第十九話
「あれ? 二人でなにやってんのさ?」
「ウィル」
ウィルは何やら不思議そうな顔をしてこちらを見る。
「ちょっとデートをな」
ふふん、と鼻を鳴らして自慢気に言う。そこでウィルは理解できない事を考えるように首が右にぐいっと曲がった。
「……いや、デートはいいんだけど、なんでこのお嬢さんなんだい?」
「可愛いから」
即答で返す。するとウィルの今度は首が左にぐいっと曲がる。
「僕はてっきり……」
と途中まで言って言葉を切って沈黙する。まるで突然電池の切れたロボットのようだ。その様子を見て今度はシェルとサクラが首をかしげる。
「司教様?」
サクラが声をかけると瞳だけがサクラを見据えた。
「う~ん。世の中には不思議な事がいっぱいだね」
「そ、そうだね?」
何を言っているのか、何が言いたいのかわからなかったサクラは曖昧に返事をした。
「ふ~ん……」
ウィルはそのまま何かを考えながらその場から離れていく。
「なんだあいつ」
友の不可解な行動に理解がおいつかない。
「司教様、司教様っていつもあんななの?」
「まぁ、おおむね、あんなのですね」
突然現れて、意味のわからない事を言って去っていった。いったいなんだったのだろうかと呆気にとられてしまう。
「忘れましょう。私達は今、誰にも会いませんでした」
「そ、そうだね。世の中ってふしぎっ」
無理矢理頭の中を整理して次の建物を見て回った。
ロゼは静かにページをめくる。
いったいこの本は誰が書いたのだろうか。お粗末な点がいくつもある。もしかしたら、これは翻訳した写しなのかもしれない。誤字が多いし、文脈が抜けているような箇所も多々ある。
だが、それでも伝わってくるものがあるのはたしかだった。
気が付けば時間は過ぎ去り、残りのページはなくなっていた。文章の最後に『終わり』の文字を読んだ時、寂しくも満足感があった。この感情はなんだろうか。この高揚感はなんだろうか。これで終わりか? たしかに良い終わり方だった。これ以上にないくらい良い終わり方だった。だが、それを認めたくない自分がいた。
それはなぜだ?
「……続きが読みたい」
この物語はこれで終わりだ。続きなどありはしない。だが、そう思わずにはいられなかったのだ。
この感情を収めるには上書きをするしかない。ロゼはもう一冊の本をとって読み始めたのだった。




