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私は勢いよく2年∞組の扉を開けた。教室中の視線が私に向けられる。私は堂々と歩いて教卓の前に立つ。
「皆さん、先ほどは私の勝手な行動でお騒がせてしまい、申し訳ありません」
まずは謝罪。数秒頭を下げた後、自信満々の完璧な顔で教室の皆を見る。
「私は間違っていました。比べても仕方がないものと自分を比べ、その結果は勿論敗北。自信の喪失につながりました。ええ、私は愚かです。短距離走のプロより足が遅いと、計算機に計算勝負で勝てないと、そういう事に私は嘆いたのです。全く勝ち目がない勝負だというのに!」
ここで教卓を叩いた。
「少しいいですか」
縁なし眼鏡をかけた赤いモヒカンの男子が手を挙げていた。
私はどうぞと促す。
「室伏広治は短距離走の選手に匹敵するタイムを出していますし、ノイマンは計算機との計算勝負に勝利していますが、これらはどうお考えなのでしょうか?」
この男、細かい!そんな事、今はどうでもいいの。何も考えてないぞ私。初耳だし。イントロに過ぎないのだし。それに、ここを一々ツッコまれてグダるのも勘弁。
論点をずらそう。
「私の言い方が悪かったですね。人間である私の美貌を神と比べたのが間違いだったんです!人間が神に勝てますか!勝てないでしょ!」
だがモヒカンはまたも手を挙げた。
「ギルガメシュは神を殺したことがありますが――」
「待った!」
モヒカンの話の途中でそれを遮るように、遅れて来た美晴が現れた。
「ギルガメシュは3分の2が神よ。今の指摘は的外れよ!」
美晴にそう言われたモヒカンは、ぐっと呻くとうつむいた。顔がモヒカンと同じくらい真っ赤になった。
私は美晴にウインクで感謝を伝える。
「いいですか皆さん!私は確かに神には美貌で勝てません。でも人間の中でしたら最強です。生まれた時代と場所が違えば、国の一つは傾けています。クラスなら一つや二つ、軽々傾ける美少女です!」
その時、教室内から拍手の音が聞こえて来た。
拍手をしていたのは、私を散々悩ませた自称神の上宮ヘレナだった。
「一人でクラスを傾けるなんて、アンタとんでもない問題児ね!このクラスに流されたのも納得だ!アハハハハハ」
あ――そっか。
ようやく分かった。私がこの2年∞組にされた理由。
美しすぎたからだ。
私の美貌でクラスは崩壊するから、それを防ぐために――。
なんだ、私も問題児の一人だったってわけだ。
私も笑った。
なんだ、結局ここが私の居場所だった。もう今更あがいたところでクラスは変わらないし。他のクラスだと学級崩壊してしまう。それなら私はこのクラスでより美しく生きればいい。
私は再び前を向く。
「改めまして鳥月風花です。これから一年間よろしくお願いします!」