第十三話
「率直に言います教皇様。旧アルヴェルトを覆う結界を解いてほしいのです」
「なぜだ」
「私達で黒死病を止めます」
説明はいらない。結果だけを端的に伝える。無駄な言葉は不要だ。そんな説明をしないと真意を理解できないほど教皇は馬鹿ではない。
「教会が張った結界を解いたとして、結界はもう一つ残っている。我々ではどうしようもない結界がな。それは無意味な行為だろう」
教皇はそう言って不意にロゼをちらりと見る。
「いや、なるほど。そういうことか。それで魔女を連れているのか」
「あちら側とは既に話はついています。次の満月の夜に結界は解かれます」
「そこまで手を回しているとは。しかし、黒死病を止めれるという確証は何もない。お前たちが失敗すれば、そのスピードは広がり世界は死滅する可能性が出て来る。そんな危険な賭けが出来ようものか」
ごもっともな意見である。だからと言って引き下がる訳にはいかない。
「問題ありません。黒死病は絶対に止めます」
理由など説明する必要はない。結果だけだ。それがすべてなのだ。
「口ではなんとでも言える。許可することは出来ない」
「それならばなぜ、私達をここに招いたのですか?」
「…………」
教皇の言葉が止まる。詰まったというよりも言葉を選んでいるのがわかった。
「魔女にそそのかされたか」
「魔女は関係ありません」
「どうだか」
ここで教皇はサクラとロゼが耳を疑う言葉を口にする。それは考えもしなかった出来事だった。そしてなぜシェルが司教にもかかわらずに二人と、しいて言えばロゼとかかわりが持てたのかという理由になってくる。
「所詮、魔女の子か」
サクラは一瞬、自分の事を言われているのかと思った。だが違う。教皇の言葉と視線はサクラではなく、シェルへと向けられている。
「え? 魔女の、子? だ、誰が?」
キョロキョロと三人の顔色を見渡すサクラにロゼが答えを渡す。
「……シェル司教殿、しかいないだろう」
魔女の子は必ずしも魔女ではない。そして、必ずしも性別が女であるという事はない。
「司教様が、魔女の子?」
自分と同じ。母を魔女に持つ子。シェルはサクラが魔女の子というのを知っている。なぜ、その時に実は自分もそうなのだと言わなかったのだろうか。サクラはそんな事を考えてしまった。
「サクラ」
その思考を察知して止めたのはロゼだった。
「言わなかったのではない。言えなかったのだろうさ。曲がりなりにもあれでも司教だぞ」
「ほう。魔女が司教をかばうか」
「一言多いぞクソ魔女」
いつかはこの事を言わなければならない時が来るだろうとシェルは思っていた。隠し通せる事ではない。旅をしていてそれを痛感したが、言えるタイミングがなかった。そして、そのタイミングが今なのだろう。




