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ご対面、第二王子

もっとカロラインちゃんを書きたいんですが、なかなかそこまでいけないですね

 

 第二王子、ベルトラン・イーヴォ・ヴァーレイス。

 原作ゲームにおいては兄である第一王子よりも優秀だが、母の言いつけに従って学院では兄を超えぬよう平凡な成績を修める。しかし、あるイベントでヒロインにその優秀さを見抜かれ、その時かけてもらった言葉でコロッと落ちてしまう。攻略wikiでは作中2番目のチョロインとされていたはずだ。

 故に、学業のことについてさえ気を付けていれば俺でも好感度を稼げると思っていたんだが。


 悲報、ファーストミッションすら危うい件。

 一言目からピシャっとお断りされたのだが。

 とはいえ、ここで折れるわけにもいかんということで、なんとか根気強くお話を聞いてみると。


 曰く、お父さんが本当に愛しているのはお妃じゃなくてお母さんの方だ

 曰く、本当にお妃を愛していたんならお母さんと僕はここにはいないはず

 曰く、お前は愛されていないんだから早くいなくなってしまえ


 なるほどなるほど。

 まあ、これが上から目線で蔑むように言われたのだったら、相手が子供でもちょっとは腹が立つというものだが。

 いかにも必死で、今にも泣きそうな顔で言われたら、そんな気は少しも沸かない。

 

 多分これは、自分が恐れていることの裏返しなんだろう。そして実際に言われたことなんじゃないかな。愛されてない子だと。


 すっかり頭から抜けていた第二王子の出現に大慌てした俺は、親父殿の爆弾発言から数日の間、侍従に第二王妃と第二王子について調査を依頼していた。

 調査書には、王都郊外の村で隠れるようにひっそりと親子二人で暮らしていたこと、そこでは戦死でもないのに父親がいないのは捨てられたからだだの、良くない噂が流れていたことなどが書かれていた。

 

 うーん、大体親父殿のせい。ていうか今回の件で親父殿のせいじゃないことってある?

 もちろん、親子二人で暮らしていけるだけの援助はしていたんだろうが、それにしても心配りが足りなさすぎる。

 どうせ王宮に迎え入れるなら、妊娠が分かった時点でさっさと迎え入れればよかったんだ。なんで数年も経過してからいきなりやるんだか。


 そう思い、ため息をついて弟に向き直る。

 そうだ、今は馬鹿親父について考えてる場合じゃない。いきなり大人の事情で住む場所を移され、慣れない環境に怯えているこの子に向き合わなきゃな。


 大して背も変わりゃしないが、それでもこの子に対する誠意として、肩に手を置き跪いて目線を合わせる。


 「ベルトラン」


 「な、なんだよ。お前が勝手に僕の名前を、」


 「父が本当は誰を愛しているかなんて、そんなの誰にも分からない」


 びくっと震えるベルトラン。

 きっと本人も気づいてることだろうがな。


 「それは君の言う通りかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、そんな他人の頭の中にしかないことを気にしたってしょうがないさ。もしかしたら本人にだって分からないかもしれないんだもの。

......私はこれから君の兄として、君の助けになりたいと思う。それが本当かどうかは分からなくても、私はそれを態度で示そう。兄と思わなくてもいいさ、そういうやつが一人、ここにいることだけ覚えておいてほしい」


 「う......」


 ゆっくり、やさしく諭すように話す。別に今理解してもらう必要はない。自分のペースでかみ砕いてくれればいい。

 そして俺のこと殺さないで。頼むから。


 肩に手を置いていた手を下ろし、立ち上がる俺を見上げるベルトラン。


 「ひとまずは、この城に住む仲間として、家族として。歓迎するよ、ベルトラン」


 そう言って手を差し出す。

 ベルトランは俺の顔と手を交互に見て、指先だけをそっと握った。


 ......ファーストミッション、第一段階クリア?

 





 僕の腹違いの兄、イレイドは変なやつだ。


 僕とお母さんは王都郊外の小さな村でひっそりと暮らしていた。お父さんがいないこの家は、村では敬遠されていて、僕と同じ年頃の子供たちからは「父なし子」だと言われ、避けられていた。遊ぶのはいつも僕一人だった。

 どうしてうちにはお父さんがいないのかと聞いたこともあったけど、お母さんは辛そうに、仕方がないことなのだと、それでもお父さんはいつもお前のことを思っているのよと言い聞かされた。それからは、お母さんの前ではお父さんのことは口にできなかった。


 ある日、村の子からどうしてお前の家にはお父さんがいないのかと聞かれた。僕はとっさに仕事で遠くにいると嘘をついた。後から、それは本当のことだったとわかったけれど。すると村の子は、お前のお父さんはお前のことが嫌いだから遠くに行ってしまったんじゃないのか、愛されてないから二人ともここに捨てられていったんじゃないのかと言った。


 その後のことは、あんまり覚えていない。気が付いた時には、その村の子はところどころ血を流して泣いていて、僕の手にはむしられた髪の毛が数本残っていた。いつの間にか村の子の親とお母さんが来ていて、お母さんが泣きながら謝っている声がした。


 ますます肩身の狭い生活をすることになってから、どれくらい経っただろう。ある日、お城から来たという人が訪ねてきて、お母さんは固い顔で家に迎え入れた。寝室で一人で待つこと数時間、お母さんに呼ばれて行くと、僕は王子なのだと言われた。お父さんはこの国の王で、お母さんと僕をお城で待っているのだと。


 僕は嬉しかった。あの時言ったことが本当になった。僕はお父さんに嫌われてなんかない。僕もお母さんも、お父さんに愛されて求められているんだ。そう思った。


 翌日、お城からお迎えの馬車が来た。持っていた服の中で一番いい服を着てお母さんと馬車に乗り込むと、村の人たちが遠目にこちらを見ていた。生まれた時からいる村を離れるというのに、あまり寂しさは感じなかった。それどころか、これから会うお父さんがどんな人なのか、これから3人でどんな生活を送ることになるのか、楽しみで仕方なかった。


 それが幻想にすぎないとわかったのは、城に着いてお父さんに会ってからのことだった。初めて会うお父さんに緊張してお母さんのスカートの裾に隠れる僕を、お父さんは微笑んで許してくれた。そしてこう言った。「これからお前の兄とその母親に会いに行く」と。


 お父さんが愛していたのは僕とお母さんだけじゃなかったのか?僕の頭の中はそれでいっぱいになった。お母さんと一緒にお父さんにつれられていった先で出会ったのは、華やかな服装に身を包んだ女の人と、僕より少し背の高い男の子。それに比べて僕とお母さんの服装は、一番いい服だったはずなのに、なんてみすぼらしいんだろう。男の子が何か言いながら手を差し出してきたけど、恥ずかしくてまたお母さんの後ろに隠れた。


 僕の兄だという男の子に手を引かれるままに歩く。途中、兄が何かをなにか言っていたけど、僕の頭の中はこれからのことでいっぱいだった。もしかして、場所が村から城に変わっただけで、言われることもされることも一緒なんじゃないか。僕とお母さんよりも愛されている人たちがここにはいて、もしかして今度は本当に捨てられるんじゃないか。


 兄にひかれていた手が離され、気が付くとそこは、村では見たこともないような大きなベッドがおかれた、絵本に描かれているような広くて立派な部屋だった。


 「さあ、ベルトラン。ここが君の部屋なわけだけど」


 ここが、僕の部屋?兄の言葉に耳を疑う。こんな立派な部屋が、僕の。

 こんな立派な部屋を与えて、この人たちは僕たちをどうしたいんだろう。

 また心の中で不安の塊が大きくなって、気が付いたら叫んでいた。


 「出て行けって言ったんだ!お父さんに愛されていないくせに!いきなり出てきて兄貴面するなよ!!」


 そんな僕に、兄ははじめ驚いていたけど、ほとんど泣きべそをかく僕の話を根気強く聞いてくれた。逆恨みだったとわかってる。でも、一人頭の中でぐるぐると考えていたことがここで爆発してしまったんだ。


 一通り僕の話を聞き終わると、兄は跪いて僕の目を見てこう言った。


 「父が本当は誰を愛しているかなんて、そんなの誰にも分からない」


 「それは君の言う通りかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、そんな他人の頭の中にしかないことを気にしたってしょうがないさ。もしかしたら本人にだって分からないかもしれないんだもの。

......私はこれから君の兄として、君の助けになりたいと思う。それが本当かどうかは分からなくても、私はそれを態度で示そう。兄と思わなくてもいいさ、そういうやつが一人、ここにいることだけ覚えておいてほしい」


 「ひとまずは、この城に住む仲間として、家族として。歓迎するよ、ベルトラン」


 そう言って兄は、もう一度僕に手を差し出した。

 あんなひどいことを言ったのに、どうしてこんなことを言うんだろう。村の子だったら、きっとまた大喧嘩になっていたに違いないのに。変なやつ。

 

 微笑みすらしている兄に、僕は黙ってその手をちょこっとだけ握ったのだった。





 あれから少し経って。俺とベルトランの仲はまあまあと言って良いだろう。距離を縮めようと、俺から誘って勉強の時間を一緒に過ごしている。もちろんやっている課題は俺の方が先に始めているので別々だが、その内追い抜かされるんだろうなあ。一個下とはいえ、学年は同じだし。いわゆる年子ってやつだ。それが明らかになった時、俺と母上に再び吹雪が吹いた。うーん、俺の親父殿、ますます業が深い。


 俺の母上とベルトランのお母さんであるリーシャさんは、ぎりぎり冷えきったとは言わないまでも極めてビジネスライクな関係、とでも言おうか。すれ違ったときは挨拶するけど、みたいな。

 第二王妃が平民出身というのは公然の秘密である。すると、第一王妃と第二王妃の関係を邪推するやつも多くいるわけで。王宮に出入りする貴族たちの中では第一王妃に取り入り第二王妃を排斥しようとする動きを見せてきたり、はたまたその逆もいたりとますます乙女ゲーの様相を呈してきた。


 ちなみに親父殿は一応そうした動きがあるとは理解しつつも危機感はまるでないご様子。親父殿が声をかけてみんなで食事会、みたいなことはするのだが、別に進んで会話を回したりするわけでもないので、母上とリーシャさんの関係改善には何の役にも立っていない。


 そういえば、前世で俺の母さんもぽろっと言ってたな...男って女同士が目の前で喧嘩さえしていなければ仲良しに見えるみたいって。あれってこういうことなんかね。



 「イレイド様、クォレア公爵令嬢よりお手紙が届いております」


 「あぁ、ありがとう」


 おっし、来た来た。

 そうそう、カロラインちゃんとは正式に婚約し、今では互いの家を行き来してお茶を飲んだり、こうして手紙のやり取りをしたりと、順調に交流を深めている。

 前回は弟ができたよーという報告と、女性同士が仲良くなるにはどうしたらいいと思う?というのを送っていた。いやまあ、いくらなんでも子供に何期待してるんだといわれるかもしれないが、意外と良い意見が聞けるかもしれないだろ?


 封を開けるとふわりといい香りがする。こういうとこ、いつもいつも、さすが細やかな心遣いよね。便箋を広げ、読み進む。ふむふむ、発表を聞いていたからか、弟のことはそう驚いていないみたいだな。今度お会いしたいですと書いてある。女性同士仲良くなる方法については.........


 ほうほう。ほほう。これはまさかの、意外といけるかもしれないぞ?



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