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魔女物語  作者: 夜行
終幕
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第一話



 世界は病に侵されている。


 それを止める為に旅をしてきた。病を止める事が出来るとは言い切れないが、自分たち以外には出来ない事だろうと自負している。


 夜道であろうとも迷わずに一歩を踏み出す。冷気だけが地面へ伝わり結界の外に少し漏れてる。気温は低くなり、口から吐き出す息は白い。深呼吸をすれば肺は寒いと悲鳴を上げる。


 夜空を見上げれば、大きな満月が自分たちを見下ろしていた。まるで観客のようにこれから起こる出来事を見せてもらおうかという声が聞こえてくる。


 不安など一切ない。あるのは自信だけだった。



「ここで待とう」



 正直に言って、どこからが結界の堺かがわからない。あまり近づいたら飛ばされてしまう。



「もう時間?」



「あと少しでしょうね」



 短く端的に言葉を交わす。



「結界が解かれれば、黒死病が流れて来るだろう。二人とも準備を」



「うん」



「おう」



 返事をしてサクラは狼の毛皮を被った。



「ロキ、これが最後かも。力をかして」



 サクラの奥の手はこれだ。狼の毛皮を被ることにより、その力を身に宿す。その最たる力は再生能力だろう。たとえ黒死病にかかったとしても、その瞬間から治癒が始まり広がる前に死滅させる。これがサクラの作戦だった。


 ロゼは破邪の槍を持っている。その加護は絶大なので悪しき力は消し飛ぶ。持ち主であるロゼは黒死病にかかる事はありえない。



「……シェル司教殿、準備は?」



 何やら嫌な予感がしてロゼはシェルに聞く。



「準備は出来ている」



 何を準備したのかわからない。特別何も変わってないように思える。



「司教様? 黒死病にはどうやって対抗するつもりなの?」



「私は鍛えてありますので大丈夫です!」



 その言葉を聞いてロゼは頭をかかえた。事前に聞いとけばよかったと自分を責めたくもなってくる。本当に攻めたいのはシェルの事なのだが、呆れてものも言えない。



「馬鹿だ馬鹿だと思っていたがここまでの馬鹿だとは……」



「ネー……」



「はい?」



 ここに来て問題にぶち当たってしまった。しかも結構重大な問題だ。さらに問題なのは本人が気が付いていない事だ。それがどうにも厄介だった。



「お姉さん、どうしよ」



「う~む」



「何を悩んで――」



「五月蠅い。ちょっと黙ってなさい」



 こちらの気持ちも知らないでこの馬鹿司教は、と毒づく。サクラがフォローに入ることはなかった。


 悩んだ末にロゼは一つの選択肢にたどり着く。もうこれしか方法はないだろう。あんまり気が進まないが、ここまで来たのなら仕方ない。



「とりあえず、進むか」



「え? でもそれじゃ司教様が……」



 当然、黒死病にかかって死ぬリスクが高い。というか死ぬだろう。ここで見捨てるつもりなのかとサクラは不安になる。



「馬鹿には現実を突きつけるべきだ。その後、私の気が迷ったら助けてやろう」



「気が迷うことを祈るよお姉さん……」



 前途多難。しかも原因は仲間。ロゼはため息しかでなかった。だからと言ってここで引き返すわけにはいかない。もう自分たちの後ろに道はないのだ。


 三人は前だけを見据える。


 すると薄っすらと霧のようなものが視えてきた。



「結界が解かれ始めている」



 これはどっちの結界だろうか。結界は二つある。黒死病を止める結界と中に這入らせない結界だ。



「そういえば、どっちがどっちの結界を張ったんだろうな」



 ロゼはふと口にだした。



「あ~まぁ、たしかにな。でも普通に考えるなら教会側が黒死病をとめる方だろう」



「うん、私もそう思うよ」



「ですよね。結界に這入らせない方は人の力を超えている気がしますし」



「まぁ同感だな」



 つまり、結界に這入らせない方の結界は絶対に解かれるはずだ。それはネルとやりとりをしたのでわかっている。だが、それが解かれたかどうかの判断は行ってみないとわからない。



 そして教会側の結界は解かれたかどうか判断はしやすい。



「と、ゆーことはだ」



「司教様のお父さんは結界を解いてくれたってことだね」



 お父さんという言葉にシェルはしかめっ面になる。


 黒死病を閉じ込めている結界が解かれて霧のようなものが視えてみたと判断するならばそういう事になるのだろう。



「かくして二つの結界は無事に解かれましたとさ」



 ロゼがナレーションのよう言った。



「終わったみたいに言うなよ。ここからが本番だ」



「わかっているさ」



 これが最後のおちゃらけだと言わんばかりにその顔は引き締まる。結界が解かれないという不安はなかった。きっと運命力が作用しているかのように、当然にそれは解かれて結果的に黒死病を止め、世界は救われる。三人は本気でそう思っている。



「いこっか」



「行きましょう」



「あぁ、行くか」



「「「世界を救いに」」」



 三人は声を合わせて一歩を踏み出した。


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