転生したら
見切り発車です。
短めにしましたがもうちょっと長かったほうが良かったかも
とある駅ホーム上での歩きスマホから自業自得で死亡した俺は、その日の内にしゅぽーんと転生した。
いや、死んだら時間の感覚もなかったから本当にその日の内だったのかどうかは知らんのだが。
しゅぽーん先で暫しの間、もぐもぐぶりぶりむくむく育ち、自分の家や家族がなんたるかをのんべんだらりと知ったのである。
俺のいる場所を一息に説明してみよう。
ここは剣と魔法が飾る架空中世ファンタジー、
様々な国と地域を内包する最も広大なアトランティス大陸、
の中でも最大の領土と人口を誇るヴァーレイス帝国、
の次代王を担うであろう第一王子の部屋である。
俺が第一王子の侍従だからここにいるのかだって?
いや、そうじゃない。俺が、第一王子なのだ。
信じらんない?いっしょいっしょー俺も俺もー。
なぜ「架空」と言ったか。それは俺がこの世界を知っていたからだ。そう、生まれる前から。
俺がこの国にしゅぽーんする前にいた国日本では、男女問わず恋愛シミュレーションが人気ジャンルの一つとして確立していた。俺がやっていた頃はまさにゲーム開発の戦国時代、どっかでテンプレート配布したの?ってレベルのストーリーで、有名絵師と人気声優のネームバリュー頼みの作品が乱立しては絶えていった。
その中でも比較的息が長かったのが、俺もやっていた「夕陽にかかる虹〜あなたと誓う永遠〜」(全年齢対象)である。
シナリオとしては平民出身のヒロインが貴族たちが幅を利かせる学院に入学し、パラメータを上げながら攻略対象を落としていくという、いわば乙女ゲーの王道である。
男のくせに乙女ゲーやってんじゃねえって?馬鹿言え、こういうのは自キャラのパラを上げて周りの評価がグングン上がったり、逆に下げて評価が変わったりしていくのを見るのが俺流の楽しみ方なんだ。
なんならギャルゲーの恋愛シミュレーションゲームもやってたし、例え俺が女でもギャルゲーの恋愛シミュレーションはやっていただろう。
と失礼、関係のない話は置いておこう。
重要なのはさっきも言った通り俺が第一王子、即ちヒロインの攻略対象の1人なのだということ、そして学院入学時には許嫁がいてその子がいわゆるヒロインにとってのお邪魔キャラ、悪役令嬢だということだ。
そして一つ問題がある。俺は生前この第一王子ルートを攻略していないということだ。全キャラ共通の出会いイベント(無料)は見たんだが、それ以降進めるには無課金だと一キャラしか同時進行することができず、俺はこういう時だいたいメインキャラよりサブキャラとか隠しキャラの出現発生イベント探しに先走るというかつまみ食いしてしまうので、第一王子ルートのような王道キャラはどうしても最後に回してしまうのだ。
ただし、第一王子という立場もあり、他キャラのイベントへの参加頻度もそれなりに高く、本来の人柄や大まかなイベントは把握できている、と思う。あとちょっと攻略wikiで簡易攻略ルート見たし。
それらによると、第一王子は剣や魔法の才には突出した才は無いものの、穏やかに国を治める、という程度の手腕のはあるとのこと。他キャラのルートによってはあるルートに入った時の戦時中の能無しっぷりで玉座から引き摺り下ろされてしまうのだが。
そしてこの第一王子攻略ルートに欠かせないのが悪役令嬢、カロライン・グレース・クォレア公爵令嬢である。
彼女の厄介なところは、第一王子攻略ルートに入らなくてもヒロインに事あるごとに接触し、ちょっち意地悪な事をなんか言ってくるのである。そう、なんか言ってくるだけ。この言ってくるだけが非常にめんどくさく、彼女がなんか言うと、彼女の取り巻きたちが令嬢の言質をとったと言わんばかりに勝手にヒロインいじめを始めてしまうのだ。彼女自身からの好感度が下がれば接触もなくなるのだが、ただ放置しているとどんどん絡んできて最終的には乙女ゲーの伝家の宝刀「悪役令嬢排斥〜灰は灰に、塵は塵に〜」イベントが発生してしまう。
このイベント、やってる時は○転裁判のようで楽しいのだが、終わった時は非常に後味が悪い。ぶっちゃけカロラインちゃんはいじめの指示などしていないし、ただ取り巻きたちがやりたい事をやって罪も問われずに、カロラインちゃんだけが悪者として罰を受け、自主退学・婚約解消・実家放逐の憂き目にあってしまうのだ。
なお、実行犯だった令嬢たちは数も多くまた一人一人がやった事は軽いため、厳重注意または謹慎程度で終わっている。
酷くない?
彼女についてはまだ会ったこともないため大したことは言えないが、多分そんな悪い子じゃないと思うのよ。ツンデレとかそう言う。時代が追いついてなかった的な。
とはいえ肝心の第一王子ルートをやってなかったから、もしかしたら本当にヤバいことやらかしてて他キャラのルートでは実は被害がその程度で済んだんだぜ...ということもあり得るからなんともいえないが。
ただ今4歳、学院に入学する12歳まではまだまだ時間があるが、油断せず出来る限りのことをやっていこう。
前世の記憶という不純物の混ざった俺ではあるが、第一王子として生まれた以上、その地位に相応しいあり方というものを自分なりに模索していくしかない。
それがきっと、税金暮らしを約束された責務というやつだ。
扉を叩く硬い音が物思いから現実へと引き戻す。
扉脇に控えていたメイドが誰何し、扉を開けて伝令のメイドから引き継ぐ。
「イレイド殿下。クォレア公爵様並びにクォレア公爵令嬢がご到着されたとのことです」
「そうか。わかった、ありがとう。では御挨拶に行かなくてはね」
「はっ」
そう、今日この日は件の悪役令嬢ことカロライン・グレース・クォレアとの初対面の日でもあった。