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爆誕!第二王子

 

ここ数日、異様な緊張感に包まれた城。その要因の一つが、今俺の目の前に座っている母上こと王妃である。

 別に俺が何かやらかしたわけじゃない。やらかしたのは、いややらかしていたのがバレたのは、俺の親父殿ことこの国の王である。

 

 さかのぼること数日前。俺と母上、そして親父殿と3人で久しぶりに夕食を共にしていた。普段はそれぞれ自室でとったり、政務でなにかと忙しくしている親父殿を除いた母上と二人で食事を共にしたりしている。

 この日は親父殿が政務の一環で国内の視察旅行から帰ってきた後、親父殿から声がかかって行われた食事会だった。数週間ぶりに食事と話を楽しみ、食後の一杯を楽しんでいたのだが。


 「ところで、イレイドよ」


 「はい、父上」


 ふと、会話が途切れたところに親父殿から声をかけられた。


 「そなた、弟が欲しくはないか」


 「えっ......それはもちろん、弟ができたら嬉しく思いますが」


 なに、遠回しな母上への夜のお誘い?やめてよね、恥ずかしいからって息子を経由するの。

 母上もさすがに恥ずかしがって口元を隠している......って、弟?やたら具体的でない?


 「そうか、それは良かった」


 満足そうに頷く親父殿。母上も違和感に気付いたらしく、親父殿に問いかける。


 「陛下、弟とはどいういうことです?私は何も、」


 「イレイド、お前には弟がいる。腹違いのな」


 母上を遮って言い放たれた言葉に、思わずぽかん、とする母上と俺。

 そんな俺たちを置いて話を進める親父殿。

 

 「お前とはちょうど一つ下になる。近日中に城に上げるのでよく面倒をみるように。それから、母親は第二王妃とする」


 「陛下、お待ちください。腹違いとはどういうことなのですか。それに、第二王妃などと、どういった身分の者なのです?」


 「平民だ」


 「へいみ...」


 そう呟いて、二の句が継げない状態の母上。そりゃそうだ。いきなりこんなこと言われてついていけるわけがない。

 それでもなお縋ろうとする母上に、親父殿は鬱陶しそうに、


 「これはもう決定したことだ。お前も慎め。そして、第二王妃によく気を配るように」


 そう一方的に吐き捨てて、退室していった。


 そして部屋に降りる沈黙。俺もどう母上に声を掛けたら良いものか分からない。

 第二王子がいるというのは原作ゲームで知っていたが、まさか妾腹の子だったとは。いや、母親は第二王妃になるんだから妾腹とは言えないのか?それはともかく。

 前世では王道キャラルートだろうってことで王族は避けて通っていたことが仇になった。といっても、前世情報があったとしても大したことができたとは思えないが。


 それにしても、親父殿はいつの間に子供をこさえていたのだろうか。俺と一つ違いだから、下手したら母上の妊娠中にやっていた可能性もある。......そう考えると、さっきの母上への対応と言い、とんだ人でなしだなおい。


 それより母上のことだ。母上はさっきから親父殿を見送った態勢のままフリーズしている。とにかく、このまま朝までこうしているわけにもいかないだろう。


 「母上、大丈夫ですか」


 そう声をかけると体をびくりと跳ね、ゆっくりとこちらへ向き直る。

 その目は複雑な色合いだった。怒っているような、悲しんでいるような、途方に暮れているような。

 俺と目が合うとぎゅっと目を瞑り、再び開くと、いつも通りの母上、のような仮面をつけていた。


 「いつまでもここに居るわけにはいきません。部屋に戻りますよ。あなたは課題もあるでしょう」


 「......はい、母上」


 ひょっとしたら、引き留めて話をすべきだったかもしれない。

 だが、余人を近寄らせない雰囲気を醸し出す母上に、それ以上のことは言えなかった。母上の教示をこれ以上傷つけたくなかったのもある。いや、これは言い訳なのかもしれない。

 

 こうして、親父殿の爆弾発言によって、久方ぶりの家族団らんの時間は終わりとなったのである。



 そして数日後、母上のサロンにて。冒頭の場面に戻るというわけである。

 まさかあの乙女ゲームの裏でこんなどろどろ昼ドライベントが起こっていようとは。


 ちなみに、今日いるのはいつかカロラインちゃんをお迎えした身内向けのサロンではなく、一般のお客様用の汎用とでもいうべきサロンである。「まだ身内として受け入れたわけではない」という、母上のせめてもの抵抗だろうか。

 ここで母上と何をしているのかと言えば、当然、新しく第二王妃として迎えられる女性と、第二王子となる俺の弟との顔合わせのためである。親父殿がいないのは、わざわざ二人を迎えに行ったからだ。そのこともきっと母上の心理状況に悪影響をもたらしているに違いない。


 今回の件、俺は完全に母上の味方である。というか、親父殿に関しては暴露の時の対応と言い、弟の妊娠時期と言い、完全に擁護不可能なわけで。

 問題は、第二王妃と弟のことだ。どういう状況で、その、そういうことになったのかは分からないが。平民の立場で王に求められたら断れないのが普通なんじゃないだろうか。もしそうだった場合、悪いのは完全に親父殿になるというわけで。

 というわけで、基本的には母上の味方ではあるが、第二王妃と弟にも同情的な立場、というのが俺のスタンスということ。うーん、いろいろと板挟みになるのが丸見え。


 「国王陛下、並びに.........、第二王妃殿下、第二王子殿下がお見えです」


 侍従が来訪者を知らせる。

 間に余白があったのは、母上への心情を察してだろうか。 

 どうするのかと思われたが、母上はすっと起立して、


 「お通しして頂戴」


 「.......はっ」

 

 無理をしていないだろうか。そんなことを考えながら見ていると、パシッと手に持った扇で叩かれる。

 

 「イレイド、何をしているのです。早く立ちなさい」


 「あいたっ......失礼しました。母上」


 慌てて立ち上がったところで、本日の賓客たちが顔を見せた。

 親父殿が連れてきたのは、背の低めの、黒髪でおとなしそうな女性、そのスカートのすそをつかんで隠れるように歩く男の子だった。

 親父殿は女性の腰に手を添え、エスコートしている。それを見ているのだろう、母上の扇を持つ手が少し震えていた。


 親父殿は俺たちの正面までエスコートすると、女性たちを紹介し始めた。


 「ディアナ、これがリーシャだ。後宮に空いている部屋があるだろう、そこに用意しようと思う。ディアナ、頼めるか」


 「リーシャ様のお部屋の用意ならできております。後程案内いたしましょう」


 「おお、そうか。さすがはディアナ、頼りになる」


 親父殿からにこやかに誉め言葉をいただいたものの、母上は複雑そうだ。そしてリーシャといった第二王妃も。

 知らぬは親父ばかりなり、ってか。


 「そしてこの子がベルトラン、ベルトラン・イーヴォ・ヴァ―レイスだ。イレイド、お前の弟だ。仲良くしなさい」


 そういわれて背中を押されて出てきたのは、俺よりも一回り小さい、母親に似たのか黒髪の男の子だ。


 「もちろんです、父上。初めまして、ベルトラン。私はイレイド・アルト・ヴァ―レイス。今日から君の兄になるんだ。よろしく」


 そういって握手を求めたが、母親のスカートに隠れてしまった。これは慣れるまで時間がかかるかもしれない。後で落ち着いた時にでも再挑戦してみよう。


 「うむ、双方無事打ち解けたようだな。」

 

 何を見てそう思ったのか40字以内で説明してくれ。

 明らかに現実が見えてない発言をする親父殿にげんなりさせられる。


 「では、私は政務がある故これで。各々交流を深めるがよい」


 は?

 そう言って、一番の当事者が一抜けしていった扉をおそらく全員で見つめた。

 

 降りた沈黙を破ったのはやはり母上だった。


 「......それではリーシャ様。用意しているお部屋までご案内しましょう」


 「はっ、はい。よろしくお願いいたします、えと、妃殿下」


 「あなたが私のことを妃殿下という必要はありません。あなたも同じく第二王妃となるのですから。名前だけでよろしい」


 「わ、わかりました...。では、ディアナ様と?」


 「ええ、それで構いません。では行きますよ」


 俺とカロラインちゃんの名前呼びイベントにくらべたらだいぶ殺伐としてたな。

 背筋をピンと伸ばし、颯爽と歩いていく母上に、小走りでついていくリーシャさん。


 さて、残るは俺と弟ことベルトランなんだが。


 「あ、お母さん...」


 「大丈夫、あとで会えるよ。ベルトランには別に部屋を用意しているんだ。そっちには私が案内するからね。さあ行こう」


 連れられて行く母親を不安げに見送るベルトラン、その手をとって、今回用意されたベルトランの部屋へと案内しに出発した。


 「ベルトランの部屋は、私の部屋の近くにあるんだ。後で教えるから、何か困ったことがあれば遠慮なく訪ねてくるといい。」

  

 案内中、いろいろと話しかける。


 「ここはよく新進気鋭の音楽家を集めてサロンを開いたりするんだ。私も自分用のサロンを与えられているけど、きっと君も自分のサロンを持っておもてなしをしたりできるよ」


 「ここはバラ園。初代国王の王妃が愛したとされるバラをずっとここで守っているんだ。今はまだ花が咲く時期じゃないけど、全部のバラが咲き誇るさまは壮観だよ」


 「ここは噴水。今よりもっと小さい頃はよく飛び込んで遊んだよ。君も機会があったらやってみると良い。気持ちがいいよ」


 全無視。話を聞いているのかいないのかすら分からん。

 俺何かしたかな。母上からはいつも「挨拶だけは及第点」っていわれてるのに。

 雑談がまずかった?しゃべりかけ過ぎたんだろか。


 そんなことを考えながら、ようやくベルトラン用の部屋に到着した。

 ずっとついてきていた侍従がカギを開ける。

 扉を開けて中に入ると、母上の仕事らしくきちんと調えられた家具類に、これも母上の心配りだろう、母上の庭園からとって来たと思われる鮮やかな花が、美しく活けられているのが目に入る。うーん、さすが母上。いい仕事する。


 ところで、前世での原作情報で思い出したことがある。攻略wikiでざっくり確認しただけなのだが、第二王子のトゥルーエンドで、俺、死ぬ。詳しいルートは思い出せないんだが、確か王になった後失政を招いて自殺に見せかけて暗殺されるんだわ。で、その暗殺に第二王子が関わっている説とか、そもそも失政を招いたのは裏で第二王子が手を引いていたからとかネットではいろいろ考察されていたはず。


 まあまあ、まだ焦る必要はない。俺たちまだ子供だし。好感度ならいくらでも挽回できるだろ。

 空気を呼んだ侍従たちが退室し、今はベルトランと二人きり。

 よし、まずはファーストミッション『弟の好感度を稼ぐ』だ。


 「さあ、ベルトラン。ここが君の部屋なわけだけど、気に入ってくれたかな。といっても、調度品は母上が手配したものだから私は大きなことは言えないわけだけど。もし不足があったら気軽に、」


 「......出て行けよ」


 ......はい?


 「出て行けって言ったんだ!お父さんに愛されていないくせに!いきなり出てきて兄貴面するなよ!!」


 どういうことだ!?

 なにゆえ好感度マイナススタート!?俺どっかで選択肢ミスってた!?



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