第二話
そこに生物はいなかった。生命そのものが存在しなかった。動物も、植物も存在しない。中心部はまだ先だが、極寒の世界だった。吐く息は白く、まるで氷を吐いているかのようだった。
「この寒さってなんだろうね」
この地域はこんなに寒くなる場所ではない。雪すら珍しいだろう。だが、今この場は文字通り凍り付いているのだ。
「可能性は、一つある」
「どんな?」
「魔女の力だ」
「え? でも魔女って黒死病をまき散らしている魔女一人でしょ?」
魔女の力は一つだ。それはわかっている。
「あの時、例外が生まれたんだ」
「例外?」
「黒死の魔女は力を失い、人間に戻った。だが、あの時に再び魔女として再覚醒した。魔女に成ったら力が生まれる」
「二度目の覚醒……」
「そうだ。つまり二つ目の力を手に入れた可能性が高い」
「それがこの冷気ってこと?」
「たぶんな」
魔女の力を一度は失ったが、根本的なものは失われていなかった。再覚醒したことにより新しい力と古い力が同時に目覚めた。
「まぁ憶測でしかないが、おそらく当たっているだろう。世には出せない情報だがな」
「そうだよねぇ。教会側が知ったら大変そ」
二人はちらりとシェルを見る。
「シェル司教殿、聞いているのか。今、重大な事を話しているんだぞ」
二人が視線を送る先にはうずくまっているシェルがいた。
「……ぅえっ。ぐっ……き、きいて……うっ……」
はぁ、と二人は大きなため息を吐いた。完全に体調が悪くなっているのだ。顔は顔面蒼白で吐き気が止まらないらしい。もはや、立って歩く事も困難だろう。
「何が鍛えているだ。病が鍛えてどうにかなるものか」
「ごめん、司教様。お姉さんに同感」
「き、鍛えて、いる…から……うっ……この、てい……どで、すんでる……」
「はいはいわかったわかった」
呆れるしかない。
「お姉さん、そろそろ」
このまま、この状態が続いていたら先に進めない。ロゼの気の迷いにすがるしかない。
ロゼは頭を掻きながらシェルに手を突き出した。涙目にヨダレを垂らしながらシェルはそれを見る。
「私の手をとれシェル司教殿。そうすれば破邪の槍の効果で幾分か楽になるだろう」
間接的に破邪の槍と繋がればその恩恵が受けられるというのだ。主であるロゼを間に挟めばそれは可能だろう。
なぜかサクラがきゃーと言いながら両手で口元を隠している。
「いいか、先に言っておくが絶対に私の手を離すなよ。冗談抜きで離したら死ぬぞ」
この苦しみから逃れられるなら、どんな事も我慢できるといわんばかりにシェルはロゼの手をとったのだった。




