第十四話
「ま、でも、司教様は司教様だし」
「まぁそうだな。そんな事を言えば私だって元人間だ」
何をいまさら。
そう思い、二人はシェルではなく、教皇に視線を向けた。
「なるほど、これぐらいでは揺らがぬか」
「当たり前でしょ? 今の勝負はわたしたちの勝ちだから、教皇様はわたし達の言う事を聞く義務があると思うけど」
「義務か」
逆手にとって今度はこちらか攻撃をする。
「魔女と手を組んでいる者の言う事をのむと思うか」
「思いますね」
そう言ってシェルは立ち上がった。
仲間が援護してくれた。だが、ここの主役は自分だ。最高の一撃をお見舞いしなければ格好がつかない。二人の期待に応える為にも、黒死病を止める為にも、ここで引くわけにはいかないのだ。
「魔女は悪だ。魔女は理解が遠く及ばない。存在するだけで罪なのだ」
「その魔女を――」
シェルの声が低く唸るように言葉を振り絞る。そこから出るのは罪か赦しか、はたまた憤怒か。
「その魔女を、母さんを愛したのは、あんただろう!」
教皇は一瞬だけ眼を見開いた。
「……なんだ、知っていたのか」
「え? ちょ、っと待って。んんー? どういう事? つまり?」
情報量が多くて頭がパンクしそうになるサクラにロゼが最終的に答えを渡す。
「つまり、教皇がシェル司教殿の父親と言う事になるな」
「えーーー!?」
「すべてに合点がいった。私達がここにいる事も、ここにたどり着けたのも、それですべて説明がつくな。しかし、教皇が魔女と繋がっていたとは恐れ入る」
シェルの友人であるウィルもこの事を知っていたのだろう。だからあんな物言いをしたのだ。君にならなんとか出来るかもしれないと。そしてだからこそ無理かもしれないと。
親子としての情と反発心。それがどちらに転ぶかはこの親子の歩み寄り次第だ。
教皇は深く眼を閉じた。それは過去を視ているのだろう。
「あんたは俺に借りがある!」
声を高々にそう告げた。その言葉に教皇は今を視る。
「借り、だと」
「そうだ。どんな償いをしても返しきれない借りだ!」
そう言われてさすがに察しがついたようだった。
「彼女は、徹頭徹尾、魔女だった。それは彼女本人が望んだことだ」
「うるさい。過程などどうでもいい。結果がすべてだ」
「私は間違いなく、彼女を愛していた」
なだめるように、罪を悔いるように、懺悔をするように、小さな声で囁いた。
「その――母さんを、殺したのはあんただろ!」
教皇は再び眼を閉じる。
「じ、自分の妻を、殺したのか……」
ロゼが声を震わせて言った。サクラは何も言わなかった。
「……私は人間で、人の世界を護る義務があるのだ。それを彼女は理解していた」
「だからと言って――」
「魔女、いい」
シェルがロゼを遮る。
「結果がすべてだ。母さんはたしかに理解していた。それでも結果がすべてだ」
静寂が広がった。次の言葉を誰も発せられずにいる。自分たちはここに何をしに来たのだろうかと思うほどだった。それでも自然に言葉は出た。
「きっと――」
静寂を切り開いて、サクラに視線が集まる。
「きっと、誰も悪くないよ。しいて言うなら、時代が悪かったんだよ」




