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ご対面、悪役令嬢


 呼ばれて俺が向かっているのは謁見の間......ではない。公式なものならともかく、今日は非公式での顔合わせなため、母上、つまり王妃が管理している応接室(サロン)にて行われる。

 とはいえ、結果ありきのお見合いみたいなもので、母上曰く、「あなたがテーブルで踊りだしたりしない限りは破談になったりはしません」らしい。母上の中の俺は一体なんだというのか。


 一言に応接室(サロン)といっても、目的にあわせて多くのものが造られている。著名な芸術家を呼んだり、いわゆる有識者たちを集めて議論したり、年頃の娘さんたちを集めたダンスパーティを開いたり。今回の顔合わせは、その中でも身内だけが集まってお茶や話を楽しむための応接室(サロン)で開かれることになっている。母上が手掛けている小さな庭園に面していて、そこに続く大きなガラス戸を開いて季節ごとに華やかな空間を楽しめるようになっている。女々しいと思われるかもしれないが、俺も結構お気に入りの応接室(サロン)である。俺の部屋からちょっと歩くのが玉に瑕だが。


 4歳児にはつらい長い廊下をひたすら歩き、ようやく目的の扉の前に立つ。一緒についてきていた侍従が中に取り次で、中の人物に許しを得てようやく扉が開かれる。


 「お待たせいたしました、母上」


 「待ちましたとも、イレイド」


 そういって鼻をツン、と上に向ける母上様ことディアナ・ネーエ・ヴァ―レイス。

 彼女はもともとヴァ―レイス帝国の友好国であるクシフスカ王国の王女だったのだが、クシフスカ王国が凶作に続く凶作による財政危機に陥り、直截な言い方をしてしまうとその援助をする見返りに父上と結婚した。そう、いわゆる政略結婚である。ちなみに夫婦仲はそれなりだ。良くもなく悪くもなく。お互いにお互いのすべきことをしましょうという、いわばビジネスライクな関係になっている。

 確かゲームでは第2王子、つまり俺の弟が攻略対象として存在していたはずだから、それなりに仲は良いのではないだろうか。それかもしくはこれからイベントがあるのか...。まあそれは置いといて。


 「それは、お待たせして申し訳ございません、母上。ところで、公爵とご令嬢はまだでしょうか」


 「()()()()()()()()()()()()()。.........ベル、公爵とご令嬢をお呼びして」


 「はい、妃殿下」


 指名を受けた侍従が一礼して退室する。

 あ、俺待ちだったのね...。そいつは申し訳ない。いやでも呼ばれてからすぐに来たぞ俺。侍従に担がれてでも急ぐべきだったのか?そんなまさか。

 そんな考えを遮るように、侍従が声をかけた。


 「妃殿下、王子殿下。クォレア公爵様並びにクォレア公爵令嬢がお見えになりました」


 「お通しして頂戴」


 「はっ」


 そうして開かれた扉の向こうに現れたのは、若そうなのにところどころ白髪の目立つ、しかしかっちりとした気品のある服装の男性。もちろん公爵であることをしめす家紋が特殊加工されたブローチを胸につけている。そしてその隣には、俺と同じ年くらいの、つやつやな金髪をくるくると巻き、その身を緊張でカチコチにしている女の子がいた。

 うーん、かわいい。俺前世の時からカロラインちゃんのビジュアル好きなのよね。こう、王道の貴族令嬢というかなんというか。別キャラのイベントでカロラインちゃんの小さい頃の写真がスチルで見れるのがあるんだけど、それがまさしくこんな感じのちまっとしたお人形さんみたいにかわいいのだ。その写真に写っていたのは無邪気で天真爛漫なカロラインちゃんで、こういう緊張してこわばっているような......。あれ、俺、何か忘れているような。


 「......イレイド、ご挨拶を」


 やっべーそうでしたわ。ありがとうおかあたま。

 

 「失礼いたしました、クォレア公爵、それにクォレア公爵令嬢。イレイド・アルト・ヴァ―レイスです。ようこそサロンへ」


 「いえ、こちらこそ殿下。ヴァルド・オンス・クォレアでございます。娘ともどもお招き預かり恐悦至極に存じます」


 そう、今回は俺が二人を母上のサロンに招いたという設定なのだ。

 母上は俺のお目付け役だから、基本気にしなくていいらしい。だから俺はどういう扱いなんだ。

 4歳児だからか?4歳児だからか...そういえばそうだな。


 「ご令嬢も、どうぞ楽になさってください。本日はアフタヌーンティと母上自慢の庭園を楽しんでいってくだされば幸いです」


 「これ、カロライン。お前もご挨拶なさい」


 「は、はぃっ。カロライン・グレース・クォレアでございますっ。ほんじちゅはおまねきいただきありがとうぞんじます、殿下っ。」

 

 「ええ、どうぞ楽しんでください」

 

 途中で噛んだものの、最後まで言い切ったカロラインちゃん。かわいい。

 彼女、一所懸命なんだよなー本当に。ゲームでも初期のパラ低めのヒロインに意地悪なこと言いつつも、成績は必ず上位に入っていたし、有言実行なところはあるんだよなー。なんでこんないい子が悪役令嬢にされちゃうんだか。


 挨拶も済んだところで、カロライン嬢の手をとり、俺たち用に用意されたテーブルにエスコートする。ここからは、大人は大人、子供は子供の時間だ。母上と公爵は、ここから少し離れた、話の内容が聞こえそうで聞こえない距離のところにテーブルを用意させ、何やら大人の話をするようだ。


 子供テーブルの方は、母上が用意させたお茶とお菓子のセットがある。俺はこういうのはさっぱりなのでよくわからんが、カロラインちゃんは目をキラキラさせてあちこち目移りさせているのでセレクトはばっちりなんだろう。さすが母上、いい仕事をする。後でお礼を言っておこう。


 「カロライン嬢は、この中ではどういったものがお好きなのですか?」


 「ふぁ、ふぁいっ!?えっと、えっと......」


 はぁ~~~困ってるカロラインちゃんまじ天使。全部食べてしまってもいいのよ。


 「あの、殿下、もしよろしければ、わたしのことはカロラインとお呼びください。だって、わたしたち、その...ふ、夫婦になるのですから」


 ふ、ふうふーーーーーッ!!!カロラインちゃんからそんな言葉を耳にするなんてッ!!早熟にもほどがあるんじゃないかしらッ。

 いや、そうとも言い切れない。どういう教育を受けているのかは知らないが、カロラインちゃんはもともと責任感が強いんだ。だから公爵家に生まれたものとして恥じることのないよう、学園でも切磋琢磨し、今この場でも「第一王子の婚約者(内定)」としての役目を一所懸命果たそうとしているんだ。

 ---------なんっつー健気!ぼかぁ感動しちゃうよ!!


 「で、殿下?なにかしつれいなことをもうしあげましたでしょうか...?それでしたら」


 「いやいやまったく!そんなことはありませんよカロライン嬢。いえ、カロライン。そう呼ばせて頂いても?」


 「は、はい!もちろんです!」


 「であれば、私のことも、ただイレイドとお呼びください」


 「ええっ!?そ、そんな、おそれおおいです!」


 「どうかそう仰らず。私にも、カロラインに名を呼んでいただく栄誉を授けて頂くわけには参りませんか」


 「は、はわわ......」


 はわはわカロラインちゃんかわゆす~。でも、いくら王族とはいえ、片方が名前で呼んで片方が殿下って寂しいじゃない。ゲームの中ではカロラインちゃんは俺のこと殿下って呼んでたけど。俺は名前で呼んでほしいのだ。


 「で、では、おことばにあまえて、い、イレイド...殿下」


 「んー、私の名はイレイドデンカではなくイレイドなのですが...」


 「い、いれ、イレイド.........」

 

 おっ


 「.................さま」

 

 ..................かわいいから許す。ま、こういうのは追々慣れていってくれたらいいよね。


 「はい、カロライン。なんでしょう」


 「こ、この中ではなにがお好きですか?わたしはどれもみりょくてきで、決められなくて...」

 

 あー、お菓子のことね。

 俺は最低限の作法は習い始めているが、前世も含めてお茶とお菓子をたしなむ経験は少ないからどうもこういうのは慣れなくて。

 うーん、どうしたものか。


 「実をいうと、私も決められなくて。どうせなら、全部少しずついただきませんか?」


 「えぇっ、そんな、いいのでしょうか...」


 「作法のことならお気になさらず。母上からは、私がテーブルでダンスを踊り始めない限りは大丈夫とお墨付きを頂いておりますから」


 「て、テーブルで、ダンス、ですか?」


 そういって口をぽかーんと開けて俺を見つめるカロラインちゃん。数秒で慌てて開いた口に手をやったが、そこからふつふつと笑い始めた。


 「テーブルで、だ、ダンス......」


 「カロラインはどんな踊りが好きですか?私は最近は平民がやるというブレイクダンスにはまっているんです。今練習しているのが、こう手をついて頭を逆さに、」


 「んーごほん!」


 テーブルに手をつき、お辞儀するように頭を下げると、母上のものと思われる大きな咳払いが聞こえた。

 恐る恐る席に着き、そろりと視線を向けると、そこは氷の世界だった。

 そうだよ俺「あなたがテーブルで踊りだしたりしない限りは」って言われてたのに。なんというフラグ回収。


 「ふ、ふふっ......」


 正面をみると、必死で笑いを押し殺しているカロラインちゃん。かわいい。

 いや、それどころじゃなく。

 

 「いや、失礼しました。本当にテーブルでダンスをするつもりはなかったのですが」


 「えぇ、もちろん分かっております。......イレイドさまは、とてもおもしろいかたなのですね」


 まじで?まさかの高評価。


 「そして、とてもおやさしい方です。...わたし、おあいてがイレイドさまでよかった」


 そういってほほ笑むカロラインちゃん。

 どこでそう思ったのかは知らんが、俺もカロラインちゃんが相手で良かったよ。


 そうして和気藹々とお話とお茶、母上自慢の庭園を楽しむこと小一時間。

 あっという間に結果が見えていたお見合いが終わった。

 大人の方でも無事、お互いに良きように計らいましょうということになったらしい。

 俺は二人が帰ってから母上にちょっぴりお小言を食らったが。

 

 俺とカロラインちゃんも、これから何度かお互いの家を行き来して交流を深めることになるのだろう。

 いづれは同じ学院に入ることになるのだし、一緒にお勉強イベントとかないかな。いや、ないなら作ればいいんだよ!

 学院は、ぶっちゃけ貴族にとっては未成年の社交場の一つのように捉えられていて、カロラインちゃんのように真面目でなければ大して勉強もせずに、家督を継いだり結婚したりといった形で早期卒業をしていく生徒が少なくない。俺はその辺り手を抜くつもりはないから、カロラインちゃんの存在はいい刺激になるだろう。


 そして、忘れてはならないのが、原作ゲームにおけるカロラインちゃんの取り巻き令嬢たちだ。彼女たちがどういうつもりで取り巻きになって、カロラインちゃんの名を借りてヒロインに陰湿な嫌がらせをしていたのかは俺には分からない。そこらへんに突っ込んでいくルートがあったのかもしれないが、俺は見てないからな。


 とにかく、今できることは、カロラインちゃんとの交流を深めつつ勉学や武芸に励むこと。それから他にも貴族の知己を増やすこと。ゲームの第一王子は広く浅い交友関係を持っていたが、それゆえにいざという時の求心力に欠けていた。万が一カロラインちゃんがあの断罪イベントに出くわしてしまった場合、発言力を得られるようにしておきたい。ゲームではもちろん第一王子も参加するんだが、発言力はあまりなく第二王子がイベントの主導権を握る場面が多い。弟に上をいかれて恥ずかしくないんかお兄ちゃんオラァ。今は俺がお兄ちゃんだけど。


 ......しかし、気になっていることがあるんだが。

 第二王子は俺の一個下のはずなのに、なんでまだ生まれてきてないんだろう?


前話を投稿してからすっかり忘れていました。

これからちょこちょこ頑張って書くのでよろしくお願いします。

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