1 コロナちゃん
2034年。
全世界を震撼させた新型コロナウイルス禍から14年が経過していた。
コロナちゃんは14歳になっていた。
2020年に誕生した彼女は、人類史に例を見ない災厄を記憶するために、そしてその克服への願いを込めて、両親から「コロナ」と名づけられたのだった。
コロナちゃんが7歳になるころ、彼女の両親は死んだ。
小学校で自らの名前ゆえにいじめにあっていることを、コロナちゃんはソーシャルメディアで告発した。
いじめを行ったクラスメイトの名前と顔写真を公開し、暴力の手口を克明に記した。
弱冠7歳の少女による自力でのいじめ被害への訴えは、大きな注目を集めた。
ソーシャルメディア上での憎悪の矛先は、当初はいじめを行った者とその両親、小学校の担任教師と校長に向かった。
話題が長引くと、いじめのきっかけとなった名前の命名者である、コロナちゃんの両親も非難の対象となった。
一連の騒動が起ってから3ヶ月後にコロナちゃんの母親は死んだ。
それからほどなくして父親も死んだ。
死因はともに新型コロナウイルス感染症に起因する肺炎だった。
感染症危険レベル高エリアへの侵入が感染の原因だった。
緩やかな自殺であったろうと報道された。
コロナちゃんは両親の死に目に会えなかったし、葬儀にも出席できなかった。
14歳になるコロナちゃんは児童養護施設を出所することに決めた。
手作りの雑貨やアクセサリーをオンラインで売って貯めた貯金が多少はあった。
多数の児童を抱える施設はキャパシティをオーバーしていたから、コロナちゃんを引き留める人はいなかった。
これからはひとりで生きていく。
そう決意して、コロナちゃんは行くあてのない旅に出た。