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私の名前は鳥月風花。たぐいまれな美貌を持つ、美少女高校2年生。その美しさが罪となり、普通のクラスを追われて2年∞組、別名島流し教室へと送られてしまった。
インフィニティ組という、ダサい名前が最初はショックだったけど、今ではもうこのクラスに慣れたし、友達も出来た。朝のホームルーム前、椅子に座りながら、新しい友達、有明美晴と談笑していた。
「で、どうだった?」
美晴が私に尋ねてきた。
「このアニメ、神回しかないの?」
「そうよ。これからもどんどん凄くなるわ」
私は先日、美晴からアイカツを勧められた。落ち込んでいた私を励ますためだったらしい。軽い気持ちで見始めたところ、私はハマってしまったのだ。まだ2話までしか見てないけれど。
「夢に向かって前向きに努力する女の子って尊いわね!」
私はやや興奮しながら言った。
美晴は満足そうに微笑みながら頷いている。
「朝からアイカツの話か。楽しそうだなァ」
私の背後から誰かが声をかけてきた。
「誰だっ!?」と言って振り返る。
そこに立っていたのは大柄で熊の様な男子だった。黒い剛毛をオールバックにし、学ランから見える腕は毛深い。首が太くて第一ボタンをはめられないようだ。
この男子の悪人面には見覚えがあった。
進級初日からローション入りバケツを扉の上にしかけた、あの不良だった。
不良は白い歯を見せて笑った。
「羨ましいなァ――俺様は学校で女児アニメの話をしたくても出来なかった。お前らと違ってな」
悪人面男子は私達の周囲をぐるぐると歩きながらしゃべり続ける。
「俺様には女児だった頃が無い。そんな俺様が女児アニメの話をしようとしたら、周囲のヤロウ共は俺様を笑った。笑った奴らは一人残らずぶん殴ってやったがな」
悪人面は拳をならした。
「そう――。でもそんな時代はもう終わりね。ここでは貴方を笑う人はいないわ。女児アニメの話をするなら、女児の心を持ってさえいればいいのよ。女児アニメは全てを受け入れるわ」
美晴がそう言うと悪人面へ手をさし伸ばした。
でも悪人面は人差し指をチッチッと振るだけだった。
「フッ。有明美晴、もう少し早くお前と会っていれば、ここまで惨めな思いはしなかったかもしれんな。だが――それはかつて女児だったお前だからこそ言える、余裕ある者の意見だ」
「どういうことかしら?」
「女の子は誰でも素敵な魔法使いとか、女の子は誰でもプリキュアになれるとか――長年受け入れられなった俺様の悲しみは永遠に分かるまい!」
美晴はグハッとうなった。
分からないし、分かる気もない。結局、他人の心なんて分からないのだと先日学んだ。それを教えてくれた当の美晴は顔に冷や汗を浮かべていた。
私は美晴に声をかけた。美晴は冷や汗をぬぐった。
「確かに彼の言う事にも一理あるわ。少し前まで、男子がプリキュアになるには転生して女子になるか、転生して原西孝幸になるしかなかったの。そんな男子の気持ちが私に分かるわけ無いわ」
人の気持ちは分からないというのを私に教えてくれたのはアンタでしょ。
私は悪人面の顔を見た。
「でもさ、今は男子もプリキュアになれるんでしょ。だったら――あなたも」
「今、間があったな。さては俺様の名前を覚えてないな」
悪人面、意外と鋭いぞ。
「そうかそうか。鳥月風花、お前は俺様の自己紹介を聞いていなかったんだな。いいだろう、お前へのスペシャルサービスだ」
悪人面は不敵な笑みを浮かべた。
「俺様の名は後白河大五郎。このクラスの頂点にたち、いずれはこのクラスを支配する男だ」
後白河はそう言うと私達に背を向けて廊下へと出て行った。