだ。


「おい、ありゃアマビエ様じゃねえか」

「間違いねえ。あのラーメンみてえに長い髪はアマビエ様だ」

「アマビエ様!うわーーーっ!アマビエ様!」


 3人の酔っぱらった男たちがアマビエ様に近づいてくる。

 アマビエ様はけん玉の手を止め、男たちをしかと見つめた。


「どなた?」

「やだなあ、アマビエ様、忘れちゃったんですか」

「先月カフェ・パンデミックでお会いしましたよね」

「覚えてないわ。興味のない人の顔は覚えないたちなの」

「うわーーーっ!アマビエ様!守る会だよーーっ!」


 男たちは「古い生活様式を守る会」のメンバーだ。

 「古い生活様式を守る会」、通称守る会は、政府の発布する「新しい生活様式」に反対し、社会全体を旧来の生活様式に戻すべきであると主張する保守系団体である。

 「新しい生活様式」では、公共の場で集会を行うこと、とりわけアルコール類の摂取を伴う集会を行うことは悪しき生活様式と定められている。

 守る会は、このガイドラインへの反対表明として、公園で宴会を開くアクション「桜を見る会」を定期的に開催している。

 「桜を見る会」は当初、年一回花見の季節に執り行われていたが、近年は季節を問わず勇志によって月次で開催されている。

 三人の男は「桜を見る会」の常連メンバーだ。

 今日も昼間から深夜まで飲み明かしたところで、たまたま出くわしたアマビエ様に悪絡みしているのだ。


「守る会ってあの「時代に適応できない中高年男性の利権を守る会」の守る会?」

「ああ!? おまえさん、俺たちを馬鹿にしてんのか!?」

「うわーーーっ!アマビエ様ーーっ!それを、それを言うなーーーっ!」

「それとも「過去の栄光にすがるちっぽけな自尊心を守る会」だったかしら?」

「なんだと!? 俺たちが、どんな気持ちで守る会の活動をしてるのかわかってるのか!?」

「そうだ!今日だって、感染のリスクに脅えながら一日中集団で酒を飲んだんだぞ!」

「うわーーーっ!アマビエーーーっ!許さねえーーーっ!」


 男の一人が拳を握り締めてアマビエ様に向かって突進してくる。

 男の振りかざした拳をアマビエ様は華麗にかわし、男の腹に膝蹴りを打ち込む。

 男は地面に倒れる。


「おい!おまえさん、暴力に訴えるのか!?」

「なに言ってるの。先に手を出したのはそっちでしょ」

「そっちがその気ならこっちにだって考えがあるぞ」

「だいだいよー、女がこんな時間に一人歩きしてるなんてありえないだろ」

「ここで何が起こっても、悪いのは俺たちじゃねえ。無防備な女の方にこそ責任があるってもんよ」

「は!?」


 アマビエ様の怒りは頂点に達した。

 もともと守る会も酔っ払いも好きではなかったが、この男どもは許せないと思った。


「バトルモードに切り替えますか?」


 そのときだった。

 アマビエ様が左手に握りしめていたけん玉が突然しゃべりはじめた。


「え?なに?バトルモード?」

「バトルモードに切り替えると、現在の習得レベルに応じた攻撃技が使えます」

「え?そんな機能まであるの?」

「バトルモードに切り換える場合の現在の課金額は30秒10,000円です」

「金とるのかよ!しかも結構高い」

「いまなら初回限定半額キャンペーンにつき30秒5,000円です」

「まあいいわ。せっかくだしバトルモードにして」


 アマビエ様がそう言うと、けん玉は赤く光りはじめた。

 左手に力がみなぎってくるのを感じる。

 このけん玉をどう扱えばいいのか、不思議とわかる気がした。


「なにごちゃごちゃ言ってるんだ!」

「覚悟しろ!」


 男たちが左右からアマビエ様に襲いかかる。

 アマビエ様はけん玉を振りかざす。


「秘技!うらふりけん!」


 勢いよく前方に放り出された玉はひとりの男の頭に直撃する。

 男は即座に気を失う。

 男の頭でバウンドして玉は方向を変え、もう一方の男の首に糸が巻き付く。

 糸はきりきりと男の首を締めあげ、やがて男は気絶した。


 地面に突っ伏した男たちを尻目に、アマビエ様はけん玉を見つめる。


「へえ、あんた、なかなかやるじゃない」


 タラララーンとけん玉から軽快な音が鳴った。


「おめでとうございます!バトルレベルが2にあがりました。新たな技が使えるようになりました。バトルモード最大時間が1分間に増えました。課金必要額が20,000円にアップしました」

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