第十六話
建物から出る際に、三人は一言も話さなかった。全員が無言で来た道を戻った。正直なところ、帰り道がまったくわからなかったが、サクラを先頭にした事でそれは解決した。ロキが匂いを辿って迷う事なく道を進んだのだ。
建物を出ると、日はすっかり暮れていた。そんなに長い時間あそこに居たようには感じなかったが、どうやら濃密な時間だったらしい。
開口一番、口を開いたのはシェルだった。
「大変申し訳ございませんでした」
小さく土下座をして二人に謝った。その理由は二つだろう。自分のせいで、この作戦が台無しになるかもしれない事。もう一つが自分の過去についてだ。
「たしかに、前もって言ってくれていればもう少しはやりようがあったかもしれないな」
縮こまるシェルの背中に腰をドスンと下ろしてロゼはご立腹だった。
「君がどのように生きてきたかは知らん。大事なのは結界を解く事だ。君の私情など、なお知らん」
足を組み、腕を組み、ロゼは怒りを静かにシェルへと向ける。いつもなら反発するシェルだが、今回ばかりは頭が上がらない。
「終わった事は仕方がないよ。大事なのは過去じゃなくて、今でしょ」
その言葉にパァっと顔を明るくするシェル。
「誰が顔を上げていいと言った?」
すぐに額を地面へとつけるシェル。
「もう。いいからっ」
サクラは呆れたように言ってシェルを立ち上がらせる。
「司教様。正直なところ、教皇様が結界を解いてくれる可能性ってどれぐらいあると思う?」
「……どうでしょう、ね。あの人が教皇という立場ではなく、父親という立場を意識すればあるいは……」
「妥当な判断だな。教皇の立場としてなら絶対に解かない。私でもわかる。しかし、父親としてとなるとそれまた可能性は薄い気もするがな」
「まぁ、もう信じるしかないよ」
「私はあまり信じたくはありませんが」
信用や信頼という言葉はこの親子間には存在しない。お互いが親子と知っていながら、今の今までそれを相手に言わなかったのだ。今更、という事なのだろう。
「まだ、数日あるし、それまではここにお世話になろう。わたしたちが滞在してるってわかるだろうし、それまでに何か進展か連絡があるかもしれないから、わかりやすい場所にいるのがいいと思うんだけど。司教様、どっか泊まれるところってある?」
うーん、と頭を悩ませるが、魔女一人を教会に匿う事になるのだ。さすがに場所は選ばれる。
「では、私の部屋に行きましょうか」
「「行く行……え?」」
サクラとロゼは顔を見合わせたのだった。




