第四話
『親愛なる友人、ペストへ。
なんて気色の悪い出だしが良かったか?
まぁ、じゃが結果的に書いてしもうておるからなんとも言えんが。
久しいなペスト。元気か?』
まるで今この場にいるかのような言葉だった。
『まぁ生きておるかも正直わからんし元気かと聞くのも変な話じゃが、きっとお前は生きておるじゃろう。
本当は儂が直接言えたら良かったんじゃが、そうもいかない理由が出来てしもうてな。
その代わりと言っちゃなんじゃが、儂たちの自慢の娘を使いに出した。
どうじゃ? 儂によく似た可愛い子供じゃろ?』
「いい歳して自分の事を可愛いって言って恥ずかしくないのかしらね」
その言葉にサクラが恥ずかしがって少し笑った。
『あれから十五年の月日が経った。この手紙がお前の元に届くまで一体どれほどの月日が経っておるかは想像もつかん。
しかし、きっと届くじゃろう』
「えぇ、しっかり届いたわよ」
「ん?」
黙って聞いていたロゼが思わず声をあげる。
「おい、黙ってろよ」
「あ、あぁ」
シェルと小声でやりとりをする。しかし、この違和感はなんだろうか。
『サクラに託したのはこの手紙だけではない。
薬を用意しておる。
お前たちを治す薬じゃ。
儂はこの薬を不老不死の薬という認識で創った。
お前はともかく、アルビノは死の淵にいるじゃろう。
そこから抜け出すにはこれしかないと思うてな。
お前が今の状態から変化を恐れる気持ちはわかる。
じゃが、この薬を飲んでほしい。
言いたいことはそれだけじゃ。
リリーより』
「……なんだか変わらないわね。いえ、変わってないのは私達も同じか」
きっと今ペストの瞳は過去を視ているのだろう。どれほどの思い出があったのかはサクラにはわからない。だが、きっといい関係だったのだろうというのはわかる。
「もう一通あるの」
「もう一通?」
もう一つの手紙を取り出す。
『やぁ、アルビノ。元気かい。
僕の方はまぁまぁ元気だよ』
リンドウからの手紙だった。
『ごめん。嘘ついた。最近はあんまり調子がよくないんだ。
あの時の怪我がひどくてね。そろそろどうにもなりそうにないんだ。
実は、あの翌年に娘が産まれてね。僕、父親になったんだよ。
きっと君なら笑ってくれると思うんだけどどうかな。
僕が父親だよ? ほんと、笑っちゃうよね。
早く君にも紹介したいよ。僕たちの自慢の娘。
リリーによく似た子だよ。サクラというのだけどね。
きっとこの子は将来美人になると思う。
ただ、それが見届けられないのがもどかしい。
だからさ、君に見届けてほしいんだよ。
僕のお願いを聞いてくれるかい?』
「ちょ、ちょっと待った!」
「おい魔女、お前いいところで! 雰囲気ぶち壊すなよ」
声を大にして話を遮ったロゼ。それに異論するシェル。だが、ロゼは止まらなかった。違和感が確信に変わったからだ。
「シェル司教殿、君は今の違和感に気が付かなったのか!?」
「いや、どこに違和感があったって言うんだ。感動の手紙じゃないか」
ロゼは視線をゆっくりとシェルから、違和感に向ける。
「……この事件は今から二十三年前に起こった。そうだな」
「あ? あぁ、そうだ」
違和感。
「その翌年に……サクラが産まれているんだぞ?」
「それがどうしたってゆー」
思っていた年数と合わないのだ。
重く、口を開く。
「……サクラ、君はいったい、いま何歳なんだ?」




