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島流し教室  作者: 綺麗な夕日
ここは私の居場所じゃない
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 有明美晴というクラスメイトにショックを受けた私は気を取り直して再びクラスの観察を始めた。

 後から知り合いが入ってこないか、さっき見逃した人はいないか。そんな期待を込めても、いないものはいなかった。

 ふと見ると一人の男子が扉の付近で何かをしていた。

 黒い剛毛をオールバックにし、大柄で毛深く悪人面した男子だった。手には何かの液体がいっぱい入ったバケツを手に持っていた。そのバケツに紐を括りつけると、扉の上部に持ち上げた。

 男子が扉を閉じて手を離すと、驚くことにバケツは空中で固定されていた。

 恐らく紐と扉、それに何らかの道具を組み合わせることで、何らかの作用が起こる。それを利用してバケツを固定したのね。物理は赤点の私には全く分からないけど。閉まった扉と空中のバケツ。ここから導き出される答えは一つしかないわ。

 扉を開くとバケツが落下し、開けた人に中の液体がかかる!

 あの男子――かなりの悪だっ!

「美晴、美晴!あれを見て」

 私が必死に扉を指さしたが、美晴は興味がなさそうだった。

 その時、チャイムが鳴った。タイミングからして恐らく朝のホームルーム開始を告げるもの。このままでは教室に入って来た先生がびしょ濡れになっちゃう!

 私の正義感が悪戯を止めろと囁いている。私は素早く立ち上がる。

 さっきの極悪男子はどうしているかしら――。

 私は教室を見回して極悪男子を探す。彼はすぐに見つかった。

 げっ。

 彼は非常にウキウキした様子で扉の上部を見つめていた。遠くから見ても分かる程に浮ついていた。元の悪人面と合わさって凄まじい形相だった。

 私は静かに席に着いた。

 アレに目を付けられるのは嫌だ。怖い。面倒くさい。

 私が内心ビクビクしている時、扉が開いた。吊るされていたバケツが落下する。床に勢いよく当たって、大きな音と共に中の液体がまき散らされる。

 さっきの悪人面男子が喜びのあまり、立ち上がって叫んだ。

 教室中の生徒の視線が扉へ向く。

 開いた扉。なんと――そこには誰もいなかった。

「な、なにぃぃぃぃ!?俺様のローショントラップがぁッ!」

 悪人面男子が叫んだ。

「さっすが、問題児だらけの島流し教室だな。おっかねえトラップ仕掛けやがる」

 廊下の方から声がし、扉の横から一人の男が顔を覗かせた。

 その男は軽々と床にぶちまけられたローションを飛び越えると教卓の前に立った。

 この人がこのクラス、私達の担任ね。

 黒髪のツンツンヘアで、笑みを浮かべていた。着ている長袖ワイシャツの襟はくたっとしていた。

 一見だらしないけど、どこかカジュアル。それが私の第一印象だった。

 「進級おめでとう。そして∞(インフィニティ)組への配属ご愁傷様」

 は?この先生、今インフィニティ組って言った?インフィニティ――∞と書いて8じゃなくてインフィニティ?

 2年インフィニティ組?

 だっさい。すっごくだっさい!

 インフィニティはあり得ないでしょ。だっさーい!これから私、インフィニティ組の鳥月風花って名乗るの?だっさーい!!

「皆、俺とは初対面だろうから、まずは自己紹介をさせてもらう。この春からドリアン高校で教鞭を執る事になった神津流哉(かみづりゅうや)だ。担当は古典と現代文だ。よろしくたのむ」

 神津先生はそこでチョークを手に取り、自分の名前を黒板に書いた。最初から書かれていた黒板アートを消さないように、先生は黒板の隅に自分の名前を書いた。

「皆も薄々気づいていると思うが、このクラス、2年∞組は問題児だけを集めて島流しにした――その名も漂泊教室だ。問題児の一人や二人なら毎年いるが、この教室が使われる事は基本的にない――らしい。だが今年は違うようだ」

 神津先生は一度言葉を止めて教室を見渡す。

「たった一人で学級の一つや二つ崩壊させかねない問題児――それも一人や二人じゃないと来たもんだ。聞いた話だが、去年の1組以外のクラスは、それはもう酷い有様だったらしい。ならいっそ、バケモンにはバケモンをぶつけようという提案を受け、このクラスが作られたんだそうな」

 カッコよく言っても結局はただの問題児じゃない?というよりも――え?問題児だけのクラス?え?それってつまり、え?

 私、問題児ですか!?

「俺もこのクラスの担任にされちった以上、できる範囲で頑張るから。皆で頑張って進級、卒業しよう!で、質問はあるか?」

 私はビシッと手を挙げた。

「えっと――鳥月さん」

 私は立ち上がると神津先生を真っすぐ見る。

「このクラスの場所や雰囲気から、何かあるんじゃないかとは思っていました。問題児だらけの島流し先というのも、ここに数分いれば理解できます。でも一つだけ分かりません。なんで私がここにいるんですか!?まるで私が問題児みたいじゃないですか!」

「そう言われても、俺が選んだわけじゃねえから、問題児と見なす基準は分からねえや」

 神津先生は髪を手でかきまわしながら困った様子で答えた。

「そんな話は聞きたくありません!それより、こんな島流し措置、人道に反する行為じゃないんですか!」

 人道に反するとなれば、世間が黙っていないでしょう。そしたら学校は世間の攻撃の的、それを受けて∞組は解体、元の文系クラスに私は戻ることが出来る!

 神津先生は人差し指を立てた。

「どうやら――上が関与しているらしい」

 上!?

「まさか――三十人委員会!?」

 三十人委員会とは、このドリアン高校を陰で操ると噂の謎の組織のこと。学校内では有名な都市伝説だけど、実際に存在しているのかは分からない。名前の通り、この高校の卒業生、教員、学生、PTAといった学校関係者の中から選ばれた三十人で構成されているらしい。噂でしかないけれど、大物官僚や地方議会議員、企業の重役が含まれていて、やたらと大きな権力を持っているとのこと。

 で、そういう権力を持った謎の組織はやっぱり妙な噂が付きまとう。

 振り返れば、私が一年生の時からこの高校では妙な事が多かった。

 校長先生が全裸で夜の校舎を徘徊したとの噂が広がったり。物理の試験で全ての解答欄に0を書いても0点だったり。副校長が大金をはたいて作らせた8分の1副校長フィギュアが中庭の池に浮いていたり。

 あの事件も、この事件も。思い返したらキリがない。あれら全てに三十人委員会が関わっていたという事ね!そして今度は変なクラスを作って、そこに私をぶちこんだ!悔しいけれど闇の組織が相手じゃ敵わない。

 強大な権力にただ恐れおののくしかなかった。

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